第16話「勇者プラス魔王の凄まじい能力を、 いろいろなシーンで存分に試してみたいのである」
手をつなぎ、笑顔で市場から戻って来たロジェとアメリー。
出かける時よりも、ふたりの仲が更に深まっているのを見て、
オルタンスは目を細める。
絶対とは言い切れないが、娘に彼氏が出来る事に関して、
同性の母親の方が、父親よりも寛容だ。
3人は、買って来た食材を魔導冷蔵庫に仕舞う。
魔導冷蔵庫は、買って来た食材でいっぱいになった。
パタンと扉を閉めたアメリーはにこにこして、オルタンスへ言う。
「お母さん、今日はロジェ様のお陰で、楽しく買い物が出来たのよ」
「まあまあ、それは良かったわね」
という母娘の会話を聞きながら、ロジェは昨夜と同じく手伝いを申し出る。
「オルタンスさん、アメリーさん、朝食の支度も手伝わせてください。何でも言ってくださいよ」
ロジェの言葉に、オルタンスとアメリーは顔を見合わせ、頷く。
何を伝えるかは、母娘で通じ合ったようだ。
告げるのはアメリーのようである。
「ロジェ様、とりあえず、パンが焼けるまでは一旦休憩で、スタンバイしていてください。午前6時にパンが焼きあがるので、私と母でトングを使い、大トレイに回収します」
「はい!」
「ロジェ様は、大トレイからトングを使い、焼きあがったパンを取って、個別に皿にのせ、刻んだ生野菜のサラダも添えて貰えますか?」
「了解です」
「その間に私は煮込んでいるスープの味加減を確認し、母がガンガン、スクランブルエッグを作りまくります」
「はい」
「昨日お伝えしたように、朝食の開始は午前7時です。お客様が食堂へいらしたら、トレイにロジェ様が盛り付けたパン、サラダの皿と、私が注いだスープのコップと、母が盛り付したスクランブルエッグの皿をセットして運んでください」
「了解です」
「そこから随時、私とロジェ様で厨房と食堂を往復しながらトレイにセッティングし、昨夜のように運びます」
「成る程、段取りは理解しました。任せてください」
これで打合せは終了。
しばし、休憩した後に戦闘開始!
パンが焼きあがり、アメリーとオルタンスがトングで大トレイへ回収。
それをロジェが個別に皿にのせ、刻んであった野菜も適量ずつ皿にのせて行く。
とそこへ、アメリーが味見をしたスープを並べたコップに次々に注いで行く。
そしてオルタンスは、手早くスクランブルエッグを作り続け、皿にのせる。
そうこうしているうちに、午前7時に近くなり、食堂へ客の気配が……
ロジェは、パンとサラダの皿、スープのコップ、
スクランブルエッグの皿をトレイにセッティングし、食堂へ持って行った。
第一陣で来た客は、計3人である。
「アメリーさん! お客様3名です! 後2セット、用意、お願いします!」
「分かりましたあ! セッティングし、すぐ1セット持っていきますから、残り1セットはお願いします!」
「了解! すぐ戻ります!」
これまた昨夜同様、ロジェとアメリーの息はぴったり。
スムーズに朝食の配膳が行われたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約2時間後、午前9時となり……
客が摂る朝食の時間が終わり、
ロジェとオルタンス、アメリーの母娘がまかないの遅い朝食を摂っていた。
まだチェックアウトの客が来ないので、3人で一緒に食事を摂っているのだ。
「お疲れさまでした! ありがとうございました!」
「昨夜に続いて、本当に助かりました!」
オルタンスとアメリーは感心仕切りである。
何かにつけて、ロジェを褒めちぎった。
ロジェは初めて宿屋の仕事を手伝うと言うが、何でもそつなくこなす。
また気が付いたら、ささっと客の食事済みの食器を下げたり、洗い物をしたり、
臨機応変に働くからだ。
……そんなこんなで、朝食を食べ終わり、3人でお茶を飲む席で、
「ところで、ロジェ様は今日これからどうされるのですか?」
とアメリーが尋ねて来た。
「はい、アメリーさん、出来る事なら残って、ベッドメーキングや部屋の清掃を手伝いたいところですが、ごめんなさい、出かけます」
「……そうですか。お出かけになるのは、昨日おっしゃっていた冒険者ギルドへでしょうか?」
「はい、そうです。冒険者登録をして、ランクを判定し、認定もして貰います」
「……やはり冒険者におなりになるのですね……とても危険ではないでしょうか? かぎ爪団をひとにらみで追い払うロジェ様の強さは充分、分かりますが……」
表情を曇らせるアメリー。
本当にアメリーは優しい。
そして、助けてくれた、頼りになるロジェを慕っている。
腹黒いマルスリーヌ王女とは大違いで、
真摯に心配する波動が伝わって来るのだ。
愛し愛されるって……心が温かくなるなあと、ロジェも嬉しくなり、
「ご心配して頂きありがとうございます。ただ冒険者になり、自分の力を試してみたいのです」
と答えた。
……これは、ロジェの偽らざる本音である。
何か機会があれば、あれこれテストをしているのだが、まだまだ物足りない。
備わった勇者プラス魔王の凄まじい能力を、
いろいろなシーンで存分に試してみたいのである。
但し、どこかのクランに所属すれば、得た能力が他者に知られ、
特別な存在なのだと認識されてしまう。
それゆえロジェは、たったひとりの『ぼっち』で……否!
ソロプレイヤーで活動するつもりだ。
まあ、ソロプレイヤーと言っても、従士の魔獣ケルベロスは召喚するが……
しかし当然ながら、ソロプレイヤーで冒険者稼業を行うのは、
余計な心配をさせてしまうので、アメリー、オルタンスには内緒である。
「絶対に無理をしてはいけませんよ。いざとなったら逃げたって構いません。依頼を完遂出来なくても構わないんです。生き残り、無事で帰って来る事が第一ですから」
そう念を押すアメリーの顔を、母のオルタンスは悲しげに見つめていたのである。
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