第3話「こうして魔王以下魔王軍は、ラウルによって完全に討ち果たされたという事が、 王国軍立ち合いのもと、確認された」
ケルベロスの話は終わった。
『……………という策だ。やってみるか? 主よ』
『ああ、やってみるよ。但し万が一だが、俺を大事にしてくれるのなら、マルスリーヌ王女と人生を共にする将来も視野に入れるよ』
『そうか。あの悪女が改心するとは思えんが、主の人生だ。好きにするが良い』
『ありがとう! ケルベロス』
『うむ、では最後に、原初の魔王の遺言を改めて自身で聞くが良い。魔王の能力を継承した今の主ならば、魔族語も理解出来る。遺言の内容をしっかり覚えておくのだぞ』
『ああ、俺、記憶力は良いから、聞いたら絶対に忘れないよ』
『うむ、ではこの宝物庫最奥の壁に描かれた魔王の紋章の下へ赴き、心で念じてみるが良い』
『了解!』
返事をしたラウルは、すっすっと、宝物庫の奥まで歩いた。
魔王の紋章の真下に立つ。
ラウルが立つと、まるで待っていたかのように、紋章から再び言葉が発せられる。
普通の人間には全く理解出来ない魔族の言葉だ。
ラウルは目を閉じ、じっと原初の魔王が発する言葉を聞いた。
そして全てを暗記した。
魔王は最後に告げた。
力をどう使うのかは、継いだ者の意思に任せると。
また、心で念じれば、再びこの言葉が聞こえるだろうと。
『……分かりました。勇者の俺は、貴方の魔王の力も受け継ぎ、これから生きて行きます』
ラウルが心で念じると、壁に浮かんでいた魔王の紋章は消え去り、
声も聞こえなくなった。
ラウルは振り返り、控えていたケルベロスへ声をかける。
『これで良し。魔王城近くの森で待っている王国軍の司令官へ、魔王討伐完了の報告へ行こう』
『うむ、作戦の発動だな』
『ああ!』
頷き合ったラウルとケルベロスは、魔王城の宝物庫を出たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……ラウルは、魔王城から少し離れた森にやって来た。
一緒に城を出たはずの魔獣ケルベロスを何故か連れていない。
実は既に『作戦』が発動していた。
ラウルはケルベロスを、一旦異界へ帰還させたのである。
さてさて!
指定された森のとある場所には、パピヨン王国軍の一個連隊500名が野営し、
待機をしていた。
この場から、ラウルはケルベロスを連れ、魔王城へ乗り込んだのだ。
パピヨン王の厳命により、本来は加勢すべき王国軍を待機させ、
ラウルだけを『捨て石』にした事は否めない。
しかし、勇者として覚醒したラウルにとって、
500名の王国軍同行は、魔王軍と戦うにあたり却って足手まといであり、
逆に「これ幸い」となっていた。
だが、ラウルを単身で魔王城へ赴かせたという事で、
生粋の騎士であり、正義感あふれる王国軍の司令は、
本当に申し訳ないという顔つきである。
「おお、勇者ラウル殿、よくぞ、ご無事で! それで魔王は?」
「はい、ご安心ください。討伐は大成功です。城に巣食う魔王、眷属ともども全て倒しましたので、パーフェクトに任務完遂です」
「お、おお! さすがですね! おめでとうございます!」
「そしてこれが戦利品です。後程分かりますが、邪悪なもの、ガラクタなどはオミットしました」
ラウルは収納の魔道具を司令へ渡す。
司令は戦利品が入った収納の魔道具を押し頂く。
「おお、ありがとうございます。確かにお預かり致しますぞ!」
すぐに、魔王城でゲットした戦利品の確認が為された。
魔法の合言葉を唱え、収納の魔道具より、数多の宝物が出されたのである。
確認が終わり、再び収納された戦利品。
笑顔の司令へ、ラウルは言う。
「更に、司令には魔王城においての現場検証をお願いします」
「分かりました! ところで、いつも連れている狼風の魔獣はどこですか?」
「はい、残念ながら、魔王軍との戦いの最中、行方が分からなくなりました。生死不明です」
「おお、それは残念ですね。召喚した魔物とはいえ、あの魔獣は、ラウル殿に忠実に仕えていましたから」
「ええ、辛いです……」
司令を騙すのは心苦しかったが、ラウルの人生がかかった作戦である。
誰かが死んだり、怪我をするわけではないので許して欲しいと、
ラウルは心の中で謝った。
更にラウルはしかめっ面で言う。
「それと自分も、安堵し過ぎたのか、全身が倦怠感に襲われ、全く力が入りません。後は宜しくお願い致します」
「おお、そうですか。相当お疲れのご様子。魔王を倒すのに、ひどく無理をされたのですなあ。後は我々王国軍に任せ、ご自愛ください。但し、現場検証の立ち合いだけはお願いしますぞ」
「ええ、それはお任せください」
……という事で、ラウルは、司令以下一個連隊を連れ、魔王城へ。
ラウルを先頭に、無人の魔王城を王国軍一個連隊は恐る恐る歩いて行く。
当然、魔王城には誰も居らず、邪悪な気配もない。
後日、この城は接収されるであろう。
こうして魔王以下魔王軍は、ラウルによって完全に討ち果たされたという事が、
王国軍立ち合いのもと、確認された。
「さあ、司令、王都へ戻りましょう」
「は! 本当にお疲れ様でした! 全員、ラウル殿へ敬礼!」
司令以下、王国軍500名は、ラウルに向かい一斉に敬礼をしたのである。
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