第28話「念の為、変身魔法を使い、 ロジェとは全く違う別人――30歳過ぎの栗毛男に擬態する」

冒険者として正式にギルドへ登録された事を報告すると、

オルタンスは自分の夫――アメリーの父が冒険者であった事を、

そして依頼遂行中に亡くなった事を明かした。


するとアメリーは、悲し気な眼差しで、


「ええ、私……亡くなったお父さんが大好きでした。優しくて強くて……自慢のお父さんだったんです……それがいきなり居なくなるなんて……凄くショックでした……」


「ですから! ロジェ様! 絶対に命を大事になさってください! 依頼を遂行出来なくても構いません! 逃げてもいいんです! 必ず生きて戻って来てくださいませ!!」


など、絞り出すように声を震わせた。


そんなアメリーの言葉を聞き、


「分かりました! 決して無理はしません!」


とロジェは約束するしかなかった。


するとアメリーは涙ぐみ、


「本当ですね! 約束ですよ!」


と言いつつ、ロジェの手をぎゅ!と握って来たのだ。


そんなふたりを見て、オルタンスも涙ぐみ「うんうん」と満足そうに頷いていた。


そしてアメリーは、


「ロジェ様は明日、すぐ依頼を受けに行くのでしょうか?」


と心配そうに尋ねて来た。


……ランクCのソロプレイヤーに妥当と判断される依頼の取りまとめを、

業務課職員クリスことクリストフ・ジュベルへ頼んでいる。


その作業はしばらく時間を要するだろう。


すぐに依頼を受ける状況にはならない。


なのでロジェは答える。


「いえ、アメリーさん。職員の方へ依頼の調整をお願いしています。その上で依頼を受けようと思います」


「な、成る程」


「それと俺、しばらくはソロプレイヤーで行こうと思っています。地道に依頼をこなしてから仲間を作る事は考えます」


「えええ!? ロ、ロジェ様おひとりで!? 依頼遂行を!? だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫です。身の丈に合った遂行確実な依頼しか受諾しませんから」


という会話をすると、アメリーはようやく納得し、

ロジェへの追及をやめてくれた。


……すぐ依頼を受諾しないのは、当初からの予定通り。


まず、この王都内の愚連隊どもをかぎ爪団同様、

健全な労働集団に変えねばならない。


早速今夜から始めるつもりだが、その処置には数日かかるとみている。


愚連隊への処置終了後、ギルドへ赴き、クリスと打合せをしようと考えていたのだ。


……それから一気に場がなごみ、甘えたかったのか、


「あの、ロジェ様、明日も市場へ、私と一緒に行って頂いてもよろしいでしょうか?」


とアメリーから尋ねられ、ロジェが


「はい、喜んで」


と快く答えれば、彼女は小躍りするくらい、大喜び。


……とまあ、そんなこんなで、あっという間に午後10時を過ぎた。


後は、厨房での洗い物と後片づけ、明日の朝食の下準備である。


ロジェが再び手伝いを申し出ると、オルタンスとアメリーはさすがに恐縮したが、

3人で行う方が早く終わると説得。


午後11時には、白鳥亭におけるその日の全ての作業が終了したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


白鳥亭の手伝いで、思ったより遅くなってしまったが、

これから、愚連隊への『処置』を行わなくてはならない。


ただ、7つの愚連隊全てを一度に処置するのは難しい。


朝の早朝、アメリーとまた市場へ買い物に行く約束をしているし。

 

……という事で、とりあえず今夜は、

かぎ爪団の縄張りに隣接する縄張りを持つ、『毒蛇団』『竜巻団』ふたつの愚連隊を無力化し、『健全な労働集団』に変える事にした。


ロジェは昼間着用したものとは別の、予備の革鎧を着込むと、

先ほど、かぎ爪団のアジトでマーキングした地図を見る。


これから赴く愚連隊アジトの位置をチェックしたのだ。


そして、索敵を最大範囲で張り巡らす。


まともに白鳥亭の玄関から出るわけにいかない。

なので、索敵で無人状態となった場所を探り、

この部屋から転移魔法を行使して移動。


更に索敵と転移魔法を駆使。

人目を避け、移動しつつ、愚連隊のアジトへ乗り込むのだ。


念の為、変身魔法を使い、

ロジェとは全く違う別人――30歳過ぎの栗毛男に擬態する。


当然だが、元のラウルとも似ても似つかない容姿である。


背格好も身なりも違う30歳男……


こうすれば万が一目撃されても、ロジェと『この男』を結びつけるものは何もなく、

疑いをかけられる事は全くない。


という事で準備完了。


……………………………………………………………………………………………


……ロジェはじっと待った。


索敵しつつ、転移するタイミングをはかっている。


「よし!」


瞬間、ロジェの姿は煙のように消え、

愚連隊『毒蛇団』のアジト最寄りへ転移していた。


索敵により、周囲にひと気が無い事は確かめてある。


周囲はしんと静まり返り、時刻は午後11時30分を回っていた。


作戦の手順はかぎ爪団と同じである。


アジトへ潜入し、威圧で無力化、支配で従属させるのだ。


時間が時間だ。

毒蛇団アジトの入り口は施錠され、固く閉ざされている。


しかし、ロジェの侵入を防ぐ事は不可能。


ふっと笑ったロジェは、索敵で確認したアジト内のボスの部屋へ、

瞬時に転移した。


一方、ここは毒蛇団ボスの部屋。


毒蛇団ボスは、自室の扉へカギをかけ、就寝前の酒を楽しんでいたところ。


そこへいきなり、何もない空間から、

30男に擬態したロジェが現れたからびっくり仰天。


思わず悲鳴をあげようとしたが、ロジェが速攻、威圧の眼差し。


びしっと硬直したボスは、無言無表情となり、更に心身を支配されたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る