第5話「3人からの無茶苦茶な言われように、ラウルは腹が立つのを通り越し、 苦笑いしそうになってしまう」

王宮魔法使いによる、検査は終わった。

数多の魔道具を使い、ラウルのスペックを調べあげたのだ。


心の底から嬉しいという趣きで高笑いをする王宮魔法使いである。


「ははははははは! こんな事もあるんだな! お前の体内魔力、身体能力は一般市民並み! 魔法という魔法、スキルというスキルは一切使えず、Fランクの冒険者以下だぜ!」


「改めてそう言われると、ショックです」


「だろうなあ! 当然、召喚魔法も使えんから、あの狼魔獣も呼べんな。もうお前なんか怖くない。恐れるに足らずだ!」


「はあ、そうですか」


「よし! じゃあ早速陛下と王女へご報告するとしようか! お前も当然、一緒に来るんだ! 勇者引退への花道と言ったところか!」


「分かりました」


素直に従うラウルを見て、王宮魔法使いは満足げである。

こいつさえ、引退して居なくなれば、

もう俺の天下だ!という波動がバリバリ出ていた。


ラウルは王宮魔法使いの後を歩きながら、つらつらと考える。


万が一、王と王女が、勇者を引退した俺を重用した場合、

こいつはどうするつもりなのか?


俺が自分の上司になるとか、思わないのか?


王宮魔法使いという要職にありながら、あまりにも想像力、思慮分別に欠ける。


目先の状況にばかり目を取られ、後の事を考えていないのか。


それとも勇者ではなくなり用済みとなった俺を、

王と王女が捨てるという確信があるのか。


ふたりに長年仕えているから、ふたりの性格を熟知しているというのか。


まあ、良い。


俺を捨てる展開にならないと却って困る。


そう、俺は自由になり、人生をやり直すと決めたのだから。


何とか魔王を倒して戻ったのに、本当に形だけの慰労だけだった。


「貴方は私の想い人だ」と何度も甘い声でささやいたマルスリーヌ王女は、

魔王を倒したと聞いた瞬間に態度を一変。


思い切り、素っ気なくなっていた。


ケルベロスに言われたとはいえ、心の片隅では、

「王女は自分を本当に愛しているのかもしれない」と期待したい部分もあった。


しかし、冥界の魔獣の見立ては正しかった。


魔王を倒したと知った時点で、ガラリと変わったあの冷淡さ。


もうお前の用は済んだ、役目は終わったというばかりな態度。

そして勇者としての能力が喪失したと知れば……


今は、勇者ではなくなった自分を、王と王女は見放すであろうと。

100%そう思える確信がある。


そうこうしているうちに、王の間へ到着した。


司令と一緒に並んだように、今度は王宮魔法使いと並び、

玉座に座る王と王女の前で跪く。


先ほどと同じく、ラウルではなく、パピヨン王は王宮魔法使いに尋ねる。


「戻ったか、王宮魔法使いよ!」


「は! お待たせ致しました!」


「うむ、早速聞こう。検査の結果、ラウルは……どうであったかな?」


「はい! 陛下! 残念ながらこいつ、いや、ラウル殿は勇者としての能力を完全に喪失。元の一般平民に成り下がっておりました!」


我が事、成れり!と言いたそうに、

王宮魔法使いが嬉しそうに報告した瞬間である。


「最低! だっさ!」


マルスリーヌ王女は大きな声で、吐き出すように言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


だっさ!と言い放ったマルスリーヌ王女の顔が嫌悪感に染まっていた。


そして、マルスリーヌ王女は続けて言う。


「お父様、勇者としての能力を喪失した今のラウル・シャリエは、私の婚約者として全くと言って良いほど、ふさわしくありません! 私、彼との婚約の破棄を希望致しますわ!」


やはり予想通りである。

マルスリーヌ王女は、あっさりとラウルとの婚約破棄を希望した。

愛情は完璧に皆無であり、憐れみの感情さえない。


勇者でなければ、自分の伴侶にはふさわしくないと。

つまりは自分と王国にとって利用価値のない男など不要という事だ。


ラウルの、『王女への愛』が完全に消えた瞬間である。


きっぱり言い切った愛娘の言葉に、 父親のパピヨン王は満足そうに何度も頷く。


「うむうむ、マルスリーヌよ、その通りだ。ラウルとの婚約の破棄を認めよう。例え魔王を倒したとしても、最早、勇者でない男など何の価値もないぞ!」


更には王の言葉に追随するように、控えている王宮魔法使いが、

音が出るのではと思うくらい、激しく揉み手をし、


「そうですとも、そうですとも。おっしゃる通り、ラウル・シャリエは王女様のご婚約者にふさわしくなく、陛下のおっしゃる通り、何の価値もございません!」


王宮魔法使いはそう言うと、えっへんとばかりに胸を張り、 


「改めて申し上げます! 現在のラウル・シャリエの体内魔力、身体能力は、そこらに居る一般市民並みでございます! 魔法という魔法、スキルというスキルは一切使えず、Fランクの冒険者以下! 狼の魔獣も呼べず、ラウルは、ただの凡人! 否、我が国において、単なる足手まといの屑、ゴミ、汚物に過ぎませぬ!」


俺は、単なる足手まといの屑、ゴミ、汚物?

おいおい、王宮魔法使い、お前、そこまで言うか?


3人からの無茶苦茶な言われように、ラウルは腹が立つのを通り越し、

苦笑いしそうになってしまう。


しかし、不審な気配を感じさせたら、作戦は台無しだ。


王と王女が自分をあっさり切り捨て、虎の威を借りる狐たる王宮魔法使いが、

追随するのは完全に想定内。


であれば、予定通り事を運ぶのが賢明である。


「はい、ただの凡人に戻った自分は、マルスリーヌ王女様のご婚約者の資格などございません。婚約の破棄をお受け致しますとともに、勇者も引退し、ご迷惑にならないよう、国外へ出たいと思います」


そんなラウルの言葉を聞き、マルスリーヌ王女は美しい顔をゆがめ、

満足したと言うかのように、ニタニタ嫌らしく、悪魔のように笑ったのである。

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