第8話「ケルベロス、この国を脱出だ! 遠く離れた国へ一気に跳ぶぞ!」
森へ入ったラウルは猛ダッシュ。
一目散に森の奥へ。
これは作戦の第二弾を準備する時間を稼ぐ為だ。
追って来るであろう騎士達に、準備を目撃されてはならないから。
転移魔法を使い、瞬間移動しても良かったが、まだ慣れていない。
もう少し練習が必要である。
というわけで全速力で走ったのだ。
あっという間に森の奥へ到達したラウルは、従士たる魔獣ケルベロスを呼び出した。
すぐ念話で呼びかける。
『ケルベロス、作戦は順調だ。宜しく頼む』
『分かった、
『すまん!』
ラウルはケルベロスを見つめ、精神を集中。
「は!」と気合の入った念を発した。
その念とともに不可思議な魔力が発せられ、ケルベロスを包み込む。
すると!
何という事でしょう。
灰色狼風に擬態していた魔獣ケルベロスが一変!
風貌が、身長10m以上にも達する人間を喰らう人食い鬼オーガの、
それも最上位種オーガキングとなったのである。
これもラウルが受け継いだ魔王の禁断の秘法『変身』である。
この変身は、自身だけでなく第三者も自由自在に、
姿形、大きさを変える事が可能なのである。
「む?」
ここで、ラウルの索敵に反応があった。
騎士達10人がこちらへ向かって来るのだ。
オーガキングに擬態したケルベロスが言う。
『うむ、ではつかむぞ、主』
『ああ、頼む、つかんで、掲げたら俺は大声で悲鳴をあげるから、お前は騎士達をにらんで思い切り威嚇してくれ』
『了解だ』
オーガキングことケルベロスは右手で、指示された通りラウルをつかむと、
頭の上に持ち上げて掲げる。
ここで作戦通り、ラウルは絶叫。
「た、た、助けてくれえええ!!! オ、オ、オーガキングだああ!!!」
ラウルの悲鳴は、騎士達に届いたようだ。
剣を振りかざし、ラウルを追って来たらしい騎士達だが、
とんでもない敵オーガキングを見て、躊躇していた。
無理もない。
単なる目安だが、オークは一般的な騎士の倍の強さ、オーガは同じく5倍の強さ、
オーガキングはノーマルなオーガの100倍以上の強さだと言われている。
つまりオーガキングは、騎士500名、一個連隊に匹敵する強さなのだ。
追手の騎士がいくら腕利きでも、たった10名ではオーガキングに敵うはずがない。
全員が木陰に隠れ、恐る恐る様子をうかがっている。
つかまれたラウルは騎士達を見て更に絶叫。
「あ、ああ!! た、た、助けてくださあい!!! 喰われるうう!!! 殺されるうう!!」
そんなラウルの悲鳴と助けを求める声に呼応するように
ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
オーガキングこと、ケルベロスは大音声で咆哮。
大きな口を開け、歯をむきだし、ずしゃ、ずしゃと、騎士達へ踏み出した。
すると騎士達は、
「あわわわわ!!」
「ひえ~~!!」
「た、助けてくれ~~!!」
「に、逃げろおお!!」
全員が回れ右、一目散に逃げだしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウルを追って来た騎士達全員が、猛るオーガキングを見て回れ右、
一目散に逃げだした。
逃げ去る騎士達の背に、オーガキングに擬態したケルベロスは再び、
ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
念押し!とばかりに、大音声で咆哮した。
「あわわわわ!!」
「ひえ~~!!」
「た、助けてくれ~~!!」
「に、逃げろおお!!」
するとまるで音声魔導機で録音が再生されたように、
騎士達は全く同じ悲鳴を上げつつ、全速力で逃げて行ったのである。
オーガキングこと擬態したケルベロスの手につかまれたまま、
高所で苦笑したラウルは、索敵をMAXレベルで継続し、耳をすました。
索敵の反応をチェックしながら、著しく上昇した聴覚を使い、
騎士達の逃げ去る足音を拾おうというのだ。
このように機会があれば、新たに得た能力のチェックやテストを行う。
堅実で合理的なラウルの性格が出ていた。
そんなこんなで、しばし経ち、追手の騎士達は遥か遠くに逃げ去ったようである。
索敵の反応は遠くになり、足音も聞こえなくなったのだ。
……この状況なら、
「ラウルは出現したオーガキングに捕食され、間違いなく死亡した」と、
騎士達はパピヨン王とマルスリーヌ王女へ報告するに違いない。
証人は10人も居るから、王と王女は必ず信じるであろうし、
死体が見つからずとも誤魔化せる。
これで作戦の第二段階は成功。
追手は居なくなったし、万が一、後から王国軍が念の為に確認と、
討伐隊を差し向けても、大丈夫。
討伐隊が来る頃には、ラウルと擬態を解いたケルベロスは、その場に影も形もなく、
とっくの昔に遥か遠くへ移動しているから。
いやいやいや、それは甘いだろう。
いくら遠くに行っても、国内でも国外でも、地味な格好をしていても、
魔王討伐で凱旋したラウルの顔を知る者は結構居る。
また世界各地を勇者として転戦したので、
ラウルの顔を
国内のあの街、国外のあの国のあの街に勇者ラウルが居た、
見かけたなどと噂になったら、
いずれはパピヨン王とマルスリーヌ王女へも伝わるだろう。
苦労して仕組んだラウルの死亡説はあっさりと
まさかの生存説が再燃するのではないか、という突っ込みがありそうだ。
だが、そんな心配はご無用。
これから作戦の第三段階へ移行するのだが、
またまた原初の魔王から受け継いだ能力を使う。
『よし、ケルベロス、握った手を開いてくれ』
『了解だ』
オーガキングことケルベロスは、ぱっと手を開き、解放されたラウルは一回転し、
すたっと、地上へ降り立った。
『とりあえずこの現場を離れよう。逃げ去った追手の騎士達は、しばらくここへは来ないだろうが、長居は無用だ』
『分かった、
『ああ、ごめんごめん』
ふうと軽く息を吐いたラウルは、オーガキングをじっと見つめ、
「はっ」と短く気合を発する。
するとオーガキングは、シルバーグレイの灰色狼に戻った。
『ふむ、良かろう』
にやりと笑ったケルベロスの満足そうな言葉を聞いたラウルは笑顔で頷き、
『ケルベロス、この国を脱出だ! 遠く離れた国へ一気に跳ぶぞ!』
と言い、
『転移!』
と短く言葉を発すると、その瞬間、転移魔法が発動。
ラウルとケルベロスは、煙のように消え失せたのである。
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