第2話 なぜ俺は生きてるんだ
目が覚めるとそこは知らない真っ白な天井だった。アルコールの匂いがツンと鼻を刺す。
「あ、起きた」
聞きなれた声がいくつも聞こえる。周りを見るとベッドの周りを囲まれていた。
「良かった。マジで死んだと思った」
ため息混じりに浅田がそう言う。
南雲さんやほかの友達も安堵を浮かべている。
「そういえば俺ってどれくらい寝てたんだ?」
俺がそう聞くと丸1日だと見舞いに来てた端山から答えが返ってくる。
「俺はなんで生きてるんだ?」
そう疑問がこぼれる。
「それはこっちのセリフだよ」
浅田が答える。そして
「なんでお前はあの男を跳ね飛ばしたんだ?」
「それは助けてくれた女の人が調査中だって言ってたじゃない」
そう南雲さんが返す。
まぁ警察の発表とかを待てばいいんじゃないか? と俺は言ってその話題は終了した。そしたら加藤が俺そろそろバイトあるから帰らなきゃと言ったのをきっかけに解散となり病室で俺は1人になった。
それからすぐに看護師さんや担当医が来て現状の説明やこれから検査があるからもう少し入院するなどのことを言って帰って行った。他には警察の人が病室に来て形式上の質問を俺にしていって帰って行った。
そして静寂が再び病室を包む。右を向いて窓の外を眺めるとそろそろ夕焼けが青空を侵食し始めていた。時刻は午後3時らしい。ふと俺は窓の外を眺めて考える。今でも生きている心地がしない。よく分からないがなぜ男は乱入してスプラッタを始めたのか、それにあの男今考えてみると細身な見た目と違って力が強すぎる。それに足が速い。速いとかいう次元じゃないあれは瞬間移動かなにかの類な気までしてくる。そして助けてくれた人は誰だ。あと浅田が俺は男を跳ね飛ばしたみたいに言ってたけど、どういうことなんだ? 考えることと謎が多すぎる。警察に言って聞いてもどうせ答えてくれないだろうし、俺は何に巻き込まれたんだ?
「もしや、俺ってなにか特別な力があって俺TUEEEEするのかな。そうだとしたら楽しそうだなぁ」
我ながら緊張感が全くないが、そうなったらちょっと楽しいかもしれない。いや、だってあのよく分からん改造人間みたいなのを吹っ飛ばしたらしいし、やっぱり俺にも特殊能力とか無いとね。面白くないじゃん! まぁ、現実世界にそんなのないんだけど。
「私が助けたのは厨二病を患ってる痛い人だったかぁ~」
後ろから若干引いたような明るめの女性の声が聞こえる。
「は? 男のロマンを壊さ……。え?」
もしかして声が漏れてたのか?と思いながら後ろをギギギと効果音がなるかの様に不自然な後ろの向き方をすると、黒髪のボブカットで細淵の丸メガネをかけたの美少女が椅子に座っていた。ぱっと見年齢不詳だわ。JDにも社会人にも見える。
「なんか動き悪いけど腰でもやったの? あぁ、動き的に首か。油でもさしてあげようか?」
ジト目と口調のおかげでなかなかに傷つく。
「俺はブリキのロボットかよ」
「そっか中二病患ってるおじいちゃんだったか」
いや、パワーワードすぎるだろ。なんだ中二病のおじいちゃんって。精神年齢と肉体年齢の差激しすぎだろ。
「ていうかそもそもお前はいつから居たんだよ」
「ふーん、初対面の人にお前って言うんだ。マイナス10点」
「え、いきなり何それ」
「初対面の人にいきなりタメ語は失礼だからマイナス20点」
「ブーメランぶっ刺さってるよ! なんなら特大のやつ刺さってる」
「私はいいの。採点してるから」
「理不尽だ」
「それで、いつからここに居たかだけど、君が窓眺め始めたくらいだね」
「話題すり替えられた……。あとすごいいたたまれないんだけど? 恥ずかしすぎてメンタルおかしくなるわ」
俺は知らない人だが、黄昏てるの見られてたり、おそらく思ってたことが口から漏れてたって考えると恥ずかしいよな。
「ちなみに何点満点なの?」
ふと気になって聞いてみた。そうしたら女の子はため息を一つして言った。
「10点満点」
「……俺もう既にマイナスに到達してない?」
そうしたら彼女はふふっと笑って
「君は表情コロコロ変わるからいじるの楽しいね」
「俺は遊ばれてるのか……。不憫だなぁ」
この人と話してるとなんか疲れる。ていうか今笑った時めちゃくちゃかわいいんだけど? 高嶺の花すぎて俺には届かなそうだけど。
「そういえばなんで俺の名前を知ってるんだ?」
俺は当然の疑問を投げかける。
「君は保護対象だからね。
「保護対象?」
「そう。君はこのままだとわけも分からず戦闘に巻き込まれる。学祭の時のようにね。そうならないための保護対象だよ」
「そうだ。あの男は何者なんだ? そもそも俺が男を吹っ飛ばしたってどういうことだ?」
「はいはい。順を追って説明しますよ~。でもまず自己紹介といこうかな」
そう言うとすっと表情を真面目にして、
「私は
「待ってくれよ。特殊能力者って都市伝説で言われてるあれか?」
聞いたことがある。有名な都市伝説の1つにこの世には特殊能力者がいて、人を操るとか普通の人では出来ないことが出来るって言うやつだ。
「そうだよ。君が言ってる都市伝説のヤツ。まぁ私は人を操ったりするのは出来ないけどね」
え、心読まれた? 他にもいろいろ例はあるだろ。空飛んだりとか、もの動かしたりとかさ。
「確かに他にも例はあるね。空飛んだりもの動かしたり」
えぇ……。俺の思考が思考が停止した。おそらく確実に思考を読まれてる。本当に特殊能力者っているのか……? 信じられない。
「それでも信じて欲しいんだよ。実際に私はあなたの心を読んで返答してたしさ」
手を取りながら、有馬はそう言う。俺の心臓がバクバクとうるさいくらい動き、正常に思考ができなくなる。
「やっぱり君をいじってると反応が面白いね」
バツが悪くなり俺はそっぽをむく。やっぱこいつめんどくさい。
「それで、ほかの質問に答えてくれないのか?」
「手握られて恥ずかしいんだ。ふーん」
ニヤニヤしながら更に俺をいじるために言ってくる。
後で意趣返ししてやる。今そう心に決めた。
「弄るのはここまでにして、意趣返しとかもいつ来てもいいように準備しとくね」
またニヤニヤし始める。ちょっとウザイ。いや結構ウザイ。でも全部見てるんだろうなこれ。
「次はあの男は何者かについて説明しようか。あの男の身元はまだ分からないし、ここだと詳しく言えない。しかもただの保護対象の君にはこの情報は開示できない 」
「はぁ?」
俺は思わず声を荒げてしまう。それを気にもとめず有馬は
「でもそれがルールだから。そしてなんで君があの男を吹き飛ばしたかなんだけど」
一拍置いて有馬は俺に言い放つ。
「君もおそらく私たちと同じ能力者だから」
「そんなことあるのかよ。今まで俺は普通に暮らしてきて、特にそんな兆候無かったぞ」
果たしてそんなことありえるのか。
「有り得るよ。能力は先天性、つまり生まれつき使える人と後天性、生活してる途中で発現する人がいるの。君は前者だろうね」
有馬は落ち着いた声でそう説明をする。
「じゃ、俺はあの男に狙われて、そのせいであんな殺人が起きたのかよ。嘘だと言ってくれよ」
嘘だそんなことあって欲しくない。俺のせいで学祭にアイツが乱入したなんてあってほしくない。そんな気持ちが強くなって、縋るように有馬の手を握りながら彼女の顔を俺は見てしまう。そして、
「それは考えすぎだよ」
そう言葉が紡がれて俺は安堵した。あれ、ちょっと顔赤くね?
「ここで話を終わりにしてもいいんだよ? 」
笑顔を浮かべているが、目が笑ってない。怖いめう。
「ごめんなさい。話を続けて欲しいです」
「分かりました。あの男が狙ってたのは声優の人。君じゃない。危機的状況に置かれたせいで君が能力を使えたと考えるのが妥当だね。そしてあの男を退けた。」
「そして、これから俺はあんな奴らに追われることが増えるかもしれないし、安全な今まで通りの生活は遅れないのか」
どうするのが正解なんだろう。保護対象だから何かしら生活に不自由が出るかもしれない。それは別にいいが。なんか考えることがある気がするけど、出てこない。
「保護対象ってさっき話したよね」
有馬が俺に話しかける。
「あれってさ、君がその能力を使わなかったらの話なんだよね」
「どういうこと? だって保護って……。自衛のために能力を使えるようにしてくれってこと?」
「その通り! そうすれば確かに安全のために大学とかはやめなきゃいけなくなるけど、私たちと働けるよ! これって魅力的じゃない? だってこの世のほとんどが知らないことを体験できるんだよ」
「でも、自分で能力を使うこともできない人が入って、尚且つこれから本当に能力を自由自在に使えるかどうかもわからないんだよ。そっちからしたらリスキー過ぎない?」
「確かにリスクはあるんだよ。でも、私にそう言わせるほどの見込みがある人なんだよね!」
有馬は俺のベッドに手をついて俺の方に身を乗り出す。
見込みがあるのかぁ。そう思われるのはうれしいけど、正直な話をすると能力者がこの世にいるっていうのは信じられない。でも、この世のほとんどが知らないことが分かるのは俺の知的好奇心をすごくくすぐるんだよなぁ。どうしようかなぁ。
「ねぇ、空くん。考え事するときに頬杖着くのクセなんだね」
え、そうなの? でもそうなのかな。いやわからん。
「いきなりそれは何か理由があるの?」
「いや、全く。ていうか私のことを疑いすぎだよ」
有馬はアハハと笑う。
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