第6話 引っ越しそばならぬ引っ越し鍋
食欲をそそる辛めの匂いが部屋を満たしている。
「あ~美味しい~」
ふにゃりと表情を緩めて美味しそうにキムチ鍋を食べる有馬。絵になるなこれ。
「美味しいって言ってくれると作りがいがあるよね」
味付けは出来上がってるものを使ってるから不味くならないのは確定してるから自分も安心できる。
「〆にラーメンあるから食べすぎないようにね」
「え? ラーメンあるの?」
有馬の目がキラキラし始める
「食べるのは好きな方?」
ふと気になって俺は聞く。
そうすると口の中にある食べ物をもぐもぐして飲み込み、うん! と頷く。
「私ちゃんと料理は出来るんだけど、どうしてもこっちで暮らしてから食べ物に気を使わなくて、時間もそんなにないからご飯作らなくなっちゃったんだよね」
そう言いながら有馬は具材を追加し始める。
「俺は一人暮らししてる時、食べ物と風呂とかは妥協しなかったけど、掃除が後回しになっちゃってたなぁ」
「え? 不潔じゃん……」
ゴミを見るような目で俺を見る。
「いや風呂は入ってたから」
「だとしても部屋汚いんでしょ。片付け物はしっかり使ったら片付ける。掃除は時間があったらすぐやる。あと2日に1回は掃除をする。これだけを徹底すればどんなに忙しくても部屋は綺麗になるよ」
「掃除やるかぁ~」
正直乗り気では無いがやらないと一緒に住んでる有馬に申し訳ない。
「ていうか俺と2人で暮らすことになってるけど、そこはどうなの?」
「私は大丈夫だよ。だって君、人畜無害でしょ」
「それって褒められてるの? 貶されてるの?」
「特にどっちでもないわね」
「、、さいですか」
そう言ったあと有馬が鍋にラーメンを入れ始める。うわめっちゃ美味そう。それにしてもこんなふうに食卓を囲んでると今日の戦闘が嘘みたいだ。あの恐怖感も、能力を使った時の感覚の変化も、命をかけた戦闘での緊張感も全部白昼夢かのように感じられる。でも明日からは探偵としてなのかは分からないが仕事をすることになって──。俺はあ、と言葉をこぼす。
「俺バイト先に連絡してないわ無断欠勤になってね?」
そうすると目の前の有馬があーその事ねと言って、
「それならこっちから欠勤の連絡をしてるから。あとやめる方向の打診もしてるから。ただいきなりだと問題が出るでしょ。今の時期テスト期間らしいし」
「てなると、明後日からまたバイト行く感じでいいの? やめるっていうのは病院の出来事みたいなのにほかの人が巻き込まれれないようにするためなんだろうけど」
「どっちもそうだね。警察の状況で話せないけど、って言ったら大丈夫だったらしい。ただ、テスト終わりまではいてほしいってことだから来週までは働く感じかな」
「えーっと大学の方は?」
「それは退学届けが今審査中のはず。相応の理由はこちらで言ってあるから確実に通ると思う」
「個人的にはもっと友達と居たかった感じはするだけどね。しょうがないか」
「そうだね。安全を考えるとその方が賢明だよ。だから午前中は仕事。午後からはバイトある日は行ってらっしゃい」
「ん。りょーかい。あとはなにか探偵社で働くにおいて大事な事とかある?」
「事件の話は出来れば社内の方がいいわね。うちに盗聴器なんて付けられないのは確定してるんだけど、何が起きるか分からないからね。探偵たるもの守秘義務と依頼主の利益は守らないとね」
ちゃんと探偵してるなぁと思いながらなるほどねぇと言って俺はラーメンをすする。あーうめぇ。ちょうどいい辛さだけど具材のだしが染みてるスープがラーメンとよく絡んでるわこれ。
このままご飯を食べた後も話してるとといつの間にか午後9時になろうとしていた。
「私食器洗っちゃうからお風呂沸かしといてくれる? 作ってくれたなら食器洗いくらいやりたいし」
俺ははいはーいと言って浴槽を洗いに風呂場に行く。あれ、俺のシャンプーとかここにないみたいなんだけど部屋にまとめてあるのかな? と疑問に思ったもののサクッと風呂掃除をしてお湯を入れ始める。
リビングに戻るとエプロンを着て皿洗いをする有馬の後ろ姿が見えて、
「なんか嫁感がすごいな」
と思わず言ってしまった。
有馬は手を止めると振り向いて 誰が君のお嫁さんよ。と言って少し不機嫌そうに皿洗いを再開する。心なしか頬が赤かった気がするが気のせいだろう。
「お風呂沸いたら先に入っちゃって良いよ。私部屋でやることあるから」
とリビングでスマホいじっている俺に向かって手を拭きながら有馬が言う。
「分かった。でも明日9時から出社だから出来るだけ早めに寝なね」
そう言って俺はスマホをいじりながら風呂が沸くのを待つ。そしてお風呂が沸いた事を知らせる音が鳴り、部屋に着替えを取りに言って風呂に入る。ちなみにシャンプーとボディソープは無かったので仕方なく有馬のを借りることになった。後でドラッグストア行って買おう。明日の午後開いてるし行けそうかな。
髪の毛と体を一通り洗い終えて俺は湯船に浸かる。
「あぁ~やっぱり風呂はいいな。」
そういって浴槽で足を伸ばせる範囲で伸ばして伸びをする。我ながら言ってることが実年齢より上な気もするが疲れてる時の風呂は格別なんだよなぁ。考えてみたら俺は、学祭で身体能力強化系の能力者と戦って気絶して、起きて病院で退院しようとしたら、能力者のグラサンスキンヘッドマンに追われて、殺して。そうか、俺人の命を奪ったのか。だけど、何も感じないのは有馬を守るため、自分の命を守るための防衛だったからか。その後は探偵事務所に行って、今は有馬の家に居候させて貰ってて。よく改めて考えると美少女と二人っきりで一つ屋根の下で生活してるんだよな。でも人畜無害か。ちょっと男としての尊厳が。もうちょっと警戒しても良くないか? とは思うんだけどね。ラノベとか漫画だったらラッキースケベ的な展開があってもおかしくない状況だよな。ていうか思い出してみると綺麗な肌してるよな。体つきも良い──。いや、何考えてるんだ俺。あーのぼせてきてた。それに勝手にそんなこと考えてるのが恥ずかしいわ。
「一旦風呂出て涼むか」
そう言って風呂を出て着替え、リビングに行く。するとソファでメガネの手入れをしてる有馬と会う。
「お風呂長かったね。あと何分か出てこなかったらドア叩いて確認しに行ってたよ」
「え、あぁそうか」
俺はぎこちない反応しか出来なかった。絶対露骨すぎて疑われてる。新生活初日にして早々終わりかもしれない。
そう思ったが、有馬はふーんと一言つぶやいて、私もお風呂入っちゃうね。と言って着替えを持って行って脱衣所に向かう。
あれ、もしかして俺助かった? 気づかれなかった? いろいろ気になることはあるが、一旦水道水をグイっと一気飲みして部屋に向かう。あ、歯磨き忘れてた。終わってから部屋行こ。
俺は自分の部屋に入ると段ボールがたくさん散らかってる状態なのを改めて認識する。
「いったんベッドはあるし、今日は寝ることができればいいか。荷解きは明日以降やろう。でもよくよく考えたらありがたいけどこれってどうやって持ってきたんだろう。あとで聞いてみようかな」
ベッドにどすっと座り込んで横になる。あー。疲れた。肉体的にも精神的にも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます