第7話 特殊能力とは

 朝9時。探偵事務所には時間通り全員集まっていた。え、こういう時って優翔さんとかが遅れるとか言うのがお決まりじゃないの? いや失礼か。

「よし、それじゃ昨日の続きを始めるぞ」

 プロジェクターにノーパソを繋ぎながら大和さんが言った。

「全員に資料を配ってある。言わずもがな捜査資料だから部外秘だ。まずは身体強化系能力者が増えていることから報告を頼む」

 大和さんがそういうと板垣さんがはいよ。と言ってプロジェクターに人数書いてあるマップを写す。

「まず、身体強化系の能力者が捕まった県をまとめたのがこの図。千葉に10件、東京に7件、神奈川に4件、茨城と群馬、栃木は2件ずつね」

「今の所関東圏にしか出現してませんね」

 有馬がそう発言する。

「南関東に数が多いのはなにか理由があるんですかね?」

 俺はふと疑問に思ったことを質問してみる。

「いい質問だね。その理由は捕まったやつの身体検査をこれからするらしいからそれで分かるかな」

 板垣さんが腕を組みながら頷きそう言う。

「はーい。身体検査が今からなのはなんで?」

 そう優翔さんが質問する。

 これには俺が答えよう。と大和さんが言って、

「今警察組織の中で特殊能力者に関する犯罪を取り締まる科が警察全体の組織改革のために動きにくくなってるらしい。それで最近やっと落ち着いたとの事だ」

「1ヶ月もかぁ。公務員は大変だね」

 優翔さんはふーんと言った顔で興味無さそうに返答する。いや質問したのあなただよね? 俺の耳壊れてないよね?

「この件の捜査は俺たちはまだ動き出さない予定だ。だが、動き出す場合のバディは決めておこう。実地調査ができるのが今は俺、最上、空、有馬。この4人だ。ここはいつも通り俺と最上。あとは空と有馬でどうだ?」

 大和さんがみんなに問いかける。

 俺は特に問題ないし、みんなも大丈夫だと言っている。なので大和さんもこれで決定にしよう。と言って、

「次に空のところに来た身体強化系の能力者についてまとめようか」

 あぁ、あいつらか。俺は全くわからんけど情報とか集め終わってるんだ。

「まず学祭を荒らした不届き者だが。名前は鈴木啓介22歳。昨日話した森であった殺人事件の被害者で唯一の生存者だ。聞き込みによると大学4年生で就活も終わっていて卒論ももうすぐで書き終わるという状況だったらしい。

 その事件に巻き込まれるまでは、特に目立った行動をしないが、仲間内になるとふざけることも多いと言った風な人だったらしい。だが巻き込まれた後に攻撃的な性格になったり、らしい。森林の中で生き残れたのは能力を渡されたからだろうな」

「あの事件で報道されていた。殺された加害者はどんな人かってわかる?」

 優翔さんが突然質問する。

「いや、まったく調べていないが。最上、何か気になることが?」

「それだけ普通な人が能力を勝手にもらえるはずがない。おそらく誰かにターゲットにされて、仕組まれたんだ。死んだ仮面の男は生贄とでもいうのかな。なんかそんな感じがしただけだけどね」

「裏では何をやってるかわからないのも人間だ。まだ調べきれてない可能性も含めて裏社会との関係を探ってみる」

 大和さんと優翔さんはなにか通じ合っている。というか、信じ合っている。まるでその感覚が正しいことがこれまでもあったかのように。

「あの……。そんな突飛なことが起きうるんですか?」

 俺は今まで生きてきて裏の人に目をつけられるということがなかったが故に信じきれなくて質問をしてしまう。

「基本ないぞ」

 大和さんが一言で切り捨てる。だが

「だが、今回は身体強化能力が広まっているんだ。以前この能力が蔓延していたときはなんの関係もない人が巻き込まれて被害を被ったことが少しあってな。その可能性がぬぐい切れないんだ」

 過去の後悔を思い出したかのような表情でそう続けた。

 なんかあったんだな、俺の知らない事件が。

「そこら辺の捜査は最上、頼めるか?」

「いつも通りの手法でね」

「やりすぎるなよ」

 優翔さんはにこっとした後はーいと言って手を挙げて了承の意を示す。

「じゃ次に病院を襲った男の方の情報をまとめておこうか」

 あ、情報集めの方法は教えてくれないんだ。あとで聞いてみようかな。でも言わないってことは聞いちゃダメなのかな。どうなんだろう。

「病院で空が倒した男は佐藤はる29歳だ」

 頭が痛くなってくる。いやあの見てくれではるって名前ははちょっとギャップありすぎでしょ。ギャップ萌えするとかいうレベルじゃないよこれ。なんか権蔵とかじゃない?いやそれも違うか。三十路ゴリマッチョはるに改名した方がいいぞ

 年齢を言った瞬間有馬と板垣さんがぷっと噴き出して笑いをこらえ始める。

「2人ともどうした?」

 大和さんが不思議そうに聞く。

「いや、空が逃げてる途中に、男のことを三十路スキンヘッドって言ってて、年齢聞いたら本当に三十路で」

 と有馬が笑いをかみ殺しながらいう。あ、あれ聞こえてたんだ。そう思っていたら、「三十路ゴリマッチョはる」もやめてね。笑い止まらなくなるから。と脳に直接話しかけられる。え、これがあなたの脳に直接話しかけてますっていう宇宙人がやりそうなあれのこと??すげぇ、気持ち悪い感覚だなこれ。

 俺がそう思うと、有馬に失礼なんだけど、つぶすよ。何をとは言わないけど。と言われ致し方なく口を閉じる。というか、考えるのをやめる。

「空くん結構肝座ってるんだね」

「期待の大型新人じゃん!壁乗り越えられそう!」

「それどっちかっていうと新人じゃなくて巨人の方ですよ」

「じゃ、洞窟とかに絵描いてたりする?」

「それは新人違いですよ! 旧石器時代に俺は生きてません」

 板垣さんが賞賛を含めた目で俺を見て、優翔さんはなんか喜んでる。なんで?あと、何そのボケ方特殊じゃない?

「話し戻してもいいか?」

 ため息を吐いて大和さんがそう言う。

「え、孝輔何疲れてるの?」

「てめぇのせいだよ最上!」

 ぼくなーんにもわかんないといった顔と雰囲気で大和さんの神経を逆なでてる。喧嘩するほど仲がいいってこのことか。

「もしかして大和さんって銀髪じゃなくて優翔さんのせいで白髪になりました?」

「おい、京都空……。言ってもいいことと悪いことってあるよな」

 やべぇ、ノリで口走っちゃった。オワタ……。

「あ、空くんどんまーい」

「お前も同罪だ最上。てことでこの会議が終わったら軽い依頼がたくさんあるから期日までにそれを終わらせてこい」

「やったね空くん。初仕事だよ!」

 何で怒られてへらへらしてるんだよこの人。でもまぁ初仕事か。確かにうれしいかもしれないけど、この人ほどへらへらできないわ。やっぱこの人がおかしいってことにしておこう。

「それじゃ話を本筋に戻すぞ。この男は筋トレが趣味でジムでインストラクターとして働いていたらしいが、3か月前に急に音信不通となった。そして病院に出現した。その後は知っている通りだ。」

「はるちゃんの音信不通だった間に何をやってたのかは私たちが調べるみたいね」

 大和さんの後に板垣さんが社用ノートPCをいじりながら言う。三十路スキンヘッドよりはるちゃんの方が可愛いから恐怖も薄まっただろうなぁ。なんか可愛く自己紹介して欲しかったな、無理だろうけど。

「それじゃ今日から、俺、百々さん、有馬の3人で佐藤はるの身辺調査。最上と空の2人で依頼をサクッとこなしてきてくれ。この分け方に異論がある人はいるか?」

 大和さんが全員にそう聞くと俺も含め全員特に問題無いとの事だったのでそのまま解散となった。その後すぐに

「空くーん。どの依頼から先にやる?」

 と優斗さんが椅子に座ったままキャスター滑らせてこっちに来る。

「いや俺なんの依頼があるかすら知らないんですけど……」

「あ、そっか。まぁ15件ほどあるんだけど、全部こなしてこいとの孝輔のお願いなので、一旦全部何があるか言おうか」

「え、15件もあるんですか? 結構ありますね……」

「まぁウチは結構知名度ある探偵社だしね。そもそも宣伝文句は普段の疑問から荒事まで全部おまかせだからね」

「物騒ですね」

「実際そうじゃん」

 身も蓋もないけどそうだわ。

「それで何があるんですか?」

「あぁ、婚約者の過去を調べてくれが1件。浮気調査が2件、人が居なくなったから探して欲しいが3件。ペットを探して欲しいが5件。いじめがあるかどうか調査するのが2件。ちなみに中学校と高校で1件ずつだね。あとはストーカーに付きまとわれてるらしいからそいつの身元調査が2件」

「なんか全部時間かかりそうじゃないですか」

「大丈夫! だって俺たち探偵と名乗っては居るけど特殊能力探偵だから色々と例外を認められてるんだよね。そもそも能力使ったらすぐ終わるし」

 言いきちゃったよこの人。ていうか能力って一般人からしたら都市伝説の範囲内だし、軽々と使えない気がするんだけどどうなんだろう。

「ちなみに優斗さんが能力を使うと簡単に解決出来るんですか?」

 そういえば能力を使えば簡単に解決するって言ってたけど、誰のを使うんだろう。

「え、何言ってるの? 君のに決まってるじゃん」

 小首を傾げて、さも当たり前かのように俺に言う。

「え。俺は物を反射させたり、物を引き寄せたりしか出来ませんよ」

「君はそれ以外も出来るよ」

「どういうことですか?」

「君の能力はそれだけじゃない。もっと規格外のものだ」

「規格外……?」

「まず能力って分類できるって知ってる?」

「あー、戦闘系と非戦闘系みたいなことですか?」

「それもそうだけど、精神操作系とか空間操作系っていう風に分類出来るんだよね」

 そう言って右足を組み、話始める。

「まずこの世界の能力は5つの能力から分かれている。または一部の要素が合体して出来ている」

「それが五大能力ビッグファイブと呼ばれている物だ。精神操作、重力操作、空間操作、時間操作、予知能力。この5つ。例えば有馬ちゃんは相手の心を読む能力だから精神操作から別れた能力だね。あとは、孝輔の呪いを付与する能力は、精神操作と時間操作の一部が合体してできた能力だったりする。つまり呪いは主に精神系や時限式の呪いとかができるってことだね」

「なるほど……。つまり俺は空間操作から分岐した能力ってことですか?」

「ご明察! そういうことだね。そこからなんで今までのことだけじゃなくて、もっと色々なことができると思っているかと言うと──」

 そこで優斗さんは1拍おいて、

「君がおそらくを持っているからなんだよ」

「それって今言ってた5つのひとつですよね。なんで俺がそんなものを持ってるんですか?」

「え、知らないよ。能力が付与される理由もなんでこの能力が付与されるのかも分かっていない」

そこは何か知ってるとかそういうやつじゃん。お決まり通りにはいかないか。物語じゃないし。

「もうひとつ質問です。さっき特殊能力は五大能力から分岐したり、一部が合わさって出来るって言ってました。そのまま能力として発現するのは──」

「ごく稀にあるよ。ただ1人見つかったら5種類の能力者が全員その時代に集結するらしい。過去の文献によるとね」

「そのあとは……どうなるんですか?」

「時代によるね。過去には日本を5つに分けて統治してた時代もあったらしい。でも大体は戦争だったり、死人が出ることが多い」

 なんでですか?と俺が聞くと、優斗さんは俺の目を冷めきった光のともっていない目で見て言った。

「陣営が違うんだよ。正義と悪っていう風にね。俺たちは正義側。でも悪側にも五大能力者がいる可能性が高いんだ」

 五大能力者ファイブホルダー。おそらく五大能力を持っている能力者のことか。つまり、この世界にも5人が集結してる可能性が高いってこと? どこの情報ソースなんだろう。

 俺がそう考えていると優斗さんの表情がいつも通りのゆるーい感じに戻って

「だから君にも能力を制御して貰って認知できる空間を広げてもらう。その後に人探しとかをサクッとやっちゃおう! ってこと」

 なんか目の前の先輩、俺に向かって親指を立ててキメ顔をしてるんだけど。

「話の温度差が酷すぎて風邪ひくんですけど」

「大丈夫!無理やり直してもらうから」

「は!?」

 嘘だよ~と言ってケラケラと笑う優斗さん

「じゃぁ最短の期日まであと3日ほどあるから君の能力の発動条件とか色々調べてみようか。んでついでに操作できるようになろう!」

「すんごい軽く言ってますけど、そんな簡単なんですか?」

「え、めちゃくちゃムズいよ」

 おいふざけんな。

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