第5話 事の始まりと新居

「これから身体能力強化系能力者が増えていることについての現状の報告と、空のいた大学と病院に来た2名について調べた情報をまとめる」

 社長が集まった全員にそう言った。

 てかウチの社長、ちゃんと実地で仕事するんだ。社長って聞いたらふんぞり返ってるイメージしかなかったけど。そんなことを考えてると大和さんが返事をして報告を始めた。

「まず身体能力強化系の能力者が増えたことに関してですが、2か月前の別荘で旅行に来てた20代前後の男女が殺された時点から出現し始めています。そしてこの被害者の男女のうち1人が行方不明で、警察は捜索を断念したようです」

 そういえばネットニュースに上がってたなそんな事件。コテージで若い男女が惨殺されて、その数キロ先でを被った男が折れた木の根元で凶器と思われる肉切り包丁と共に不審死をしていた。ってやつ。

「それってニュースになったあの事件で合ってますか?」

 俺は確認のために質問をしてみる。すると優翔先輩がそうだよ。とすごく真面目な表情をしてこちらを見て頷く。そして大和さんにこう言った。

「これは俺の予想なんだけどさ、誰か特殊能力をばらまいてない?」

「どういうことだ最上」

「そのままだよ孝輔。誰か黒幕がいて能力をばらまいてる。実際に過去にも事例があっただろう。あの時は石を壊すと壊した本人が能力を得るタイプじゃなかったっけ。あんな感じのタイプは能力持ちを増やすのは簡単だ」

 顎に手を当て、全てを見通すかのような目をして大和さんと会話する優翔先輩。

「だがあれはデメリットが多すぎて実用的ではなかっただろ。それに製造工場を俺たちで破壊したはずだ──。もしかして設計図か原理が書かれたものが残っているってことか?」

「俺はそう踏んでる」

 この人ただ怠けまくってるお荷物じゃないんだ。仕事する時はするってほんとだな。

「あの、黒い仮面の男がいるのはなぜかわかります?」

 有馬が沈黙を破って発言をした。心なしか言葉に怒りか何かの感情がこもってる気がする。

「そうだよね、有馬ちゃんからしたら大事な問題だよねそれ。孝輔分かる?」

「そこらへんはあのコテージにいた男女の履歴から身辺を洗い出してみないと何とも言えないな」

 黒い仮面か。どこかの組織の人間なのか? なにか引っかかる。黒い仮面。そして写真を見る限り白い絵の具かなんかで顔を書いてある。どこかで会った気がする。足が無意識に震えている。

「……話に割り込んで悪いが午後6時には帰ろう。各々帰る準備をしてくれ。明日の9時から続きをすると言うのでどうだ?」

 社長が俺たちを見回しながら全員に向かって言った。

 全員分かりました。と言って各々準備をして解散する。さてはこの会社ホワイトだな。やったぜ。

「空。お前の新しい家を紹介するから俺の車に乗ってくれ」

 そういってエレベーターのボタンを押して待つ大和さん。

「え、車じゃないと行けない距離なんですか? 大和さん。俺車どころか免許持ってないですよ」

「いや、遅いから送ってくだけだ。徒歩だったら10分かからないくらいだな」

「近いっすね」

「そうだな。行くぞ」

 それだけ言って俺らはエレベーターに乗って地下駐車場に向かった。


 そして数分後俺たち2人は俺の新居の前にいた。

「え、このアパート大きくないですか?」

 見た感じ部屋それぞれがちゃんと大きそうだし、4階建てなんだけど。

「空が住むのは2階だな。ちなみに防音設計で一個下には俺と最上がそれぞれ住んでいる。ちなみに最上階には百々さんも住んでるぞ。なんかあったら頼ってくれ」

「事務の人とか社長は違うところに住んでるんですね」

「社長は家族で代々受け継がれた土地に広い平屋の家があってだな。そこにペットの犬と事務の人。あと社長のお孫さんが住んでいる。」

「え? 事務の人社長の家に住んでるんですか?」

「事務の人はそもそも社長の家のお手伝いさんだからな。先祖は財閥だったりしたらしい」

 す、すげぇ。社長って金持ちだ。と、そんな話をしながら車をおりてエレベーターにのり、ついに部屋の前まで来た。

「ここが新しい家だ。2LDKだぞ」

「あの、表札に有馬って書いてあるんですけど。大和さん部屋間違えてませんか」

「いや合ってるぞ。一旦入ってくれ」

 と言って鍵を開ける大和さん。え、不法侵入にならないの? これ。ていうか女性の部屋に入るってなかなか抵抗あるんだけど。

「あれ~2人とも有馬ちゃんの家に入るってどうしたの?先週も集まってパーティしたのに今日もやるの? あ、空くんのウェルカムパーティってことか。僕を呼ばないなんて水臭いなぁ」

 階段から上がってきた優翔先輩が少し早口でそう言う。

「空に家を紹介してただけなんだが……」

 まるで頭痛がするかのように頭を抑えため息を着く大和さん。

「まぁ幸い。材料は買ってきたし鍋でもいいと思うよ~」

 ニコニコとエコバックを振りながらおれらにむかっていう。そしてじゃ、入るね~と言ってづかづかと入っていく。それは幸いとは言わないだろ。計画的犯行では無いのか。

「はぁ、入るぞ」

 俺はそういって入った大和さんのあとを着いていく。


 リビングに入ると綺麗に掃除され整理整頓までされてるのが分かる。俺とは大違いだなぁ。家事は全部できるがどうしても掃除だけ後回しになってしまう。

「……綺麗好きなのかな」

 そうつぶやくと

「使ったものはちゃんと戻さないと怒られるぞ」

 俺はそう忠告される。目の前のソファでは優翔先輩が寝っ転がってテレビでアニメを見て盛り上がっている。ちゃかり買ってきたものは台所に置いてある。

「え、俺本当にここに住むんですよね」

 あまりにどこかの誰かさんが自由にしすぎているためにそう思ってしまう。ていうか人の家だし。

「その通りだ。そこの左の手前のドアを開けるとお前に部屋がある。PCとか本棚とか置いてあるぞ」

 これで部屋から出なくてもいい環境が出来るかもしれないな。

「あ、空くん。有馬ちゃんこれ知らないからね」

「え、どういうことですか?」

「最上お前有馬に伝えとけって言っただろ」

「いや、サプライズ的な?」

「俺、今日が命日だったりしませんかね」

「まぁ大丈夫じゃない?」

 優翔先輩はスナック菓子を片手にソファに座って俺に返答する。どっからそのお菓子持ってきたんだよ。さっきまでソファで寝っ転がってただろお前。

「じゃ俺は帰る。ここに居ても今日やらなきゃいけないタスクが終わるわけではないからな」

 そういって大和さんは自室へ戻る。優翔先輩は相変わらずアニメを見て笑ってる。

「え、何この展開! めちゃくちゃおもろいんだけど!」

 うーん。一旦料理するか。

「優翔先輩。鍋の好みとかあります?」

「あー俺毒物も行けるし、特に苦手ものないから下の棚に入ってるインスタント味付けセット使っちゃっていいよ。あと優翔先輩って言われて違和感しかないから呼び捨てでも良いよ」

 じゃ優翔さんにしますね。と言ってふと思う。さっきこの人毒物って言ったよね。毒物を食べたのに生きてるって事なの? え?

 いったん鍋を作ることに集中しようとして野菜室を開けると何も無い。

 上のドアを開けるとドアポケットの所には飲み物や調味料が入っていて、レンジで温めるだけで食べられるやつが沢山入ってる。こいつ自炊しないタイプか。そうつぶやいて材料の下ごしらえを始める。

 数分後ドアが開く音がしてこの家の家主が帰ってくる。

「まーた私の家に居座ってるんですか? 最上さん」

「だって有馬ちゃんの家で新人歓迎パーティをしようと思ってるんだもん」

「何を勝手にそんな──」

 そう言って切り終わった材料を鍋に入れて火にかけようとしてる俺と目が合う。

「──今から警察に電話するね」

「ちょっと待ってください有馬様! ご容赦を!  せめて釈明だけでもさせていただきたいのです!」

 俺は焦る気持ちをそのままに頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしてしまう。

「君たち面白いね。夫婦漫才ってこういうこと言うんだよ」

 元凶は何処吹く風かよ。

「で、なんで君がここにいるの?」

 有馬が俺に聞く。

「なんか大和さんに着いて行ったらここが新しい家だって言われて、一緒に住むのに許可を取る役目が優翔さんらしんだけど、サプライズの方が楽しいよね~ってさっき言ってた。ついでに俺は優翔さんが買ってきた食材で鍋作ってる。ご飯は炊いてあるみたいだしね」

「空くん、俺を売ったな!」

 優翔さんは顔が青ざめて目が泳ぎ始める。すまねぇ優翔さん。相応の罰は受けてもらいますよ。

「なるほど。じゃ全部最上さんの仕業とそういう事ですか。どうなんです? 最上優翔さん」

 有馬から今まで感じたことの無い種類の圧を感じてと感情が籠ってない声が聞こえる。美少女って怒った時も美少女なんじゃなくてめちゃくちゃ怖い。特にこの人に至っては殺気が隠せてない。

 優翔さんはすいませんでした……と言って土下座をして、絶対服従謝罪モードに入る。

 俺はそんな茶番もどきが開催されてる中鍋の準備が終わりに近づいてきた。このコンロまじでいい火力してるな。うちに欲しいわ。てかここがうちか。

「分かりました。最上さんは早く帰ってください」

 表情の読めない顔で淡々とそう告げる有馬様怖い。それに対してはーいと言ってそそくさと帰る。帰り際にあ、鍋が……と言ってた気がする。その後有馬は俺の方へ向いて。

「さて、京都空くん。」

 とそのままの表情で一言。この一言怖すぎるからやめてクレメンス。やっぱりなんか怒られるの流れなのこれ。いやん寿命縮んじゃう。

「今日は何鍋?」

「へ?」

 有馬は小首をかしげながら柔らかい雰囲気と表情で俺に聞く。え、可愛い。ていうかこの対応の差は何。

「へ? じゃなくて今日は何鍋にするの?まだ味付けしてないんでしょ。」

「……あ、余ってたキムチ鍋のの素使うつもりだったんだけど大丈夫そう?」

 危ねぇ。一瞬言葉が出なかった。

「あー先週の豆乳鍋の時に一緒に買ってきたあれか。自分で作るのめんどくさくなっちゃっていつも料理しないから、作ってくれるだけでありがたいよ。味はちゃんとしてるだろうしね、一人暮らししてたわけだし」

 謎にハードルを挙げられた気がする。ていうか、先輩たちがいる時と2人きりのときでちょっと対応違くない? なんか今の方が優しくない? 怖いんだけど、これが俗に言う表と裏ってやつ?

 じゃ手洗って来るね~とルンルン気分で洗面所に行く有馬。

 そろそろ鍋の素入れて味見してみるか。

 うん。緊張で味がしない。役立ずな舌だな。俺この家でうまくやっていけるのかな。

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