第4話 銀雪探偵事務所へようこそ

 俺ら4人は現在病院の地下駐車場でセダンに乗っている。運転席にはメガネの男、助手席には板垣さん、後部座席には俺と有馬が座っている。どちらかというと有馬の場合座りながら寝ているの方が正しいが。

「それで、運転席に座ってるあなたはどちら様ですか? まだ名前聞いてないんですけど」

「自己紹介が遅れたな。俺は大和孝輔やまとこうすけだ。探偵社の調査担当をしている。よろしく」

 そういって大和さんは俺に手を差し出してきた。俺は大和さんと握手をし、質問をする。

「大和さんも能力者なんですか?」

「あぁ、俺は特定の相手に呪いを付与する能力だ」

 大和さんはギアをパーキングからドライブに入れ替えてながらそう答え、アクセルを踏む。

「呪いって、うまく言えないですけど藁人形とかそういう感じのやつですか?」

 俺には呪いって言うとそれくらいの感覚しかない。あとはなんか呪いのかかってるものを特定の場所に置くとその空間だけ呪いの効果を受ける空間に早変わりするとか。

「そういう呪いもできはするが、汎用性がないな。それは呪いのなかでも準備が必要だし相手にかかる呪いも強くない」

「具体的にいうと相手の生命力を奪ったり、精神を錯乱させたりすることが多いわよね。言い方を変えると相手にデバフをかける能力ってこと」

 板垣さんが呪いを付与する能力の説明を付け加える。

「なるほど。相手を弱体化をさせる能力ってことですか。」

 そういう能力もあるのか。だとしたら戦闘向きかというと微妙な能力だな。間接的に戦闘に役に立つの能力って感じか。俺の能力みたいに実際戦闘の時に攻撃手段となるようなものではないと。


 しばらく車に乗っていた後ふと俺の能力について疑問が頭に浮かんだ。結局俺の能力は物体を反射する能力ではない気がするな。もしそうだったら、物を引き寄せる、というか荷物を瞬間移動させたことに説明がつかないし、あの発動状態の感覚も説明できない。それに最後の方は自分の身体能力にバフをかけていた気がするし。今は考えても無駄なのかなぁ。

「そういえば、あの部屋に入ったときなんですけど。あの男に呪いを付与しました?」

 俺は男を最後殴った時の感覚が軽すぎることが気になって大和さんに聞いてみる。

「いや、してないが。それがどうかしたか?」

 大和さんは運転しながらいぶかしげにする。

「いや、ずいぶんと男を殴った時の感覚が柔らかかったので呪いをかけて弱体化をかけていたのかなと思いまして」

 俺は正直にそう言う。そういうと、助手席の板垣さんが思いだしたように口を開いた。

「そういえば相手は身体強化の能力者だったけど、空くんの拳は貫通してたわね。能力の影響を」

「そんなことあるんですか?」

 能力を貫通するするってどういうことだ?

「能力者同士の戦闘って、能力のぶつけ合いのことが多くてね。今回とかもそうなんだけど、基本的に能力はパワーバランスは同じなの。どの能力もこれを持ってるからこの能力に勝てるっていうのがないのよ。つまりただの道具のようなものと捉えてくれると理解しやすいかもしれないわね」

「分かりました。能力は道具なんですね」

「そう。それで、道具ってことは勝敗がどうやって決まるかっていうと、どちらの練度がより高いかで決まるでしょ。だから、練度に圧倒的に差があるときには能力が貫通することがよく起こるの。空くんの場合まだ自由に使えないし、発動条件もわからないから本来は相手より練度が高いってことはないと思われるんだけどイレギュラーが重なったぽいわね」

 そう板垣さんが言った後大和さんが駐車場に車を入れようとし始めた。

「ここが言ってた探偵事務所ですか?」

「ええ、そうよ。正確には事務所の地下1階にある駐車場ね。日向ちゃんは私が起こすから孝輔さんと先に行ってて」

 俺はわかりましたと言って、大和さんと2人でエレベーターに乗る。

「うちの事務所はなかなか個性派ぞろいだが、時間をかけて慣れてくれ」

 大和さんは俺に向かって一言そう言った。エレベーターのドアが開いたので降りて、擦りガラスに銀雪探偵事務所と書いてある扉を開けた。


 扉を開けた先には、左から2つ・4つ・2つとデスクが並んでいる。この中で左の2つには資料が置いてあり、真ん中の内2つにお菓子が入った袋が置いてある。右の2つはデスク上がきれいに掃除されているみたいだ。ちなみにそのうちの片方には突っ伏して寝ている男が1人いる。

「ただいま帰りました」

 後ろから大和さんがそう言って突っ伏して寝てる男の隣に自分の荷物を置く。そして、

「起きろ最上もがみ!」

 そう言って自分のデスクの上に置いてあるハードカバーの本を取り出しその角で後頭部を叩く。ゴンと音が鳴って――

「痛った!」

 最上と呼ばれていた男が飛び起きて後頭部をさする。何をやってるんだろうこの先輩2人は。

「最上、俺が出るときにそこのデスクに散乱してる資料を全部整理しとくね~って言っただろ。出かける前と全く変わってないが、ずっと寝てたのか?」

大和さんは軽く最上さんとかいう人の声真似的なことをしながら怒っている。え、個性が強いってどういうこと?

「うん。寝てたよ」

 そんなに悪びれることなく答えることあるのか……?と俺は不思議に思う。肝が据わりすぎてるだろこの人。

「おま……。はぁ、お前に何言っても無駄な気がしてきた。やるときはやるのに何で普段は何もしないんだ」

 大和さんはため息をつきながら、うなだれたまま資料の整理に向かう。

「いつも通りの風景ね」

「うぇ?」

 後ろからいきなり声が聞こえて驚きすぎて飛び上がった。実際に驚いて飛び上がることなんてあるんだと今身をもって体験したが、別に体験したくはなかったなと思った。後ろを振り向くと有馬があくびをかみ殺して俺に言う。

「ドアの前で突っ立ってるのが悪いんでしょ。早く中に入りなさいよ」

 あ、うん。と言って俺はいったん中に入る。

「この事務所結構広いな」

「この建物1棟全部がうちの事務所のものだからね。結構広いよ」

 有馬がそう言う。そして後ろの板垣さんが

「ちなみにここは2階だけど、1階には昼はカフェ、夜はバーになる店があってね。なかなか雰囲気いいわよ」

 と言った。そこも事務所の場所を貸してるんですか? と聞くと、もちろんとうなずく。

「君のデスクは左から2番目の奥のところね、私の向かいのとこ。上着とかしまっておきたい物があったら、入口から入って左にあるロッカーのとこに入れといてね」

 そう言って有馬が俺のデスクの場所と荷物を置く場所を案内してくれる。その傍ら有馬のデスクの左隣に板垣さんが荷物を置いて医務室と書いてある所へ入っていく。その傍らでは最上と呼ばれていた男と大和さんが軽い口喧嘩をしている。観察をしていると、最上が嫌だぁ~やりたくな~いと言いながら資料の整理に連れてかれる。

 そんな中医務室の左隣の社長室のドアが開き、白髪の40代くらいの渋めのかっこいい男性が出てきた。

「君が京都空みやこそらで合っているか?」

 たった一言だがとてつもない圧力を男から感じる。この人の前では嘘がつけないな。人として格が違いすぎる。

「そうです社長。彼が大学で起きた能力者を相手に戦闘をして生き残った人です。そのあと病院でも身体強化系能力を持った人を相手に1人で勝ちました」

 有馬が真面目な顔で報告する。

「社長……。この探偵事務所のですか?」

 俺は聞いてから何てバカな質問をしたんだと後悔した。

「そうだ。私はこの銀雪探偵事務所の社長だ。日向の話を聞く限り戦闘経験がほぼ無いようだが見どころがあるな」

「見どころですか……」

「あぁ。身体能力を強化する特殊能力を持った人間と渡り合えるというだけで、十分な見どころだ。しかも君の場合、戦闘慣れをしていないのにもかかわらず1対1で勝ち切っている。これは期待値が高まるのも無理はないだろう」

「そ、そうですか」

 俺は圧に思わず負けてしまいそうになる。

「そんなに緊張する必要はない。あと、なんと呼べばいい? 個人的には空と呼ぶのが一番呼びやすいが」

 社長はプレッシャーを抑えて俺に言った。

「呼び方は呼びやすいので大丈夫です。自分は気にしないので」

「分かった、空と呼ぼう。」

 その後俺はロッカーに自分の上着をかけに行ったりトイレの位置を聞いたり、給湯室から出てきた事務の女性に挨拶をしたりしていた。そして、作業している最上という男の隣に行き、

「えーっと、初めまして。作業中ごめんなさい。京都空って言います。」

 自己紹介をしてみる。

「あ、新人の子だよね。俺は最上優翔もがみゆうと。普段は孝輔の相棒として調査に行ってる。けど今回に関してはなんか眠かったし百々ちゃんに任せちゃった。あ、あとこの作業手伝ってくれる?」

 とゆる~く返答が返ってくる。

 いいですよと言って、俺は資料をどうまとめるかを聞いてそのまま作業を続ける。

 そうして10分くらい経ったくらいの時に大和さんがこっちに来て

「空、なんで最上の仕事手伝ってるんだ?」

 と不思議そうに聞いてきた。

「いや、なんか頼まれたんでやってます。1人より2人の方が早く終わると思うので」

 と答えると、優翔先輩がうんうん、そうだよ~空くんの言うとおり~! と上機嫌にうなづきながら言う。

「言っておくが空、この仕事は俺が5回やってくれと頼んだのにやらないで放置したのをやっとやってるんだぞ」

 真顔で大和さんが俺に言う。

「え、もしかしなくても優翔先輩ってめんどくさがり屋ですか?」

「効率厨と言ってくれ、新人が来るから職業体験も兼ねて手伝ってもらおうと考えていたんだよ」

 それって単に自分が楽したいだけでは? と俺は思ってしまう。

「安心しろこいつは楽がしたいだけだ」

 大和さんが俺の心を読んだかのように答える。

「まぁあと3つ資料を整理したら終わりだし、ちょうどいいでしょ」

 優翔先輩はこれから何をやるのかを知っているかのようにそう言った。

「これから何かあるんですか?」

 俺がそう聞くと、

「今から空の大学で起きた事件を含めた能力者関連の事件のミーティングを始めるんだ」

 と大和さんが言った。ちなみに時計を見たら午後5時半過ぎだった。俺確か住んでた家解約されてなかったっけ?こんな時間から会議って俺どこに帰るんだろう。

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