第13話 実はあの人って

「空くん。やっぱり仕事できるね君。事務職に転職しない? オフィス系のソフトをしっかり使えるのはちょっと有用だよ~」

 そう言って優斗さんは俺に向かって仕事を渡してくる。実際ソフトウェアをちゃんと使えればすぐ終わることだし、使いかたは大学でやったし。できて当たり前ではあるんだよなぁとか思いつつ……、

「あの、俺に渡す仕事多くないっすか?」

 少し頭に浮かんだ言葉を言ってみる。するとパソコンの画面から顔を上げこっちを見て、

「いやぁ、10時から案件調査の結果を依頼者に伝えないといけなくてね。調査結果はちゃんとあるんだけど、それをうちの会社の規定通りにまとめるのやってなくてさ~」

 いや、わかるよ。後回しにしたくなるの。でもやろうよ。(俺も人のこと言えないけど。)俺は溜息ををついて。

「なら、やっちゃってくださいよ。ていうか事務員さんどこにいるんですか?」

「あ、これね。俺が経費で落としたい物だったり、独自で捜査してたものをまとめてるだけだから事務員さんにやってもらうことじゃないのよ。それに経費で落ちるか微妙なラインのものも多いし」

「は? つまり俺は優翔さんの事務員ってことですか?」

 うん、そういうこと~とパソコン越しに返事が返ってくる。この先輩むかつくからいつの日かはっ倒してやろうかな。

「そういえば今日からバイト復帰でしょ。何時からなの? 車で送っていくよ」

「車運転できるんでですか? 大和さんは運転できるの知ってるんですけど」

「失礼な。運転免許くらい持ってるよ。大体孝輔が運転するから俺が前に運転したの1か月前くらいだけどね」

 え、ちょっと怖いんだけど、事故らないよね。でもまぁ、1か月で運転の感覚鈍らないだろうから大丈夫だろ、知らんけど。


 その後も仕事は続き、2人で、大和さんに担当してくれと前もって言われた案件の依頼者に説明などをしていた。

 ちなみにバイト先まで送ってもらった感想だけど、ゴールド免許の優斗さんはブレーキを雑に踏むから乗り心地はよくなくて、乗り心地良く運転できるってすごいんだなぁと思った。あと、車酔いしない体質で助かった。


「そういえば日向ちゃん。最近始まった同棲生活どうなの?」

 何の前触れもなくナチュラルに百々さんが私に問いかけたのでお茶を飲んでいた私は思わずむせてしまう。

「そんなんじゃないですよ!」

 すごい顔が熱い。確かにそうやって考えたことあったけど! というか今現在進行形で駅のホームで電車待ってるから周りの人の目も気になって仕方がない。

 百々さんがしてやったりという風にニヤニヤしながら私の方を見て、

「え、だって意中の男の子と一つ屋根の下だもんね~。なんか恋バナ出来そうな感じの話題とか無いの??」

「興味津々なのやめてくださいよ……。そういう話題無いですから。というか公共の場で話そうとする内容じゃないですからそういうの。もし話すことあったとしても恥ずかしいですからね??」

「あ~そうやっていつもより早口になっちゃって~。無い無いって言っときながら本当は少しくらいあるんでしょ?? そんな匂いがプンプンするなぁ~」

 ニヤニヤするというか百々さんの口角が天井に突き刺さってるわ。

「そうかそうか。これがてぇてぇってやつかぁ。私より先に日向ちゃんに春が来ちゃうんだもんなぁ」

 こういう時の百々さんは引き下がらないし、しつこいからすごく失礼だけど、ダルイ。とりあえずボソッと後で言いますよ。って言っておいた。

 するとえ、何かあったんだ! 事情徴収はしっかりするよ~と言われた。こういうときだけ耳がいいのなんなんだろう。

「ていうかいま私たちは警察の調査結果をもらいに行く途中なんですよ。後でもその話はできるじゃないですか」

 今言った通り私達は言今警察に向かっていて連続して多発している身体能力強化の異能力者に関する調査をしていた結果をもらう予定。異能取締局のオフィスも警察署内にあるらしく、私と空くんは場所を教えてもらっていないがそれ以外の探偵社のメンバーは知っているらしい。

「じゃ終わったら話してもらおうかな。サクッと調査結果もらってきますか~」

 なんか百々さんがずいぶん上機嫌になったんだけど。この仕事終わったら百々さんによる圧迫面接が始まるのか。いやだなぁ。

 私がそう思っていると、百々さんの顔から笑みが消えて真剣な表情となった。

「日向ちゃん。そろそろ異能取締局への入り方とコード教えるわね」

「え、今まで教えてくれなかったのに……いいんですか?」

「えぇ、大学生の年になって、正式に雇用されているんだから知らないとまずいでしょ? もうそんな時期なんだって思うと時間が過ぎるの早いなぁって思っちゃうわね」

 百々さんは私に向かってにこっとしてどこか遠い目をする。


 私は百々さんに入り方を教えてもらい、異能取締局のオフィスに入る。中にいるのは制服ではなく私服の男女で各々が好きなように時間を使っている。サブスクで映画を見ている人だったり、読書している人だったり、ソファで寝ている人だっている。なんか優斗さんの通常業務時の態度みたいだなぁとふと思ってしまう。

「真也さん。相変わらずここは自由な人が多いわね」

 百々さんが苦笑をしつつ、奥のデスクで唯一書類をまとめて仕事をしていそうな男性に話しかける。

「百々ちゃん久しぶり~。うちの空はそっちで元気してる?」

 この男の人の名前は京都真也みやこしんや。空くんと同じ苗字だからおそらく親族か何かなのかなって思ってたんだけど、空くんは死んでるはずって言ってたんだよね、何が本当なんだろう。

「空くんねめっちゃ元気してるよ~。うちの日向ちゃんと一つ屋根の下で暮らしてるしね」

「そっか~。え、日向ちゃんどう? 変な事されてない? もししてたら1発締めにいくけど」

 なんかいきなり物騒な話になってきたんだけど??

「いや、そんなことは全くないですよ。心配しなくても大丈夫です」 

 真也さんはがあ、そうなの? ならいっかぁ。と言って、んじゃ本題に行こうか。と続けた。

「今回の関東圏内に関する身体能力強化の能力者の犯人の身元と動機の捜査をしてみた」

 一拍間を開けて真也さんは私たちを見たあとに先を進めた。

「犯人の身元を捜査したところ特に何の変哲もない一般人だった。年齢はバラバラ。性別もバラバラ。出身やよく行く場所もバラバラ。唯一似たところがあるとするとしたら、押しに弱いところや自己肯定感が低いところ。そこらへんだな」

 真也さんはパソコンのフォルダを開いて私たち2人に見せながら顎を撫でている。

「一般人なら異能力を手に入れることが普通だったらできてないはずなんですけど、出所はどこなんですかね」

 私は当たり前とも取れる疑問を口にした。隣の百々さんはうーんと唸って考えこんでいる様子みたいだね。

「出所は難しくないね。後天的に能力を取得した事は間違いないし、森のコテージでの異能力者騒ぎの時の痕跡からすぐに壊れる石を媒介して広まっていそうだろうという予想がつく。ちなみに今その出所に関しては俺の部下が残滓を見るっていう能力を使って探してるね」

 坦々と、調べたことと現在進行していることを真也さんは述べていて、それを聞いている百々さんにイラつきが見えて、拳を握る力が強くなって、それが少し震えているような気がした。

「ねぇ、真也さん。日向ちゃんは知らないと思うけどね、あの時大和さんと最上さんが製造する設計図まで処分して工場を破壊して作れないようにしたって話じゃん! あの事件のせいで伊織が死んだんだよ? どこかに設計図か何かがあったんじゃない? なんて一言で済ませないでよ!」

 百々さんが机を握っていた右拳で殴り、溜まっていた感情を吐き出している。伊織さんか、確か百々さんが大学の終わりころから付き合っていた方らしい。話しか聞いたことないんだけどね。

 3年前に起きた集団異能力者テロに関しては私はニュースでやっていたことプラスαしかわからない。その時は高校生だし捜査関係の情報は部外者である私は知り得なかったから

「設計図のデータを破壊したと報告書にはあったしそれは確認した。おそらく研究施設が残していた途中記録を元に再現したのだろう。そうすれば効果時間が短いというのも頷ける」

 変わらず真也さんは坦々と事実を述べていて、私は能力を使わなくても百々さんの神経が逆撫でられているのを感じる。まさに一触即発とはこのことなんだろう。

「研究施設のデータと言うのは、特に捜査時のデータにはないんですか?」

 私は気になって思わず聞いてしまう。

「研究施設についたときにはすでにもぬけの殻でね。こっちの情報が洩れていたらしいんだ。研究データもなにもすべて残っていないし。機材も動かないようにしっかり細工や破壊工作をしてあった」

「その時の追ってた組織は今どうしてるんですか? あと名前は何ですか?」

「その組織は裏社会の能力抗争で壊滅してね。残党もすべて殺されたよ。しっかり死体の確認をした。名前はプレゼント」

 私の質問に対して答えたのは後ろからの声で真也さんではなかった。懐かしくて、もう二度と聞けないと信じていた声だった。ゆっくりと私は後ろを振り向くとそこには7年前に死んだはずのお父さんの姿があった。

「え、なんでお父さんが……ここにいるの? なんで生きてるの……?」

「久しぶり、お母さんに似てずいぶん美人さんに育ったね~。父親として花が高いよ~。それに百々ちゃんからたまに聞いてたけど学力も高いらしいし、大学生にならなかったのがもったいないくらいだよね」

 お父さんは小さく手を振ってあいさつした後、いつもの明るい表情と言葉で私をほめてくれた…………。息ができなくて、目の前にいるのが信じられなくて、涙もあふれて止まらなくて、すごいみっともない顔してるんだろうなぁ私。

「ねぇ。本当に……今ここに居るんだよ……ね?」


 私の感情の整理がついてから少し経ってお父さんが真也さんに報告をしていた。

「残滓を追ってたところ、途中で切れてたよ。さすがに時間がたちすぎていて大まかな場所までしかわからなかったね」

「拓光ありがとう。その情報をもとにより詳しく調査できるように他の能力者にも捜査をお願いしようか」

「了解。ちなみに疑問なんだけど、真也の甥とうちの娘が一つ屋根の下で暮らしているって本当なの? ちょっと父親として許せないんだけど?」

「さっき日向ちゃんから聞いたとこだと特に辺あんことはされてないらしいぞ。まぁ、なんか変な事やったら俺が速攻締めに行くけどね」

「そん時は俺もついてくわ」

 真也さんとお父さんが物騒な会話してる……。別にそんな変な事されてもある程度なら、まぁ……、ね。

「ねぇ、日向ちゃん顔赤いけど大丈夫?」

 百々さんが私に声をかけた。考えてることのせいで顔に出ちゃったらしい。こういうのもうちょっとポーカーフェイスで乗り切れるようになりたいなぁ。そっちの方が楽そう。

「ここに長居してても別のこと探偵社に戻ってからやらなきゃいけないから、そろそろまとめるけど、今回の事件の犯人に関する身元はバラバラで能力石に関しては開段階だったものが再現されて使われている。そしてその出所はある程度分かっているからさらに詳しく調べてくれるってことで良い?」

 百々さんが真也さんに向かって問いかける。

「その通りだね。他に新情報があったり捜査に関して人手が必要だったら社長を通して連絡するよ。あと、今回のこの事件もしかしたら内通者がいるかもしれない。ここの情報とかが洩れている可能性も頭に入れといてほしい。探偵社には裏社会の組織でどこが最近活発に動いているかや最近動きがないところなど、データをまとめてほしい。こちらの人員は多くが別の任務に就いているんでね」

「分かりました。私たちもまた後で連絡します。じゃ日向ちゃん行こっか」

 百々さんがそうやって言うと、お父さんが

「あ、日向。また後で合う機会あるだろうし、その時にご飯でも食べながら話そうよ」

 私は、うん! わかった~と返事をして百々さんと一緒にこのオフィスの出入口へと歩いて行った。

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