第14話 ちょっとした事件発生

 異能取締局に行った日の夜、つまり現在進行形で私は百々さんの家にお邪魔してご飯をごちそうになっている。ちなみにメニューはご飯、おみそ汁、ぶりの照り焼き、そしてひじきの煮物なんだよね。こんなに作ってくれるの申し訳ない気持ちもありつつ、やっぱり百々さんの料理はおいしいんだよね。

「そういえば日向ちゃんはさ、異能取締局行くの初めてだったよね。どうだった?」

 百々さんが箸を箸置きに置いて私に質問をする。

「正直、本当に仕事してるのかなぁって不思議に思いました。異能者関連の事件って結構少ないじゃないですか。だからこんなこと言うのは凄い失礼だとはわかってるですけど、楽そうだなぁってちょっと思っちゃいました」

「まぁ、そんな感想を持っても仕方ないわね。でも、表に出てる私たちも関われる異能者関連の事件って本当に少ないのよ。表立って捜査できるってことは、危険度がそれほど高くないからなのよね」

「じゃ、他にも異能者関連の事件ってあるってことですよね? 俗にいう裏社会ってやつですか?」

「まぁそんなところね。少しだけそこについて話すと、想像通りかもしれないけど、力は正義、権力も正義。お金は自分が使える手札。違法なものがたくさん出入りしてて、人が居なくなるなんて日常茶飯事。そんな世界。銃や危険物ももちろんだけど、異能力者集団も裏社会にいるからね。そんな奴らを取り締まったり、この日本に入ってくるスパイに対する抑止力にもなってるわね」

 百々さんはそう言ってお椀を持ちふーふーと軽く冷ましてからお味噌汁を飲む。これだけで絵になるって美人って罪だよなぁ。私もそうなりたい。

「へぇ、日向ちゃん美人になりたいんだ」

 え、口に出てたんだ……。恥ずかしいんだけど。

「口に出てました? そんなつもりなかったんですけど」

「ボソッとね。まぁ同性に聞かれる分には問題はないでしょ。わたしに関しては何年の付き合いだよって話だし。話し戻すと、美人いいなぁって話だけど、日向ちゃんはどっちかって言うと、美少女の方だよね。かわいい系の。多分これから成長するにしたがってどんどん美人さんになっていく気もするし大丈夫でしょ。多分」

「いや、多分ってずいぶん勝手ですね」

 そういってちょっと笑いながら楽しそうな百々さんを見て私は拗ねてやろうかなと思った。

「話が変わるんだけどさ、今日仕事終わったら恋バナをしてくれるんじゃなかったっけ?」

 にやぁ~と、忘れてないから早く話してよと言わんばかりの笑みを浮かべながら言われる。正直恥ずかしいし嫌なんだけど。私ははぁーとため息を一つ吐いて、

「何を話せばいいんですか?」

 あきらめ気味にそう言った。

「えーとね。まず、空くんを好きな理由って何? あとは~なんで好きなったのかとかぁ~実際最近再会したわけだけどさ、その時にどう思ったかとか。一旦こんな感じでいっか~」

 すごい楽しそうにしてるじゃんこの人。こっちは煽られそうでなんか落ち着かないんだよね。

「いろいろ聞きますね……。まず、好きな理由ですけど、ちょっとふざける部分もあるんですけど、話してみるとすごい真面目なんですよね。慎重と言うかなんというか。あと手の甲が凄い綺麗で! 手をつなげるときがあったら一生撫でてたいなぁっていうか、ずっと握ってたいなぁっていう。うぇへへ。本当にきれいな手の甲なんですけど、少し筋があって、ちょっとごつごつしてて、男の子の手だなぁって感じれるのもいいですよね~」

 やばい話してるだけでニヤニヤが止まらない。いやぁ、フェチが出まくってるんだよね。なんか聞いてる百々さんもニコニコしてるしまいっか。

「あとは身長が同じくらいなのもいいですよね! 私160センチくらいなんですけど、そんなに変わらんくて。男の子からしたら身長が大きくないって気にするのかなぁっていう面だと思うんですけど、でもなんかぎゅーってした時とかぴったりはまるっていうか、密着できるからドキドキしちゃうんですけど! ドキドキしちゃうですけど~あったかくて、いい匂いで落ち着くっていうかなんていうか。心地いいんですよね~」

「あ~!! 待って一旦ストップ! 甘すぎるんだけど!? 砂糖が私の体で作られそうなくらい甘いんだけど! ていうか、手もつないだことないのにハグしたことあるってどういうこと? ていうか、ハグのことをぎゅーっていうの反則でしょ。こっちが当てられちゃうわ」

 あ、つい口が滑っちゃった。昨日の夜ばれないように空くんの布団に入って勝手にぎゅーってして頭なでてたあと、空くんが起きる1時間前に布団から自分の部屋で照ったんだよね。

「いや、あの。なんというかですね。その、そういうときもあるんですよ」

 体が熱いし、うまく口が回らないし頭も回らないんだけど?どうしよう。

「そういうときってどういうときなんだろうね~? もうちょっと詳しく話してくれないとわからないなぁ~」

 ちなみにこの後、このくだりを2回くらいやって、結果私が折れて昨日の夜のことを話すことになった。


「随分大胆なことをしたもんだね。ていうかさ、それ空くんにバレてないの?」

「いやぁ、空くんが起きる前に戻ったんで大丈夫だと思うんですけどね。バレてたとしたらまぁ、謝りますかね~」

「軽いなぁ。でもこの百々さんからしても空くん人畜無害に見えちゃうんだよなぁ。日向ちゃんもそう思ってるかもしれないけどさ。改めてしっかり考えると空くんも男の子でさ、何が起こるかわからないじゃない。だから自分から行動を起こすのも悪くは無いけど間違いは起こさないようにしてね」

「要するにヘタレだけど節度をもてと。そういうことですか?」

『ものすごく最低なことを言ってるのを自覚して欲しいな』

 ……え? なんかこの部屋にいる2人以外の声が聞こえるんだけど?幻聴じゃない……よね?

「あ~空くんせっかく隠れて通話して日向ちゃんの本心を探ろうって話だったのに自分から話しかけたらダメじゃ~ん」

 そう言って百々さんはスマホをテーブルの上に出してネタバラシをする。

「いやぁ、空くんはさ。今、日向ちゃんの主張を聞いてどう思った?」

『いやぁ、そう思われてるのかぁ……と』

「ごめんね空くん!引いたよね、気持ち悪いよね。こんな女の子でごめん」

 私は無意識に発言がしりすぼみになってしまう。

「ていうか、今日のバイト21時半すぎに終わってそっから帰るから23時過ぎそうなんだよねって言ってなかった?」

「あ~。それはLINEしたけど、1番最後の時間の子達がどっちも休みになっちゃってね早く帰れることになったんだよ。それでLINE送った後すぐに板垣さんから連絡が来てちょっと通話繋げたままにしといてって言われたらコレ」

 空くんの発言を皮切りに空間に静寂が訪れて、私としては少し気まずい。百々さんは1人何処吹く風だ。

「いや、あのさ。なんて言えばいいのか分からないんだけど、なんで俺の事そんなに好きなの?」

 あ、ついにその質問答えなきゃか……。百々さんに話す分には別に良いんだけど、本人にかぁ~。覚悟決めないとだね。

「…………」

「…………空くんに言わないの?」

 百々さんが頬杖をついて私の方を見る。

「ちょっと待ってください。心の準備しますから」

 準備ねぇ。頑張れ! と百々さんが小声で私を応援する。

「ふぅ、家帰ってきたら話すよ。電話越しはちょっとヤダ。からまた後でその質問答えて良いかな?」

『分かった。て言っても今から帰ると21時くらいになるけど大丈夫?』

「ご飯作って待ってるから急がないで帰ってきて」

『分かった。じゃぁね』

「うん。またね」

 そう言って私は百々さんのスマホを掠め取って電話切った。

「私の前でイチャつかないでくれる?」

 冗談ぽく私はそう言われる。

「いや、あなたのせいですからね」

「まぁそうだけど。ご飯食べ終えて早く帰らないとね。ご飯作るんでしょ? あと1時間位だよ」

 なんか勝手に嬉しそうになっててちょっとムカつく。私の気持ちも考えて欲しいな。

「さっさと食べて帰ります」

「そんな不機嫌な態度見せないであげてね」

 お節介ですぅ。自分のペースでやりたいのに。勝手に好いてるとか思われてたら嫌だ。それに気持ち悪いって思われたかもしれないし。あ、でもなんで好きか聞いてたあたり気持ち悪がられて無いのかな。

 ……凄い悶々とする。


 駅のホームで電話を切ったあと俺は電車に揺られていた。

 え、何これ俺告白される流れなの? というか俺は今んとこ付き合うつもりは無かったんだよね。確かに可愛いし、料理できるし、芯も通ってるけど。もっと知りたい。趣味とか嫌いなこととか色々知ってから付き合いたい。

 どう返答しようかな。ん? そもそも告白されるって決まったわけじゃないじゃん。好きな理由聞くだけじゃん。でも、あんなにフェチも含め色々ぶっちゃけられたら否が応でも意識しちゃうよ。脳がフル回転して全身が暑くなってくる。自分を落ち着かせようとしても落ち着けない。あ~。好きになっちゃうじゃん。というか、そうじゃなかったとしてもそう勘違いしちゃうじゃん。心臓うるさすぎもうちょい落ち着いてくれ。


 あ~。日向ちゃん帰っちゃったなぁ。結構お節介かなって思ったけど、上手くいって欲しいなぁ。君はこの事件のキーマンなんだから。どっちかって言うとキーウーマンか。


「ただいま~」

 そう言ってドアを開けると目の前にあたふたして視線が俺の方向いたり下に行ったりしてる有馬が居た。

「お、おかえり。ご飯食べる? それとも先お風呂入って疲れとる……? んー。あとは」

「待って待って、その先はなんか違うくない??」

 有馬はぼそぼそと何か言った後プイっと後ろを向いて

「いつさっきの話するの? それだけ聞きたい」

「えーっと、もし良いのであればお風呂入ってからご飯食べながらとか、食べた後でもいいと思うんだけど」

「わかった。じゃお風呂出たら言ってね。私自分の部屋にいるから」

「うん。分かったんだけど、なんで後ろ向きで俺と会話してるの?」

「知らない。勝手に理由考えてよ」

 え、? どういうこと? まぁ一旦風呂入るか。


 私は自分の部屋に入った後、床に座ってドアに寄りかかっていた。

「私何してるんだろう。距離感と言うか、変に緊張しすぎてまともに会話できない。帰ってきたらすぐさっきの話するのか気になったから聞こうかなって思ったらなんか言い方変になっちゃうし」

 膝を抱えて顔をうずめる様な体勢になる。

「はぁ、嫌だなぁ。一旦落ち着くために別の事しよ」

 そう言って私はどうにか時間を潰そうとしてスマホをいじったり小説を読んだりした。けど、こういうときって逆に頭から離れないんだよね。

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