第15話 事件は連鎖する

 いや、待ってる間何も手につかないんだけど。ベッドに寝転んでようかな。でも寝ちゃいそうだからやめよ。

 私は今待っているためにすごい暇な時間を(と言っても精神的にはとても忙しいんだけど)過ごしている。なんで待っているかと言うと、どこぞの先輩のせいで私の隠していたことがまぁ盛大にばれたのでそれについて話すためなんだけど。あとでそれ相応のものはもらわないとちょっと割に合わないよね。


 そうやって待つこと大体30分くらい。ドアがノックされた。

「有馬。お風呂出たよ」

 とりあえず質問に答えるだけでいいんだもんね。なにも緊張することないじゃん。うん。大丈夫だよ。きっと、たぶん。

「はーい。今キッチン行くね。冷蔵庫にご飯のおかずあるから温めちゃっていいよ。お味噌汁私が温めるから」


 とりあえず風呂から上がったからご飯食べてるだけど、めちゃくちゃ見られてるんだよね。何事なんだろう。そんなに味心配なのかな? 別においしいんだけど。

「いや、そんなに俺のご飯食べてるところじろじろ見るなよ。食べづらいんだけど? 後、味が心配ならそんな心配しなくていいよ。おいしいもん」

 「あ、よかった。感想ありがと」

 あ、何話せばいいのか分からない空気になっちゃってるからすんごい居たたまれないんだけど。でも、ご飯食べながらでもいいだろうし、意を決して聞くか。こういうの探るの好きじゃないんだけどね。聞いてるのすごい恥ずかしかったしさ。

「そういえばさっきの話だけどさ」

「あ、はい!」

「いや、そんな食い気味に返事しなくても大丈夫よ? あと背筋良くなっちゃってるし。別にいつも背筋悪いとかそういうわけじゃないんだよ」

「あ、うん。わかってる。でもやっぱり緊張するじゃん」

「でも正直さ、百々さんが一番悪くね? かき混ぜるなっていうのと、本人のペースがあるじゃん。なんでそれをかき混ぜてまで……っていうね」

 一旦こういう話題挟んどかないと緊張がほぐれないだろうな。俺もそうだけどあっちもね。

「いや、本当にその通り。何が目的なのか知らないけど、勝手に通話つなげてさ。私が一方的に好きになっちゃってるだけの変な女みたいになってるじゃんっていうさ。もう最悪だよ~はぁ。後でそれ相応の対価を要求しようかなと思ってる」

 あ、狙い通り緊張ほぐれたらしい。あと拗ねた顔もかわいい。

「まぁそう思っちゃうかもしれないけどさ、一方的に好きっていうのは別に変じゃないよ。俺がそう思ってるんだからいいじゃん」

 ん~ならいっか~と言って頬杖をつきながら俺の顔をずっと見てる。やめて恥ずかしいよ。っていうかそんな純粋な目で見られたら俺が目を合わせられなくなるから。

 「そういえば電話の時に後で話そうねって言った話だけど、俺のことが好きな理由ってなんなの?」

 有馬は一瞬目を丸くして恥ずかしそうに視線をずらしていく。

「え、えーとね。それこそ空くんが覚えてない7年前の事件の話なんだけどさ。あの前まではね私まだ能力が上手く使えなかったんだよね。なんていうかただ、能力のオンとオフができるくらいって感じかな。でもこの能力ってさ人の考えてることを読むっていうこともそうなんだけど、それって相手の心に作用するんだよね。だからその人が感覚的にどんな人なのかってわかるんだよ」

 え、なにそれ。そこだけ切り取ったら便利スキルじゃん。

「なんていうかさ、あの地下室でね、私独りですごい不安でね。空くんが一緒の部屋にいたときにこの人は信用できるのは安心材料的な意味になっちゃうだけど気になったんだよ。そしたらすごい根はやさしい人で、だけど強がりで早熟な方でさ。私が感じてる以上のすごい恐怖と戦ってるんだなって思ってね。小さいながらに凄いかっこいい!って思ったの。私小学生の時にね少女漫画が好きでさ、なんだろう。大人びてる男の子とか凄い好みだったのね。だからこの子も一緒にお父さんが助けてくれないかなって思ってたの」

「昔を懐かしむような遠い目をしないでくれ。まだ全然純粋だろ。多分。ん? ていうかその時からずっと好きだったってこと?」

「いや、中学校上がってからこの前会うまで忘れてたよ」

 俺の対面に座ってる女性は感動的な話をさっぱり切り捨ててきました。誰か助けてクレメンス。ラノベ展開とかそういうの無いんですか? 

「いや、そこはずっと好きだったんだよね……とかの流れじゃん! そんなに、いやぁ、忘れてたわぁ~みたいに簡単に済んじゃうの?? つらい思い出を一緒に共有したからこそ記憶に色濃く残ってて忘れられなかったの! とかそういうの無いの!?」

「いや、アニメとか漫画の読みすぎでしょ。確かにあの経験を一緒にしてるから今何してるんだろうなぁとかはたまに頭に浮かんだけど、調べたり聞いてみたりするまではしなくてもいいなって思ってたから。あと高校時代に彼氏いたからその時はそっちにかまってて忙しかったんだよね。あいつに事件の話はしてないけど」

「平気でいろいろと新事実を挙げてこないでぇぇぇぇ!!」

 あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なんか壊れたわ。俺の中でなんか壊れたわ! 理想と言う名の思い込みが壊れたわ。

「頭抱えなくてもいいじゃん。オーバーだな~。見た目陽キャでも陰キャでもないけど、考え方は完全なオタク思考に近いのちょっと面白いね」

「やめて! ちょっとニヤってして面白がって俺の考えてること読まないでよ!」

 有馬はすごく楽しそうにお腹を抱えて笑っていて。まぁ、楽しそうな顔見れてるしそれだったら良いのかなとも思ってしまう。

「……そんなこと考えるのはずるじゃん」

「いや顔赤いっすけど大丈夫っすか?」

「明日のご飯抜きでいい?」

 いきなり目のハイライト消さないでもらっていいっすか? 目が怖すぎます。

「あの、すいません有馬日向様! 申し訳ございません。それだけはご勘弁を、ご容赦ください!」

「ふふっ。そんなことやらないよ~だ」

 …………なんだろう。そんな反応しないでくれよ。楽しまないでくれよ。こっちが反応に困るじゃん。

「えぇ~別に楽しんでるわけじゃないんだよ~? ただ、少し弄るとちゃんと反応帰ってくるなぁ~って思ってるだけ~。あと好きな人には意地悪したくなっちゃう的な?」

 俺の心臓は果たして破裂しないように持ちこたえられるのだろうか。不安でしかない。

「あ、そういえば電話で言ってた。俺のベッドに勝手に潜り込んでた話だけどさ」

 有馬のニヤニヤ顔が瞬時に怒られて言い訳するときの顔になる。

「え、えーっとはい。なんでしょうか。もしかして気づいてましたかね? あれ」

「いや全く気付いてなかったんだけどさ、やめてねそういうの。別に付き合ってるわけじゃないし俺が恥ずかしいから」

「ふーん。付き合ったらいいんだ? そうなんですか」

 ちょっと上目遣いなのやめて。付き合わなくても別にやっていいっていうことには承諾しないからね!

「うん。いや。スゥ―その通りでございます」

「じゃぁさ。そのえーっと私とさ……」

 有馬が目線を下に落として小さい声でそう言って、俺は相槌を打った。

「あの、つ――付き合って……くだ……さい。」

「スゥ――、イエスと言いたいんだけど、もしかしたら自分は勢いと雰囲気に呑まれてしまってるのかもしれないとも思ってて、その状態でイエスと答えてしまったら失礼だなっていうのもあって……」

「は? せっかく人が告白しようとして勇気出したのに。それが返答ってどういうことなの? イエスかノーかどっちかに絞れよこのヘタレがよ。私の目が狂ってたってことで良いかな? ふざけないでくれるかな?」

 あ、待ってワードを間違えたっていうか、言う順番を間違えた。待ってこれ終わった??

「いや、ちょっと最後まで話を聞いてほしいです!」

「嫌だけど?」

「一個だけです! 言う順番を間違えたせいなんです!」

「知らないけど?」

「1回だけ、付き合う前に2人で遊びに行きたいんですよ……」

「そんなの知らない! 空くんの勝手なエゴでしょ!」

 有馬は椅子からすっと立ち上がって自分の部屋の方へ向かっていく。

「あ、ちょっと待って」

「絶対にヤダ! 入ってこないで」

「あっ――――」

 ドアがバタンという音を立てて閉まる。一瞬こっちを向いたときに有馬の目に涙が浮かんでいた。

 泣かせてしまった。謝るだけじゃ自己嫌悪はとても収まらない。

「自分にとって大事な決断はできることなら間違えたくないから、安全な方や少し時間をかける選択肢を取ってしまうのは、俺の悪い癖だって、前から分かってたのに」

 なんでまた大事な時にこういうことをやったんだろう。こういう時こそどっしりと構えていなきゃいけないのに……。

 罪悪感と自分の行動の後悔で涙が出てくる。なんで俺は彼女を傷つけたのに泣いてるの? 

「なんで俺が苦しいと思ってるの?」

 うまく呼吸ができないや。涙がどうしても止まらないんだ。ずっと目をこすってるのに。一向に止まる気配がない。こうやって人間関係ってずれてくんだよね。どうにか修復したくても過去には戻れないんだよ。どうしたらいいの? 大事な時にしり込みしちゃうんだ。

「失敗が怖いんだ。」

 このどうしようもない性格が……。ていうか俺は今まで受験や人間関係で失敗なんかしないように立ち回ってきたじゃん。なんで怖いんだよ。あぁ、全身がかゆくなってきた。


 私はドアを閉めてすぐベッドに入り、布団をかぶった。あ、空くんに泣き顔見られたかな。別にいいや。だって、私凄い頑張ったんだよ? 勇気出して好きになった理由だって話したし、恥ずかしいっていうか、こんなことになって頭が働かなくて、それでも、付き合ってくださいって言いたいことが伝わってて何ならしっかり言えてさ。告白ってすごい勇気居るんだよ? 自分が言いたい!って思っても緊張で変な汗かいて言葉にも詰まってさ。いつも通りの活舌が無くてさ。でもその前の会話は凄い楽しくて、いつまでもこの時間が続けばいいのになぁって思ってたんだよ。ただ一言だけ。いいよとかさ、付き合おうとかさ。そういう言葉さえくれればきれいに収まる話だったんだよ。なんでそこで逡巡するのかな。ためらうかな。本当にふざけないでよ。

「大っ嫌い。空くんなんか大っ嫌い……」

 大っ嫌いなんて言ってるのに何で涙が止まらないんだろ。なんで私の心がぐちゃぐちゃにされてるのに私は彼を憎めないんだろう。なんで嫌いなのに嫌いじゃないんだろう。なんでまだ信じてるんだろう。

「最悪。本当に最悪。顔も見たくない」

 もう嫌だ。彼と一緒にいたくない。だけど、そこだけを抜いてしまえば幸せではあるんだろうな。なんかそんな気はする。あぁ、私バカだな。なんで自分が譲ろうとしてるんだろう。こんな恋心簡単に捨てられればいいのに。ねぇ、苦しいよ。どうすればいいの?悲しいよ。つらいよ。なんでこんな目に合わなきゃいけないんだろう。うまく呼吸ができないし、涙止まらないし、絶対ひどい顔してるじゃん私。何が慎重でだからしっかり考えてくれる人だよ。裏目に出てるじゃん。

 あ、あと30分くらいで明日か。寝ないとな。そう思った時にドアがノックされた。

「有馬」

 ドア越しから空くんの声が聞こえてくる。

「話しかけないで!」


 時刻は0時からさらに20分くら過ぎたころ。俺は用意してくれてたご飯を食べ、食器を洗って戻した。そして反応が返ってこないとわかりつつ有馬の部屋のドアをノックする。

「有馬。起きてたらさっきの事謝りたいんだけど……」

 返答はなし。さすがに寝ちゃってるかな。ていうか、俺って人付き合い本当に下手だな。どうしよう。一旦寝て明日の朝また会ったら話そう。


 朝俺がいつも通りの時間に起きたらいつもはキッチンかリビングにいるはずの有馬の姿はなく、スマホはソファの前のテーブルの上に。そして朝ご飯を食べるのに使った食器は片づけてあって、いつも探偵社に行くときの靴が無く。

 一瞬家出という嫌な予感が頭をよぎったが、流石に仕事もあるし、ないだろうと思った。しかし、万が一にもただスマホを家に忘れたとしたらスマホ無いとと困るだろうしすぐに届けよう。そうしよう。

 そう言って俺は身支度を整えるだけ整えてからすぐに探偵社に向かった。

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