第16話 安心と信頼

 俺は急いで探偵社に向かった。しかし入る時は出来るだけ平静を保ってドアを開けた──

「おはようございます」

 そこには自分のデスクの整理整頓をしている大和先輩とパソコンで何やら作業をしている有馬だけだった。

「空。お前今日早くないか?今日は日向も早かったけど、どうした?」

 書類整理から顔を上げた大和先輩は不思議そうに俺ら2人を交互に見る。

「特に何も無いですよ。私に関しては昨日の異能取り締まり局のことについてもう少し調べたかったんで早く来ただけです。別に彼がなんで早く来たかなんて知りません」

「……空、ちょっと会議室来てくれるか?」

 大和先輩が掃除用具をしまって俺に手招きをしている。え、あぁはい。と言って俺は会議室に行き、

「お前ら何があったんだ?」

 開口一番にそう言われた。ウン。ソウデスヨネ。キニナリマスヨネ。

「喧嘩というかなんというか。俺が一方的に悪いんですけど……」

 うん。続けていいぞ。と椅子の背もたれに体重を預けて腕組みをしながら大和先輩が話を聞いてくれる。

 俺は昨日のことを大和先輩に話して――

「いや、それ結局仲が悪くなった理由ってお前のせいじゃん。ていうか、その会話の流れでそんなこと言うとかお前どういう思考回路しての? そこはしっかりイエスって答えろよ意気地なし」

「いや、責められても何も文句言えないんですけど、いつも以上に当たり強くないっすか?」

 あと真顔やめてくれ。ていうか、俺軽く引かれてるじゃん。

「ちなみに今聞いた話だと、一番最悪よな。承諾をしてもないし振ってもないし。お前拗らせ過ぎだし」

「その通りです……」

「ちなみに謝ったり、なにか埋め合わせ的なものはしたのか?」

「謝ろうとしたら、話しかけないでって一蹴されまして」

「んー。そこまで来ると俺にはどうにもできないな。どうにかがんばれ」

 そう言って大和先輩は席を立ち会議室を後にした。会議室に一人取り残された俺は家出が杞憂でよかったのはそうなんだけど、俺が関係を拗らせたせいですごい気マズイ。一旦夕方くらいまで仕事頑張って今日は塾のシフト入ってないから何か埋め合わせ出来ないか考えとくか。そして俺は会議室を出て本来の目的の1つを消化しに行く。

「有馬。家にスマホ忘れてたから、デスクに置いとくね」

「あ~。ありがと。ていうかわざわざこんな早く来る必要なくない?」

「起きたらいつもリビングとかにいるのに食器片づけ終わってるし靴無いしであれ~どこにいるんだろうなぁってなってたから」

「ふ~ん。心配だったんだ」

「そりゃもちろん。一緒に住んでる人がいつもと違う行動してたらさすがに心配になるよ」

「原因は空くんだけどね」

「あ……。はい。ごめんなさい」


 さっき空の話を聞いて今の2人の会話を聞いてるけど、両方とも拗らせてないか?            

 というかどっちもコミュニケーションという面において弱すぎるだろ。危機感持った方がいい。と言うかまだ子供だなって解釈の方が正しいのか? まぁどちらにせよ。俺としては必要な時に助言をできるようにはしとくかぁ。本当は本人たちで解決してほしいんだけどなぁ。


「おはようございま~す」

 テンション高めな声と共にドアが開いて百々さんが入ってくる。

「あ、百々さんおはようございます」

「あれ~日向ちゃん元気ないじゃん?どしたの?」

「まぁ、かくかくしかじかで」

「そのかくかくしかじかが聞きたいんだけど?」

「後で話します。ていうかあんなこと勝手に暴露しておいて、後で夜ご飯奢って貰うのと洋服買う時手伝ってくださいよ」

「え?そんな事でいいの? でも直ぐには無理かなぁ。あと2週間位は仕事溜まってるし。あ、でも今日のお昼かくかくしかじか聞きたいし私の奢りでどっか2人で食べに行かない?」

「奢りなら行きます」

 百々さんはなんか日向ちゃんが強欲になっちゃったなぁ~と言いながら明るく笑っている。


 お昼休み中私と百々さんは近くのカフェにお昼ご飯を食べに来ていた。因みにサンドイッチめちゃくちゃ美味しい。ツナの風味とチェダーチーズの味がいい感じにマッチにしててお腹がいっぱいにならなければもう一個食べたくなる。

「それで、昨日のお話の結果どうだったの?」

 百々さんが一旦食べる手を止めて聞いてくるので昨日の出来事の一部始終を話しておく。

「え? あの流れから付き合うってならなかったの!? うそぉ……。なんて言うか。タマついてるのかな? 大丈夫そ」

「いやさすがに付いてるとは思いますよ」

「そこはついてますよとか言ってえ? お風呂一緒に入ったの? とかの流れにしてよ」

「無茶なこと言わないでくださいよ。あ、でも脱衣所に入ってきて私がお腹見られたりしましたけどね」

「いや、そこはガッツリ上脱いだ後すぐとかの方が空くんに精神的にダメージ行ったんじゃない?」

「あの。何言ってるんですか? それ私にもダメージ来ますよ。ていうかお嫁に行けなくなるんですけど」

「その時は空くんにもらって貰う方針で」

「……嫌ですかね」

「一瞬考えたね」

 わざわざ言わないで欲しいな。

「それはともかく、どうするの? これから。空くんと一緒に住まなきゃ行けないのは確定だし、関係性をこのまま冷えた状態のしておくのは違うでしょ。謝ってもくれてるしさ」

「そうなんですけど! そうなんですけど……、私が今は落ち着きたいっていうか、気持ちに整理をつけたくて」

「なんの整理? 好きなのか好きじゃないのかってこと?」

「そんなところです」

「それで冷める恋ならそこまでだと思うわよ。2人でどこか出かけたりしてもう1回しっかり見極めて来なさいよ。そうした方が気持ちもしっかりしやすいでしょ」

「これで冷めるならそこまでね。ていうか2人ででどこかお出かけか~」

「そう。無いの? どこか」

「アウトレット行きたいなぁと思ってはいるんですけど、荷物が大変なんですよね」

「じゃ荷物持ち要因で連れて行ってもいいんじゃない?」

「そういえば1週間なんでも私のおねがい聞いてくれるじゃん」

「え、なにそれ初耳なんだけど?」

「いや、さっき脱衣所を覗かれたって話したじゃないですか」

「ラッキースケベね」

「ふざけないでください。それはともかくそのあとにお願いを聞いてくれるって約束してくれたんですよね」

「ふーん。じゃそれ使って付き合ってくださいって言えばよかったじゃん」

「………………確かに」

「まぁでもデートに行くのに使ってもいいんじゃない? 楽しんできなさいよ」

 百々さんが時計を見ると既に話初めてから20分ほど経っていて──

「さすがに食べちゃわないと午後から遅刻になりますね。あとデートの約束は無理やりにでも取り付けます」

「よく言った!」

 因みにちゃんと午後の始まりには間に合った。


 仕事が終わり私が家に帰るとドアの鍵が空いていた。え、誰か泥棒でも入った?用事してドアを開けると靴の数に変化は無い。というか空くん帰ってきてるんだけど。

「ただいま~。空くん帰ってるの?」

 そうするとキッチンの方から声がして

「うん居るよ~。ケーキ買ってきたんだけど食べる?」

 と聞かれた。

「え、なんでケーキがあるの?」

「食べたくなったから買ってきた」

「私に能力を使わせないでください」

「……なにか埋め合わせというかなんというか。そういうことをしたかったんです」

「素直でよろしい。ちなみに何ケーキがあるの?」

「えーっとショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン」

「1人1個じゃないんだ」

「まぁ俺か有馬が2個食べてもいいし、余ったら冷蔵庫入れとけばいいじゃん」

「いや私が2個食べる」

「……いいよ」

「え、何食べたかった?」

「そういう訳じゃなくてカロリーとか気にしないのかなぁって」

「空くんが心配することじゃないでしょ」

「全然太ってないし確かに杞憂か」

「ねぇどこ見てるの? 本当にぶん殴るよ?」

『え……お腹まわ──』

 空くんにビンタをお見舞いする。

「普段は心読まないって言ったじゃん!」

 お腹より上じゃなくて良かった。良くないけど。

「今回は別だよ~だ。さっさとケーキ食べよ。私ショートケーキとチョコレートケーキ食べる」

「あ、うん」

『パッと見いつも通りに見えるけど、許してくれてるんだろうか』

 なわけないじゃん。しっかりデートしてもらいますよ。


「そういえば空くんさ、脱衣所覗いた時のこと覚えてる?」

「え、覚えてるけど」

「ふーん変態」

『え、あー。やったこれ絶対やったやつだ。オワタ』

 意外と考えてること読むの面白いなこの人。「ちなみに忘れてるって言ったら、やられた側覚えてるのに酷いねって答えるよ」

「どちらにせよ。話題的にどう転んでも俺にとってマイナスじゃない??」

「2択っていう意味だったら当たり引いたかな」

「ほないいか」

「全然良くないけどね」

「あ、スゥー……はい」

「で話の続きなんだけどさ、あの後に1週間のうちに私のおねがいひとつ聞いてねって話したでしょ」

「あーあれか」

『そういやそんな話あったなぁ。ていうか俺がその権利を使われて付き合ってくださいって言われたら確実に付き合ってたかもしれないな』

「確かに私も使わなかったんだけどね!」

「あーすいません。そうですよね」

「まぁその使い方も悪くは無いんだけどさ、今週の土日のどっちかアウトレットに行きたいなと思っててね」

「荷物持ちでもATMでもなんでもやります」

「話が早くて助かるわ。ATMにはならないで欲しいけどね」

 ワードチョイスが狙ってるのかそうじゃないのか分からない時があるの本当になんだかなぁ。笑っちゃうじゃん。

「まぁそんなわけで着いてきて欲しいんだけど土日のどっちがいい? 私はどっちでもいいの」

「どっちも1日空いてるんだよね。ちなみにどれくらいから行くの? 朝から? 昼から?」

「んーお昼からかな~」

「だったら土曜日とかでもいいんじゃないかなって思ったけど、14時からバイト入ってるわ。日曜でいいっすかね」

「え、土曜日ってバイト入ってないんじゃないの?」

「あーテスト前は別に特別授業みたいなのがあってそれが土曜日なのよ」

「大変だね~」

『なんか棒読みぽいけど本当に思ってるんだろうか』

「棒読みで悪かったわね」

「いや、ぽいだから。それっぽいだから!」

「そんなに変わんないじゃん」

「えーっととにかく日曜で大丈夫なんですか?」

「スルーしないでよ。後私はどっちでも良いから日曜でも良いよ」

「よし!日曜だね!カレンダー入れとこ」

 そう言って空くんがスマホをポッケから取り出して画面をフリックし始める。

 なんで私より楽しそうなの? そんな雰囲気出されたらちょっとこっちも楽しそうだな~って思っちゃうじゃん。心読んだら純粋で少年の心を持ってて。こっちの悩みなんか消してくれるかもって錯覚するくらい元気なんだよね。だけどヘタレなんだもんね。訳わかんないこの人。

「打ち終わったし残りのケーキ食~べよ。いやそんなにジーって俺の方見てもあげないよ」

 察しが悪いのはワザとじゃないんだろうなぁ。でもちょっとこの返答はネタに走ってるのかな?

「別に要らないよ。もう2個食べたし、これ以上食べたら太っちゃう」

「いやそんな──」

「やめて」

「ハイ。すいません」


「そういえば今日の夜ご飯どうしようか」

 俺はケーキを食べ終えてコーヒーを飲んでゆっくりしている。

「この時間にケーキを食べるもんじゃないよね」

「この時間に買ってきたのが間違いだったかぁ。ちなみに別腹判定ではない?」

「それメインの料理食べてから言うことだから。あと別腹の概念いまいち分からないし」

「まじでそれな。胃は1つだよって思う」


 うーん。これは仲直りできたってことで良いのかな。できてないとしても少なくとも前までの冷え冷えな状態じゃないから良い方向に向かってるのかな。

 てかデートか。何着ていこうかな。でも有馬が楽しかったよ! って言ってくれたら良いかな。

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