第18話 重役出勤ではなく失踪

 日向とアウトレットに行った次の日。朝礼だけでなく、緊急で会議が開かれていた。

「緊急招集してしまって申し訳ない。今回集まってもらったのは探偵社の社員のうち2名が音信不通になっていて行方不明になっている。」

 社長が言葉を発した後、会議室の空気がピリつき始める。今現在会議室にいるのは俺、日向、大和さん、社長。優斗さんと百々さんが居ない。そしてこの話の内容だ。誰がいないかなんて明白だろう。

「その捜索をするために今後どう動くかという事。そして日向はわかると思うが、現在異能取締局と合同で身体能力強化の能力者の出所を調べていて、わかり次第合同で潜入。又は組織の殲滅等を行おうとしている。しかし、今回行方不明の2人は重要な戦力や重要な役割を任せようとしていたメンバーのため、どういう役割を各々が全うするかをここで割り振りたい。本当はアジトの場所が分かってからすぐに話をする予定だったが致し方がないと思われる」

「「「「「……………………」」」」

 空気は決して重くない。だけど、状況を飲み込んだうえでみんな考えていると思う。あの2人が生半可な出来事で音信不通になるだろうかと。

「ここにきて一番時期が短い俺が言うのもおかしいかもしれませんけど、あの2人が簡単に誘拐や事件に巻き込まれて音信不通になりますかね?」

「まずありえない。優斗に関しては俺らの中でトップクラスに能力が強く、その扱いにも長けている。ここに入る前は何をしていたかは不明だが、実力は確かだ。百々さんに関しては能力こそ戦闘系ではないにせよ。肉弾戦における戦闘術では大体の人には負けることはない実力者だ」

 大和さんが険しい顔をしながら腕を組んでそう言う。

「社長。話を続けてください。百々さんと優斗さんを助けましょう。私は百々さんには恩がありますし、優斗さんに関してはむかつくところもありますが無駄なことはしない人だと思ってるので」

 俺と大和さんはアイコンタクトをして頷き。社長が話し出す。

「まず、アパートと探偵社の防犯カメラを調べる。そしてそれで情報がつかめたら追っていこう。掴めなかったら、空。能力を使ってくれ」

「……ッ! 俺、ですか?」

 予想していなかった発言に俺は思わず社長の方を聞き返してしまう。

「優翔から能力の詳細は聞いている。それで結果が期待できなかった場合も備えてもう一つ知り合いの協力者を頼ることにしているから安心してくれ」

「協力者ってだれですか? 異能取締局の人間だったりするんですか?」

 俺が大和さんにそう聞くと、頷いて話し始める。

「社長が異能取締局に直々に連絡をして力を貸してくれるようにお願いをしたらしい」

「次に分担だが、アパート周辺の監視カメラは空と日向。2人で調べてくれ。俺と大和で家に何か手掛かりになりそうなものがないか探してみる。その後に異能取締局にここ最近で活発に動いている組織がないか調べるつもりだ。この割り振りに何か意見はあるか?」

 俺らはみんな首を横に振って満場一致で社長の分担に賛同した。

「今現在通常業務は少なく、ありがたいことに期限がまだある。よって、この件の優先度を上げて取り組もうと思う。それぞれの仕事にとりかかってくれ」

 この場にいる社長以外が「はい!」と返事をして2つめの話を聞く準備をしている。

「そして2つめの潜入捜査の割り振りだが、私と大和は潜入する。そして日向と空は後方支援をしてほしいというのが私の意見だ」

 俺はその意見に違和感を覚えた。能力としては俺は戦闘に応用可能な能力を持っている。なのに後方支援とはどういうことだろう。日向みたいに非戦闘系の能力で且つ戦闘に応用したとしても絶大な効果を発揮できない能力と言うわけではないのに……。

「社長。なんで俺は後方支援なんですか? 優斗さんから俺の能力の詳細を聞いているんですよね??」

 社長はその質問は来るだろうという読みをしていたのだろう。表情を一切変えず真面目なままで言った。

「確かに能力の詳細は聞いた」

「だったら俺を――」

「最後まで話を聞け!!」

 俺に向かった社長の喝が会議室に響き――そして一呼吸おいて続きを話し始める。

「能力を使えるという事に気づいてからまだ日が浅い空を私は現場に送ることができない。たとえお前の過去を知っていてもだ」

「……俺の過去の何を知っているんですか?」

 俺は声を絞って問いかける。社長の目を見ると固い意志がはっきり見える。

「お前が忘れているものも覚えているものも全部。真也から聞いてるからな」

 また死んだ人の名前が出てくる。なんでまたそんな名前を聞かなきゃならないんだ。次は誰だよ。お父さんか? お母さんか? 人間は簡単に生き返らないんだよ。

「簡単に死んだ人の名前を言わないでください。死んだ人は生き返らないですよ?」

 知っている。社長がそう返して俺はなにもいう気がなくなった。訳が分からない。俺が知らないことがあるのかもしれないけど、なんで、なんで俺は無力な扱いをされるんだよ。

「真也に約束したんだ。お前がもしうちに来るときがあったらぜったいに絶対に殺さないって」

 やかましい親族だよ全く。何をあの人にしてもらったのか覚えてないけど、でもあの人のおかげで今を生きることができている気がする。そう確信できる。

 ――もし必要なら俺が乗り込めばいいんだ。社長と大和さんなら戦闘能力はぴか一だしまずは大人しくしよう。

「わかりました。社長の割り振りで大丈夫です。でも後方支援とはいえ危なくなったら速攻助けに行きます日向と2人で」

 社長は頷いて

「さて、それぞれ仕事を始めてくれ」

 そう声をかけた。


 俺と日向はデスクでアパートと探偵社の監視カメラの情報を管理会社から特別にもらって、俺は探偵社、日向がアパートと分けてみている。昨日までは居たため、見る時間を絞れるのが幸いだった。

「にしても何度見返しても百々さんも優斗さんも見つからないんだけど?」

 日向は目薬を差してため息をつきながらボヤく。

「探偵社の方も特に収穫なしだよ。こっちはある程度そうかなぁって思ってたけどね」

 探偵社のカメラは出勤と退勤しか映ってないし、アパートの方は出入口を通った時以外写っていない。出勤と退勤の時間から考えても途中で寄り道をしたとは思えない。まっすぐ家に帰れば着く時間に写っていた。

「なにか能力者に瞬間移動でもさせられたかな?」

 頭にふと思い浮かんだことを口に出してみる。

「まぁ、あながちその可能性が無きにしも非ずではあるだよね。空もできるだろうけど、世の中には瞬間移動できたりとか、別の空間をつなげることもできる人もいるしね」

 あながち間違いじゃないのか……。

「ていうか、俺もその類の能力者じゃん」

 日向はそうだよ。と言いながら怪訝そうな顔で俺を見る。いや、自分みたいな能力持ってる人なんかいるの当たり前でしょ見たいな顔しないでよ。頭から抜けてたっていうかなんていうか。まぁいいや。

「一旦家の方見てる社長と大和さんの報告待ちかな。こっちの捜査状況後で言っとかないと」

「そんな感じかなぁ。ていうか結局俺が能力を使って人を探すっていうのはどうやってやるんだろう。自分の中でイメージできないだよねそれ」

「なんかさ、その人に集中するとそれぞれ違いが感じられない? なんかその人だけの形っていうか、魂っていうかさ」

 顎に手を当てて何とか感覚を言葉にしようとしてる日向可愛い。それはともかく人に集中するっていうのやってみるか。

 深呼吸をして空間を網状に見る。そして空間に五感を感覚を溶け込ませる。そして隣に座っている日向に感覚をフォーカスをしてみる。……これは。

「どう? 能力に入り込んでる状態から帰ってきたぽいけど?」

「なんか空間自体を操作するときって空間を網目に感じてて物体をもやみたいに障害物みたいに感じてるんだけどさ。それそのものにフォーカスするとその物体の特徴とか細かい形とかが分かるみたい」

「つまりどういうこと?」

「その場にある物や居る人の特徴がはっきりとわかるってこと」

「空くんの考えを読んでたけど、私にフォーカスを当てたらしいね」

「いや、まぁ。そうっすね」

「私の外見的特徴についてしっかり分かったと……」

「えーっとそういう解釈もできますね」

 んー。これはまずい流れだ。土下座の準備しとくかな。そう思った矢先。俺の頬にビンタが飛んできた。

「はぁ。最低だわこいつ。羞恥超えて呆れるわ」

「でも基本的には普段資格を通して見てる状態と変わらないから別に透視とかではないよ」

「でも《基本的には》でしょ?」

 やべぇ、墓穴掘ったわ。


 あのあと俺はもう一発ビンタを食らって、険悪ムードな状況だったんだけど、その後にまぁ、空くんならなぁとか言われ始めて、ツンデレとか言うレベルじゃないなぁ。ちょっと怖いかもしれない。って思ってた。そして社長たちが合流して――。


「監視カメラはやはりハズレか」

 大和さんは俺たちの報告を聞いて、案の定という反応をしていた。そして自分たちの報告を始め、頭を抱え始めた。

「それで、家の方を見てきたんだが、特に荒らされた形跡もなかったんだ」

「二人の共通の友人か、それとも本人たちが了承をして連れ去られたかのどちらかといったところだろうか」

 社長が考察を口に出す。了承して連れ去られた……?

「あの、了承して連れ去られることってあります?」

 不思議すぎて口に出てしまった。

「たまにあるの。そういう時がね。例えば誰かを人質に取られていたり、致し方なく条件をのまなきゃいけない時とかは起こることが多いわよ」

 俺の疑問に日向が回答をくれる。そのあとに大和さんが俺たちに向かって

「一旦周辺のカメラも見て情報をできるだけ拾っていこう」と言った後、

「空、能力の応用で人探しはできないか?」と聞いてきた。

 俺はさっき能力を使って分かったことを伝える。

「俺の能力はどうやら現在の空間に存在しているものに対して効果を発揮するみたいで、前にこの空間にいたからそこから今の位置までトラッキングするのは不可能そうです。時間でも操れたらできそうなんですけどね」

 社長はうーんとうなりながら手段を考えているらしい。

「それが無理となると、やはり協力してもらうほか無いか」

「あの人ですね」

 なにやら社長と大和さんが頷きあっている。え、誰。

「日向。2人は誰のことを言ってるの?」

「いや、私も知らない」

 日向は首を振って誰の名前が出てくるのかうかがっている様子だ。

「二人は知らないよな。異能取締局にいる過去視パストウォッチャーの能力者を」

「え、何その中二病拗らせたような二つ名持ってる異能力者の人」

 正直ドン引きではある。いや、共感性羞恥だってそれ。ていうか日向の口元がほころんでるのはなんで?

「まぁ、共感性羞恥が凄いわねその名前。後、大和さんが恥ずかしげもなくその言葉を言ってるのが今じわじわ来てる」

 あーそういうことですか。理解理解。

「大和の尊厳のために言っておくが、能力者の中には観測者ウォッチャーという役を担っている人が必ずいる。ただそれが、多くは未来を断片的に見ることができるしか持っていないのだが、ごくまれに過去を見ることができる能力者がでてくる」

 社長は一拍開けて話をつづけた。

「過去を見ることができる観測者が現れたときは決まってその時代にとてつもない災害や、事件。そのほかには戦争など。そう言った災厄が起こるんだ」

 ねぇ、とんでもないこと聞いちゃったんだけど??? そんな時代に生まれて損したわ。って言おうとしたけど、俺も能力の内容的にはトップの能力らしいしどうにかできるのかな?

「ちなみにその時代には五大能力者ファイブホルダ―も集結する。まぁ、手を取り合って災厄を止めるときもあれば、敵味方に分かれて世界を巻き込む規模になったりするらしいがな」

「社長。今のところ俺しか五大能力者を知らないんですけど、あとの時間操作と重力操作と精神操作と予知能力の人はどうしたんですか? ていうか、過去視の能力者が予知能力持ちってことではないですよね?」

 社長はそれは無いから安心してくれ。別の人が居る。と言った。それはそれでありがたいのか? と言うよりかはみんなで手を取り合って仲良く世界救おうぜ。ペンは剣よりも強しっていうでしょ。知らんけど。

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裏探偵社へようこそ 青山蒼悟(あおやまそうご)@日常異能力系 @Perfif

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