裏探偵社へようこそ

青山蒼悟(あおやまそうご)@日常異能力系

プロローグ

 息が切れて、呼吸がしにくい。森の中だから木の根っこや落ち葉に足を取られて走りにくい。けど俺は追ってから逃げなければいけない。まだ死にたくないから。アイツに復讐したいから。俺はあいつを殺さなきゃいけない!


 俺はログハウスであったことを思い出す。

 サークルの中で仲がいいメンバー4人でここまで旅行に来て、3泊4日で変える予定だった。だけど2日目午後、つまり今日の午後。俺らの居たログハウスに黒い仮面の男が入ってきた。

「おい、出てけよ。このコテージ借りてるのは俺らなんだからさ、勝手に入ってもらっちゃ困るって」

 俺はそう言って男に出て行ってもらうように促す。

 今ここにいるのは男は俺1人、他は女性が2人。もう一人の最近垢ぬけた元陰キャは今はどこにいるのか知らない。早く戻って来いよアイツ。遅せぇなぁ。

 そう思っていると、男は懐から肉切り包丁を取り出した。そして次の瞬間……。俺の後ろでバギィと鈍い音がした。何があったのか後ろを振り向くと、愛奈が柱にナイフとともに首をうなだれながら張り付けられていた。俺は走り出していた。身の危険を感じたから本能的にこの場所から逃げ出していた。この辺りは人気が少なく、避暑地の中でも比較的高くない場所だから助けは呼べない。だったらできるだけ遠くに逃げなきゃいけない。電話をしてて殺されました、ではなにも良くない気がする。何とかして生きたい!

 俺は休憩しつつ、思い出していた。一心不乱に森の中を走っていたらいつの間にか町へと続く道を外れて森の中へ入ってしまったらしい。遭難ですか。せっかくあの女二人と酒飲んで騒ごうと思ってたのに。邪魔しやがって、俺は楽しみがなくなるのがものすごく嫌なんだよ。俺は念のため、まだ走り続ける。遭難してるんだ。ここからどう動いたって変わらないだろ。


 アイツから逃げ続けていると不意に左のふくらはぎのあたりに衝撃が走り足に力が入らなくなって転んでしまう。その直後猛烈な痛みが俺の左足を襲う。確認してみるとそこには深く折りたたみ式のナイフがささっていた。

「はぁ!? あいつなんで俺の場所分かるんだよ? 結構逃げてたのに。犬かあいつは?」

 片足が使えない俺はそれでも這って逃げようとする。

 後ろから葉っぱを踏む音がして振り返ると、そこには肉切り包丁を振りかぶるヤツがいた。黒い仮面を被っていて、そこには線で書いた白く歪んだ笑みを浮かべている。

 もう終わりだ──と思った時、葉っぱが舞って犯人が吹っ飛び、後ろの木を折りながら倒れる。

「あの男は所詮ヒョロガリだな。蹴り飛ばすの簡単だわ。……あ、そうそうお前は力が欲しいか? あいつを殺せるぞ?」

 ヤツを吹っ飛ばしたであろう黒いコートを着た男は膝をはたきながらそう言った。

「どういうことだ?」

 俺は一度にいろいろなことが起きすぎて状況が理解できなかった。

「お前は逃げたコテージであの気絶してるデカブツに女友達と彼女を殺されたんだろう。いや、女友達はお前のものになったか。奪ったからな。まぁいい。今ならお前にヤツに復讐できる力をやろう」

 男は一拍置いて、さぁ、どうする? と聞いてきた。

 どこまで俺のことを知ってるんだ? けど願ってもないチャンスだ。俺はそう思って返答する。

「欲しい。その力とやらをすぐにくれ!」

 そう答えると男は小石を取り出して言った。

「これを握りつぶせ。すぐに壊れるから壊れないっていう心配はない」

 俺は受け取ったあと言う通りに潰した。体が熱い。思考がクリアになる。パチパチと音を立てながら足の傷が治っていく。そこから俺はナイフを抜き獰猛な笑みを浮かべる。

「お寝坊さんが起きたぞ」

 男が指を指している方向を見るとヤツが起き上がって頭を降っているところだった。

「よォ、こっからは俺の番だ。好き放題やらせてもらうぜ」

 楽しくなって来た。口角が上がり、笑い声がもれる。それが高笑いに転じ、アイツに向かって走り出す──。


 さて、この駒はどこまで使えるかな。とコートの男が呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る