3.B子

 昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。


 先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。


 いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。


 ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……僧侶には向いていないタイプの方です。


 そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。


 先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。





 シフトは昼勤で、次の日はおやすみだったその日は冬の近い秋でした。時間は、夕方だったと思います。日も短いので空はもうすっかり暗く、寒いのが苦手な私は既に設置済みだったこたつの中でぬくぬく横になっていました。こたつの中には愛猫2匹がおり、お昼寝をしています。

 そんな中、携帯電話(この頃はまだガラケーでした)が鳴りました。ディスプレイを見ると、先輩の名前。嫌な予感しかしませんでしたが、無視した場合の後日のやりとりの方が大変だろうと思い渋々、通話ボタンを押しました。


 内容は、今から迎えに行くから支度して待っているように、とのこと。面倒くさいなと思いながら仕方なく身支度をはじめ、完全防寒で待機。ちなみに、先輩宅から私の家までは車で30分ほどです。


 以下、先輩の語りにて進めます。





 さっきぶりー。とりあえず乗って。さて、今日は俺んちにご招待~。え、何、嫌なの?やだ、エッチな事考えてらっしゃる?オホホッ。ない、ない。ツレと鍋やる事になったんだけど花がねーって言うからお花咲かせるためにお迎えに参った次第でござるわ。

 大丈夫、大丈夫。お前も何回か会った事あるやつだから。ホラ、たまに店に来るやつ。そうそう、セブンスターのアイツ。最近彼女にふられたとかで今俺んちでめちゃ飲んでんだよ…。着いた頃には潰れてたりしてなー。


 ……着いた着いた。俺んちここの2階な。


(2階建ての綺麗なアパートです。部屋は、1階に2部屋、2階に2部屋の1棟計4部屋。それが2棟あって、先輩が済んでいるのはB棟の202号室です。ちなみに2DK)


 お、まだ潰れてなかった。


私「こんにちは」


A(先輩のおツレさん)「おーこんちは! バイトお疲れさまー。隣おいで!」


 ダメダメ、酔っ払いの隣は危ねーからお前は俺の隣座っとけ。さて。Aよ、飲まないとやってられんっつーのはわかるけどな。なんでふられたんだよ。ついこの前まですげー仲良かっただろ、お前ら。ちょっと、信じられなくなるくらいには。


A「そうなんだよ、聞いてくれよ! B子のやつ、他に好きなやつが出来たって。なにせ急だろ? おかしいなと思ったよ、俺も。どこのどいつか聞いたらさ。これがまたおかしい話で……夢でいつも会ってた人とついに現実で会う事が出来たーとかいうんだぜ。気でも狂っちまったのかと思ったわ」


私「それは、不思議な話ですねえ」


A「だろ? でも俺ももう、わかった、としか言えず、よ。あれから連絡も全然とってなかったんだけど、仲良かったB子のツレが今日連絡してきたんだよ、俺に。何事かと思って話聞いてて、内容がなんかおかしいなと思って。んで、俺はお前に連絡したわけだ。そして今に至る」


私「おかしいって、何かあったんですか? B子さん」


A「その子の話だと新しく出来た彼氏を紹介されたらしく、そいつがまずおかしいんだ。色白でほっそくて、背の高いひょろ長。顔はイケメン」


私「……なんか先輩みたいですね、それだけ聞くと」


A「おお、俺も思ったわ。んでな、こっからよ。挨拶はかろうじてしてくれたらしいけど、なんも喋らねえんだって。ずっとにこにこしてるだけ。で、何かを伝える時も全部、B子を介して会話をする……こう、耳打ちみたいな形で。ただ単に声が小さいだけかと最初は思っていたらしいんだけどさ、耳済まして近づけてみたら、スーって、息の音しかしないんだって。声はもちろん聞き取れない。それで、B子はB子ですげー痩せたらしくて。もともと結構、ぽっちゃりしてたんだわ。俺、女は肉付き良い方が好きでさ。抱きしめた時ふかふかじゃん。それが、頬もこけちゃって、手足もなんかごぼうみたいになってたって。身なりはしっかりしてるのに髪も白髪が混じり始めてたみたいでな。まだ、25だぜ? そんな急に老け込むかねえ」


 ……ちょっとさ、B子ちゃんに電話とか掛けられねーの?…まあ無理だよな。じゃあさ、写メとか残ってるならそれ、見せてほしいんだけど。なるべく直近の。さんきゅ。


 ああ、なるほど。なんつーか、ダメっぽいな。お前ら、見える?このB子ちゃんの左肩らへん。黒い煙みたいなの。僅かだけど。体にまとわりついてる…っていうよりかは、体から放出されてるに近いかも。憑いてるのは男の方、どういう経緯かはわかんねーけど、B子ちゃんの夢に出てきてちょっとずつ引き込んで…捕まえちまった、って感じかなあ。


 男と引き離せば戻れるだろうけどさ、たぶん狂ったように会いたい会わなきゃってなるだろうからそれこそ拘束して檻の中にでも突っ込んどかないといけねーよ。男の方は、お祓いでも行ったらいいんじゃね。ここまで一体化してると祓えるかわからんけどさ。兄さんにちょっと、聞いとくよ。なんとか出来そうなら、連絡する。


A「ああ、いや。正直あんまり関わりたくないって思っちまってる薄情な俺もいるからさ。あんなに好きだったのに、おかしいよな。いつもはすげー引きずるのに、今回は全然。それもなんか関係してる? ……わけないか」





 そうして、Aさんは飲みすぎたせいで床で寝てしまいました。私は先輩と後片付けをしながら、B子さんと現彼氏である男性について話していました。





 Aが、彼女引きずらずに済んだのはたぶん、その憑いてるなんかのせいだと思うんだよな。俺が助けてやる!なんてなられて引きはがされたんじゃたまんないだろ?憑いてるやつもさ。薄情なんじゃなくて、たぶんそう、仕向けられて操られたんだろーな。って思ってる。俺はね。


 ところで。夢の話されてた時のお前、なんかちょっと……変だったけど。似たような、心当たりでもあるの?


私「何にやにやしてるんですか。でも当たってます。私も似たような経験があって。夢の中で、男の人が私を呼んでる、っていうのが何度もあったんですよ。それも毎回同じ人」


 あった、ってことは過去形?最近は見ないの?


私「たぶん見てないです、最近は。見てて覚えてないだけかもしれないけれど。しかも、今となってはその男性の顔、思い出せないんですよね」


 ふーん。まあ、その話はまたゆっくりしよう。そんなことよりコイツここに置いとけないぞ。風邪ひく。隣に俺の布団敷いてあるから運ぶぞー。手伝えー。





 そこでその話は終わりAさんを隣のお部屋に運びました。そして先輩と私は、残ったおつまみを食べながらテレビを見て過ごし……。日付が変わる前に、私は家に送ってもらい先輩とはその日は別れました。


 その時、先輩には言わなかったけれど、私がその夢を見なくなったのは先輩と出会ってから。そして初めて先輩に出会った時、初めてじゃないような、すごく懐かしい感じがしました。


 そして帰宅すると、こたつの中で寝ていた愛猫が出迎えてくれ…。玄関先まで送ってくれた先輩に向かって、にゃーん、と鳴きました。


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