先輩と、わたし

スズキ

先輩とわたし

1.箱の話

 昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。


 先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました。)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。


 いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。


 ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな…僧侶には向いていないタイプの方です。


 そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが…ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。


 先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになったのはまた別のお話。



 先輩は一人暮らしをしていたのですが、バイト後実家に寄ると墓参り用の駐車場に高級車が停まっていました。手入れの行き届いたピカピカのセダンだったそうです。興味本位で、ご実家の家屋の方ではなくお寺の方に顔を出すことにしたそうで…。以下は、先輩の語りをそのまま書いていきます。



 だいたい、そういった金のにおいのする話はヤバいのが多いんだ。俺、面白くなってきちゃって実家じゃなくて寺の方の台所に顔出したんだよ。そしたら案の定、母ちゃんが茶菓子をお盆に乗せてるところでさ。


「ただいま。……お客さん?」

「あら、あんたタイミング良いわね。これ、客間に持っていって」


 内心ラッキーって思いながらそれ受け取って客間に運んだら、中にいたのがまた…。すげー良いスーツ着て、頭は白髪で真っ白などっかの社長さんみたいな初老のおっさんと、上品そうな顔したきれーな…おっさんよりだいぶ年下のおねーさんがいてさ。二人と机挟んだ向かいに父ちゃんと兄さんが座ってたんだよ。


 んで、持ってきた湯呑と茶菓子を出して俺も隅っこの方に居座ったの。


 その机の上に置かれてるのがさ、なんつーか……綺麗に装飾されてるんだけどものすっごい古い箱で。鍵かけられる金具も錆がすごくてコレ開けられるのか?ってくらい、ほんと古いの。大きさはだいたいコレくらい。(手でジェスチャーしてました、20×10くらいの長方形)


「これが、おっしゃっておられた箱ですか」

「そうです、もう随分と長いこと忘れていたのですが、家を新築する際に出てきまして」

「見たところ、かなりお古いですな」

「聞いている話ではもう50年以上前のものだと」

「わかりました。お預かりします。…今後何かあった時にご連絡は差し上げた方がよろしいかな?」

「いや、そちらに任せますんで私どもに一報はいっさい不要です。では、よろしくお願いします」


 って、父ちゃんとおっさんがやりとりしてたんだけど、肝心なところが聞けなくってさ。もう俺が到着した時には話済んだ後だったんだろうな。だから後で、兄さんに聞いたんだよ。そしたら、


「男性は◎◎社の会長さんで、女性はその娘で社長だって。あの箱は…会長さんの父親が、□□に行った時に、(□□は国の名前です)現地の人に飯と服を買ってやったお礼にもらったんだと。鍵は一緒に渡されなかったそうだけど、中身はともかく、今だとあの箱すごい値打ちもんらしくて」

「そんな値打ちもんの箱なのに、あの感じだと要らないってことだろ?中身がやべーの?」

「よく見てみろ。なんなら触っても良い」


 んで、その箱持ったら……なんて言うのかな、急にすごい悲しい気持ちになっちゃって、理由もなく涙がぼとぼと落ちるんだよ。涙で視界滲んでたけど箱をよく見たらさ。


 鍵のところに赤い糸みたいのがまとわりついてるのが見えてきて、鍵穴を塞いでるんだ。


 そこで、俺にもやっと中身が何かわかった。……なんだと思う?子どもだよ。その箱に入るくらいで産み落とされてしまった、赤ん坊。流産したんだろうな。んで、赤い糸みたいなのが母親の思念体で、箱の中にもいっぱいに広がってる。


 子どもの体を包むようにして。不思議な事に中の死んだ小さい赤ん坊の体は腐ってないんだよ。


 ……中身を直接見たわけじゃないけど、箱に触った時に中身が浮かんできてさ。兄さんに箱の経緯聞いてみたら、□□の中でも裕福な家の若い娘が流産したらしくて、それはそれは落ち込んだらしい。惚れてた男も子どもが流れた事で逃げてしまって、ちょっと病んじゃったんだろうな。気に入ってたかなんかのこの箱に子ども入れて鍵をして、大事にしてたんだと。


 箱を抱いて子どもをあやすようなしぐさをしてみたり、箱に向かって授乳したりな。


 で、この娘は結局飲まず食わずになって死んでしまったらしいんだけど、鍵はその娘の腹の中。その一族はそのまま血が絶えて今はもうない、でもその箱はどうやってか流れに流れてここにあるってワケだ。んで、いわくとなってるのが、この箱に女が触れると不妊になる……ってところなんだよ。

 その、会長の長女の社長も子どもが出来なくて結局そのあと次ぐのは会長の弟の長男らしいんだけど。会長の奥さんも不妊だったらしくて、今社長となってる長女も養子ってことだ。

 何も知るわけもなくあの家では普通に女性もその箱に触れていただろうし、あそこは今いる女性は全員不妊で子ども無し…ちなみに今でも実家にあるよ、供養しながらね。


 どう?触ってみる?



 私が不妊になったら責任とってくれるんですか?と言ったら先輩は、いいよ、嫁にもらってあげる。と嫌味な笑顔で言いました。

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