14.チェーンメール

 昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。


 先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。


 いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。


 ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……僧侶には向いていないタイプの方です。


 そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。


 先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。






 昔、まだ携帯電話はガラケーが主流でスマートホンなんてものが出回ってなかった頃。


 私は中学生で、周りに携帯電話を持っている人の方がまだ少なく、うちは父親が遠方に長期の出張に行っており家にいることが少なく母親と弟、妹と4人暮らしのようなものでした。そのため連絡手段として携帯電話を早くから持たされていて、当時はラッキーなんて思っていたものです。


 それくらいの昔。チェーンメールっていうものが流行った時代。いろんなタイプのチェーンメールがありました。


 画像が添付されており、画像に「これを〇人の人に送ると意中の彼と両想いになれる」だとか、そういうのもあれば、ちょっと怖い「このメールを〇人に転送しなければ不幸になる」というような不幸のメール。今思えば懐かしくも馬鹿らしいものですが、当時は送らないと、という変な衝動に駆られたのを思い出します。



「ねえ、見てよコレ」


「なにー? ……うわ、気持ちわる。誰から?」


「知らないアドレス。いたずらにしてはちょっと……って感じだよねー」


「怖すぎなんですけど」



 栄えている市内に買い物へ、と私はその時電車に乗っていて、座る席もなくドアの前に立って外を眺めていました。すると私が立っているすぐ傍の席に座っていた女子高生2人。ロングヘア―で、色を抜いた髪を黒染めしました、というようなちょっとギャルっぽい女の子の方が、ショートヘアーで健康的に日焼けしたソフトボール部かな、という感じの女の子に自らのスマートホンのディスプレイを見せています。


 会話の内容が内容だけに少し気になり、ちら、と横目で覗き込んでみると、そこにはメールの画面が映し出されているようで、特に画像が添付されている様子も無く。ただ、文字がいくつか並んでいるようでした。



「でも、ナナミ〇〇ミ(同じ名前の方がいると不快に思われるでしょうから伏せます)って誰だろーね。この辺の人なのかな」


「知り合いにはいないし、聞いたことも無いけどねー。だからどうしようもなくない?」


「だよねえ、今から7日間のあいだにナナミ〇〇ミにこのメールを転送する、なんて。作るならもう少し、簡単な内容のチェーンメールにしないと流行らないって」


「でもどーしよ、これ送らなかったら私どうなっちゃうんだろ」


「大丈夫だよ、ただのイタズラでしょ? 気にしない、気にしない」


「でもさあ……」



 届いた側としては不安になるのも当然だろうな、と不憫に思いながらも私はそのメールに不気味さを感じていました。ピンポイントで名指しのチェーンメールなんて聞いた事がない。そもそもチェーンメールとして扱えるメールなのか?


 と私はふたりの会話に形容しがたいなんとも言えない気持ちになっていました。そして同時に、さて先輩ならこういう時どうするだろうか、と。



「……あの、すみません」



 私は思い切ってそのロングヘア―の子に声を掛けました。ふたりはとても驚いたかのような表情で目をぱちぱちと瞬かせています。



「ごめんなさい、聞こえてきてしまって。その名前の人に心当たりがあるので、もし不安なようでしたらそのメール、私に転送してくれたら私から彼女に転送しておきますよ。イタズラにしては行き過ぎてるし、その方が『ナナミさん』も警察に相談するなり対策しようがあると思うので……どうですか?」



 正直、相手が今どきの若い子。変に思って罵倒でもされたら……なんて気持ちも湧きましたが、ふたりともそれどころじゃないのか不安げに顔を見合わせ、アイコンタクトだけで相談し合い、頷いてくれました。すぐに私のメールアドレスを教えると、元の差出人のアドレスもこちらにわかるように欲しいとお願いをして、転送してもらいました。



「あの、ありがとうございますお姉さん。せっかくなので何かわかったら連絡もらってもいいですか?」


「わかりました、その時はメールで一報入れますね。不安なのに、見ず知らずの私の提案を受入てくれてありがとう」


「いえ、いえ、こちらこそ! じゃ、私たち次で降りるのでここ、座ってください」



 そうして二人は席を立って、私に向かって何度か会釈をしてくれました。思ったよりも良い子たちで良かったなーと思いながら私は譲ってもらった席に座り、彼女たちはすぐに電車を降りていきました。


 さて、私もこうしている場合じゃないな、と買い物に行く予定はとりやめて、彼女たちが降りた駅の次の駅で降り、先輩に連絡を入れました。今はバイトの最中のはずなのでそれこそ、メールで。そして改札を出ると、栄えているとは言い難いけれど寂れてはいない、町。少し歩いたところにカフェがあるのは知っていたのでそこで先輩が仕事を終えるのを待ちながら自分なりにさきほどのメールを解析してみようと、店に入り窓際の席に座るとコーヒーを注文して、そのメールを開きます。内容は、


 『今から7日間のあいだにナナミ〇〇ミにこのメールを転送しろ。出来なければ、』


 ……メールはそこで終わっていました。出来なければなんだというのだろう。出来なければ呪い殺す? ありがちだなあ。


 先輩と合流するまでにどこまで自分の思考が至れるか、たまにはやってみよう、と私はとりあえず某検索エンジンにていろいろと検索したりして自分なりに尽くせる手を使って調べてみます。いろいろ試してみてふと、ある事を思い立った時。ちょうど電話が鳴りました。先輩です。



「今、どこ?」


「〇〇駅のそばにある〇〇って喫茶店です」


「ああ、あそこ。なんでまたそんなところに」


「まあ、いろいろあって。……終わりました?」


「ああ、終わった。今日忙しくてさ、疲れたわ」


「そうですか、お疲れ様です。じゃそっち向かいますね」


「あ、こっちの方まで来る? じゃ、◎◎駅(地元から最寄りの駅名です)まで迎えに行くわ」


「ありがとうございます、お願いします」



 どちらからともなく電話は切れて、私はすぐにお会計を済ませると店を出ました。次の電車が来るまでほんの5分。急ぎ切符を購入して電車に乗り、来た線路をガタガタと揺られながら待ち合わせた駅に向かいます。


 その間にもう一度確かめておこうと再度メールの画面を開き、私がいちばん気になっている箇所を、何度も何度も見返していました。


 ……そんなことをしていたので、目的の駅に到着するのもあっという間でした。◎◎と〇〇はそんなに離れているわけでもないため、電車でおよそ15分程なのですが、体感的には5分でした。


 駅を出るとちょうど、先輩のいつもの車がこちらに向かってくるのが見えました。空いたスペースにスマートに入って来てくれたので、すぐに乗り込み駅を後にします。そして、車内で先に、いろいろといきさつを先に話しておくことにしたのです。



「ふむ。興味深い。でかしたぞ。よくやった」


「先輩ならそうおっしゃると思ってました」


「……しかし、うん」


「? なにか」


「……いやー、なんでも。さて、もう着く」



 向かった先は、散歩コースのある割と大きめな公園です。ジョギングしている人もいますし、遊具のある場所では子どもたちが遊んでいます。傍らのベンチには、母親らしき人達が談笑している姿も見受けられました。


 私たちはそんな中、あまり人の寄り付かなそうな奥の、木陰になっているベンチに座ります。先輩は実は案外、人目を気にする人です。真面目な時に、人が多い場所でこういったオカルトな話をしません。他人を巻き込んではいけないという思いからなのか、変人に見られたくないのかは私にはわからないでいました。



「それで?」


「あ、これなんですけど」



 私はそうして先輩にスマートホンのディスプレイを見るよう促して、先輩はそれを手に取りじっくりと読み込んでいるようでした。暫くして先輩は満足したようで、私にスマートホンを返却するといつもの笑顔。



「俺にも転送して」


「やっぱり。……はい、送りましたよ。それでですね、私も今回は自分で先に考えてみたんです」


「さんきゅ。……おお、えらい、えらい。で? お前の見解は?」


「女子高生に送って来た人のアドレスが気になって」


「うん、なかなか目の付け所が良いな。さすが俺が連れまわしてるだけのことはある」



 そう、そのアドレスというのは「773773k〇〇〇〇〇〇〇@~」(〇の部分にはとあるアルファベットが入りますが試される方がいらっしゃると良くないので伏せました)というもの。773……これはナナミと読めるよなあ、と思った私はある仮説を立てました。



「これ、このアドレスに転送したら良いんじゃないかなって思ったんです。その先がナナミさんて方なんじゃないかって」


「どうして?」


「一番の理由は、ただの勘……でも、この数字のあとのアルファベットの並びを見ると」


「概ね、俺と同じ答えだな。んじゃ試そうか」


「え?」



 先輩は私が止める間もなく、そのメールをその怪しいアドレスへと転送したようで笑顔を貼りつけながら「返事くるかなー」と楽しそうにしています。ああまた、この人は。


 ……と、私は肩を落としてひとつため息をついて、送ってしまったものは仕方ない、と腹を括って来るかどうかわからない、チェーンメールの作成者であろう相手から返事が来るのをただ、待っていました。木々に覆われたその場所は、不気味さなんて微塵もなくただ、朗らかです。



「……おっ、きた、来たぞ」


「えっ、本当に? なんて?」



 差出人は確かに、7から始まる奇妙なアドレス。先輩がウキウキしながらメールを開くとそこには、携帯電話の電話番号だけが記載されていました。電話をかけてこい、ということ?


 急に怖くなって、寒気がして、身震いしました。そんな私の不安と心配をよそに先輩は、電話番号をタップし、スピーカーにセットして電話をかけはじめます。冷や汗が滲んで、コールの音を聞いていました。他の音は全て、なくなったかのような感覚。心臓の音がこれでもかというくらいに大きくなって……4、5コールほど鳴ったでしょうか。ついにコールが切れて、相手が電話をとったのです。



「もしもーし。ナナミ〇〇ミさん?」


『……っ…………エ…………』



 電話の向こうの相手の声が、聞き取れません。



「やめなよ、こういうの。電話したのが俺たちだったから良いけど、他の人間だったらどうにかなっちまうよ。わかるよな?」


『……ウ…………オ』



 先輩はため息をつきました。そして私の方を見て、「聞き取れる?」と聞いてきたので、私は首を横に振りました。先輩はすでに、相手が何者なのかわかっているようでした。電話が通じた、ということは相手は霊の類ではなく人間なのだろうか。でも何故、聞き取れないのだろう。喋ることが出来ないのだろうか。私のなかでの恐怖と疑問は膨れるばかり。



「埒が明かない。後ろにいるやつ出せねエの?」


「え、後ろって……」



 何故電話越しなのに先輩は、この相手の後ろに別の者がいるのがわかるのだろうか?


 私には聞こえない何かが聞こえているのか、はたまた先輩のご両親譲りの感で相手が見えてしまっているのか、私にはわかりませんでしたが。私には今のところ聞き取りにくい、小さくて呻くような声しか聞こえず、なにも見えはしませんでした。


 ……私がいろいろと思考を巡らせていると急に、強い、強く吹く風。凍るような冷たさで、私を通り抜けるようにして過ぎ去っていきます。



『〇〇ミちゃん。〇〇ミちゃん。私の可愛い〇〇ミちゃん。どこ、どこなの。返して、返して。あなたじゃない』



 電話の向こうからハッキリと。さっきまでとは違う、別の声がしました。大人の女性の声です。嫌な汗が噴き出ます。



『返して、カエシテカエセカエセカエセ。オマエじゃナイ』


「うるせーなババア。今からそっち行くから待ってろ』



 先輩はそうして通話を切ってしまいました。その声は、表情は、とても怒っているようでした。


 電話が切れると嫌な感じはすぐになくなり、他の音が聞こえはじめました。私はほっとして、抜け落ちてしまった体の力に抗う事も無くくねくねと項垂れます。



「先輩さっきの」


「説明はあと。行くところが出来た」



 私はお留守番で良いんですけど……、と内心思いながらさっさと立たされて、そのまま手を引かれ颯爽と愛用の自動車へと戻っていきそのまま先輩は車を走らせ始めました。



「どこに行くんですか」


「さっきのオバサンとこ」


「電話の相手の?」


「そ。子どもが唸ってたのは聞こえたろ?」


「あれ、子どもだったんですか」


「ババアの方は死んでたな。子どもは生きてるけど、苦しそうだ。どうにかしないとやべー気がする。見殺しはさすがの俺にも出来ないさ」


「全然状況が掴めないんですけど……」


「電話の相手は子どもだ、唸ってたやつ。名前は〇〇ミじゃないな、たぶん。で。〇〇ミってやつの母親がさっきのバケモノで……たぶん、電話越しのガキの兄弟かなんかが〇〇ミなんじゃないか、と思う。俺は兄さんみたいな力はないからさ。ただ、一瞬見えたのは、母親に殴られて縛られてる子どもがいた。それだけ。でもそこから推測することは出来るだろ?」



 ぞっとしました。先輩と私が推測しているのは、細かく言えばきっと相違点もあるのだろうけれど、おおよそは合っているはず。電話の向こうの子どもには兄弟がいて、〇〇ミちゃんの方はなんらかの理由で既にいない。残されたあの子は母親に虐待か何かされていたのだろう。可愛がられていたのは〇〇ミって子で、あの子は疎まれていた。そしてなんらかの理由で死んだ母親。死んでも尚〇〇ミとあの子を差別して縛り付ける毒親。


 ……そんな推理をたてていると、相当難しい顔をしていたのか先輩に軽く小突かれてはっとしました。見たことのない景色。訪れたことのない、知らない場所。



「すごい田舎だな。なんもない」


「そうですね……ここ、どこですか?」


「〇〇。知ってるだろ」


「ああ……ここってこんな田舎だったんですね」



 地元ではとある部落で有名な地名です。祖母や曾祖母からはあまり近づかない方が良い、と注意される事が過去に何度かあったほど、そこはあまり良い言われのない土地でした。子どものころからそう刷り込まれた私は体が縮みます。人がどう、というより、土地柄があまり良くない、と聞いていたから尚更でした。



「さて、この家だ。……そしてあのババアなかなか分が悪い、からお前ここで待ってろ。車から出るなよ、怖い思いしたくなかったら」


「りょうかいであります」



 そうして先輩は、目の前の……お世辞にも綺麗とは言えない、ぼろぼろの、小屋のような小さいお家に断りもなく入っていきました。私は窓越しにその背中を眺め、先輩も、あの子も、大丈夫だろうか、と心配で、姿が見えなくなってからもその家から目を離すことが出来ませんでした。


 周りはとても静かです。隣の家までの距離は遠く、200メートルは離れています。何かがあっても、すぐに助けを呼ぶことは不可能。こういった時、私はいつもスマートホンのロックを外していつでも連絡出来るように、先輩のお兄さんの連絡先の画面を表示させておくことにしています。あとは番号の部分をタップするだけ……例え電話に出られない状況でも、着信があった事がわかれば何かしら対処してくれるはずだから、と。


 ……どれくらいたったか、周りはすでに薄暗くなっていました。今日何も食べてないな、と気が付いた時にはお腹がぐう、と悲鳴をあげます。お腹すいたなー先輩まだかな。そう思っていたら、ずっと見つめていた家の玄関の扉が開きました。先輩がいます。


 ……小さな子どもを抱えて。すぐにでも駆け寄りたい気持ちを抑えて、言いつけ通り車から出ずに先輩がこちらに来るのを待っている私は、意気地なしなのでしょう。



「……おかえりなさい」


「ああ、待たせて悪い……。これ預かって」



 先輩は抱えていた子どもを私に渡しました。そして外に戻ると、どこかに電話をかけています。私はボロボロな恰好の、伸びきった髪のせいで性別の判別もつかないやせ細った子どもの髪を撫でました。寝ているのか、気絶しているのかわかりませんが意識はありません。先輩は一度終わったかと思えばまた電話をかけています。忙しそうだな、と思い私はまた視線を子どもに戻すのでした。





 あの後警察が来て、先輩は状況を説明しながら警察の人と一緒に再び家に入っていきました。私も子どもを抱えていたので事情を聞かれましたが、警察が来る前に先輩と口裏を合わせるようにしてあったので乗り切る事は容易でした。


 それよりこの子にご飯を食べさせてあげたいんですが、という申し出も断られ、結局私も先輩も警察署に連れていかれました。1、2時間ほど事情聴取をされましたが『ドライブしていたら子どものすごい泣き声が聞こえて、様子を見てみたら少し開いてた玄関の隙間から子どもが倒れているのが見えた、呼んでも誰も出てこなくて不在だったので助けに入ったが不法侵入になってもいけないので車内で保護していた』……ざっくり言えばこういった内容の理由が出来上がっており確かに入り口以上奥への屋内に入った痕跡もない、という事で釈放され、子どもは警察に保護されたので安心して、そのまま食事に行きました。



「それで、なにがあったんですか」


「そうだなー。あの母親は、成仏っていう形ではなく俺が消した。でないとあの子ども、あそこから出られなさそうだったし。あの家にはあの子どもしかいなかったよ。あの仏壇と写真からして、〇〇ミと父親はだいぶ昔に死んでるな。霊体はなかった。母親はいつ死んだかわからねーけどそんなに前じゃない……ここ2、3日ってとこじゃねーかな。風呂場に死体があったからたぶんあれがそう。ちらっち見た感じだと、父親と〇〇ミが事故かなんかでふたり一緒に他界して、頭おかしくなっちまった母親と、愛されることのなかった子ども、ふたりが残った。んで、あのメール。あれはあのガキが書いて送ったんだろ。助けてほしくて。たまたまつながったのが例の女子高生だった、っていう奇跡のような偶然さ。……間接的ではあるけれど、まるでお前に助けを求めたかのような、ただの偶然だよ」



 切なく笑う、先輩。



「比べられて、差別されて、愛されなかった。お前じゃない、返せ、なんて……残酷だよなあ。世の中の母親が全員、うちのかーちゃんみたいだったら幸せだったろーに」


「先輩のお母さん、素敵ですもんね。……あれ、でも先輩。警察の人たち、先輩が中に入った痕跡がないからって……でもなんで、仏壇とか、お風呂場の死体とか……」


「なーいしょ」



 ニヒルな笑みを浮かべて、先輩は目の前の、焼き加減がレアのステーキをほおばりました。

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