16.多様性
昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。
先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。
いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。
ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……僧侶には向いていないタイプの方です。
そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。
先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。
・
「ホスト、ですか」
「そう、ホスト」
「……の、内勤?」
「そ、内勤」
急になにを言い出すのだろう、とはじめは驚いたけれど、ホストのプレイヤーとして働いている友人Fさんから数日ほど内勤のバイトを頼まれたのだと先輩は言っていました。
というのも、金銭関係や接客の態度で揉めていた内勤が急にふたり辞めてしまったのだという。ホストの世界とは実は結構教育に関して厳しい面を持っており、態度の良くない従業員は上司にきつく叱られることも多いんだそうです。十人十色の女性を喜ばせるのも一苦労、稼げるばかりではないらしく、自らの心や体を犠牲にして必死にしがみついている男性も多くたいへんな職種、と先輩は言っていました。まるで自分がプレイヤーをしたことがあるかのように語っていましたが、言及はしませんでした。
どうして内勤のバイトを手伝う話を私にしてきたのか、と言えば、ホストには1部と2部があり、よく聞く夜の町のホストというやつは1部で、朝からお昼頃にかけてが2部。先輩が手伝うのはその2部での内勤のようで、そちらを手伝う時はこちらの仕事はおやすみをする、ということが第一。
そして、もうひとつの理由。それは、
「Fが俺に頼んだ理由っていうのが、実はその最近やめた内勤のうちのひとりが寮で自殺したらしい。で、店で見かけるんだって。他のキャストの卓に、まるでヘルプのように座っていたり、かと思えばフロアを今までのように歩いていたり。受付で見たって客もいるらしい」
「それは、先輩が適任と思われてもおかしくないですね。そして先輩もふたつ返事で受けそうな内容」
「まあ、そういうことだから。で、せっかくだからF指名で遊びにおいで。日付とある程度の時間伝えてくれれば話通してくれるって」
「いやですよ、ホストって高いじゃないですか」
「それはFの奢りだから心配すんな」
ということで、結局のところ、今回もなんだかんだ私もおかしな形で参画することになるわけです。今回は、久しぶりに先輩の語りにて進めていこうと思います。
・
ホストの内勤、割と楽しかったな。人間観察にはもってこいっていうか。いろんな人間いるんだなって改めて思い知ったわ。お前もなんだかんだ楽しんでたみたいだけどどうだった? ホストはじめてだったんだろ。でもなんで俺のバイト最終日に来るかなあ。たった一日しか通ってこないとは思わなかったわ。
で、俺一応ちゃんとバイトだし理由知らないキャストもいたからあんま派手なことはしなかったんだけどさ。お前来た日、なんか見えた?
「お酒は美味しく飲めましたよ。……特になにも見えなかったです。でも、なんか全体的にうすら寒いというか……空調効きすぎてるだけだったのかもしれないですけど」
ふーん。実は俺もあの日まではなんも感じなくて、もちろん何も見えもしなかったんだけど。お前来た日にさ、ヘルプについた黒髪のもやしみたなやついたろ。たぶん一番長く居たやつ。あれ、俺がバイトしてる時実は一回も出勤してこなくて、あの日はじめて見た顔だったんだよ。他のキャストは毎日きっちり出勤してるのに、あの男だけ。……ホストって出勤してなんぼの世界らしいし、そういうスタンスなのは珍しいなーくらいに思ってたわけ、最初は。でも、急に空間が凍ったみたいに冷えだして、ああこいつなんか隠してるなーってピンと来たんだよ。
「そういえばなんだかあの人、空元気っていうか、盛り上げるためにテンションは高くされてましたけど上の空感があって」
あーその辺は、一緒の卓に座ってたお前のがわかる部分か。まあ、そう、それで、気にしながら見てたんだけど途中で一回、そいつバックルームに下がって来て、ちょっと休んでからまた出てったの。そしたらさ、後ろにぴったりくっついて、噂の内勤があとをついていくんだよ、そいつの。そのあとは、……お前には言わなかったけど、まるでヘルプでもしてるかのようにお前んとこの卓に座ってたよ。
「うそ。そういうのその場で言ってくださいよ」
言ったら帰るじゃん。
あと、これはFからさっき電話で聞いた話。やっぱり、あの黒髪のやつが出勤してる時だけに目撃情報があるっぽくて、まあ俺は納得したんだけど。その内勤とそいつ、付き合ってたんじゃないかな。だって、しきりに
「俺のだから誰も捕らないで触らないで俺の俺のオレノオレノ」
って、ぶつぶつ言ってたし。……なんで過去形か、って? Fが言ってた。死んだ内勤とそいつはもともと仲が良かったらしいんだけどさ、ある時からそいつ、急にそっけない態度取り出したかと思えば、その頃からもうひとりの辞めた内勤と仲良くしはじめて、暫くしてからふたりとも急に辞職した、って。
俺予想だと、黒髪男は自殺した内勤と付き合っていた。しかし黒髪男はもうひとりの内勤と懇ろに。そして痴情のもつれにより思いつめて内勤Aは自殺。未練のせいで霊体として留まっている、が……内勤Bも辞めたあと、どうなってるかはわかんないよな。確認するようにFには伝えたけど。
しっかし、女をよろこばせるための職業であるホストが、実は女じゃなくて男が好きで男と付き合ってました、なんて、なかなか業が深いよなあ。しかも内勤に手出して。てかよく内勤側も男に対してオッケーだしたもんだよ。
「先輩。知ってますか? 最近のプレイヤーは、体は女の子、心は男の子ってパターンもあるんですよ」
え、そうなの? ……じゃあ、あの黒髪、実は、体は女、……心も本当は女なのに、偽ってたりして。なんてな。
・
その後日、更にFさんから伺った話は、まあ、先輩の予想の通りというか。内勤Bさんは、大きな事故をやらかして入院していたそうです。それも、彼が言うには「足が掴まれたみたいに急に動かなくなった」と。……お店に現れていた自殺した内勤Aさんの仕業だったのでしょうか。
そしてそこでFさんは彼のお見舞いに行ったそうですが、そこで鉢合わせた人が、例の黒髪の。本人たちに問いただすようなことでもないためFさんはなにも言わなかったそうですが、確かに彼は女性のようなキレイな顔つきであること。先輩も言っていましたが、もやし、という表現がしっくりくるほど(まあ先輩ももやしみたいなものですが)シルエットは細く、実は背が低いことが特徴でした。もしかしたら、上しか知らないような秘匿なことがあるのかもしれないね、と言ってFさんとの電話は終えたそうです。
先輩と、わたし スズキ @hansel0523
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