6.呪いの18禁DVD
昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。
先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。
いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。
ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……僧侶には向いていないタイプの方です。
そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。
先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。
・
「とある家族の話」を聞かされながら、私は先輩に連れられてある場所にたどり着きました。そこは、DVD等をレンタル出来る、よくあるチェーン店。
地元にもあるのになんでこんな遠いところまで?
と、疑問に思いましたがまあ彼の事です。いつものように何かあるのだろうと車を降りて後ろをついていきました。
以下、先輩との当時のやりとりをなるべく思い出したままに。
・
「こっち、こっち」
「……18禁コーナーに入れと? 先輩と?」
「いいからいいから。……さて、どれ見る?」
「え、先輩のオカズ探しですかこれ」
「まあな」
先輩は、キョロキョロしつつも「素人」のコーナーへと一直線。先輩ってそういうのが好きだったんだなあと思いながら、他の一人客の男性たちにいやな感じの視線を送られながらついていきました。
「あった、あった。コレだ」
「……素人娘〇〇〇?(特定されるのを防ぐために伏字にします)」
「そう、コレ。コレが見たかったの」
先輩は、棚の奥まった部分の更に一番隅にあった一本のDVDを、嬉々としてそれだけを持ちさっさとレンタルを済ませ車に戻りました。
「んじゃ帰るか。一緒に見るよね?」
「え、先輩と一緒にアダルトビデオ見るんですか。それは無いかな」
「え、なんで? 見たくないの?」
「見たくないです」
「……あー、そうか。別にそれでムラムラしたからやっちゃうなんてことは」
ない、とは言い切れないな。とぼそっと呟いて、結局そのまま私は送って頂きました。
そしてその日の夜の事です。先輩から着信がありました。
「どうでした? 先輩の嗜好にバッチリ合いましたか、例のDVD」
「ん、それなりに。まだ抜けてない……」
「え、ちょ、電話越しに先輩の喘ぎ声なんて聞きたくないんで切っていいですか」
「ばか、違う。……とにかくさ、ちょっと来てよ。迎えに行くから」
電話越しの先輩の声はなんだか切羽詰まっており、熱でもあるのだろうか?と感じられるほど具合が悪そうだったため、迎えに来る、というのを断り、迷いはしましたが私が自ら訪問することにしました。
先輩の住まいは、綺麗なアパートのB棟の2階。駐車場は2台分借りているため先輩の車が停まっていない方に駐車してから、先輩の部屋に行くと不用心なことに鍵は開いていました。
「先輩、いますか? お邪魔します」
「……悪いな、来てもらって」
声だけかけて部屋にあがると具合のあまりよくなさそうな先輩が座椅子に座っています。ふとテレビの画面を見ると、素人の女の子(とても若く見えました)が男性に組み敷かれ、「無理矢理」挿入されているところを隠し撮りしたかのような画面のまま、再生は止まっていました。
「……え、見てる途中でした?」
「いや……確認するために2回目を再生してたとこ」
「かくにん?」
すると、電気がチカチカと付いたり消えたりしだして、ああ、やっぱりなんかアレなDVDだったんだきっと、と思いながら恐怖で先輩の服にしがみつき体をぴったりとひっつけて、私はよくわからない何かに脅えていました。
突然、先輩がそのまま私を抱き寄せたかと思った瞬間、背中が床につけられて画面に映っている少女と同じような体勢に。先輩に組み敷かれているような状態になりました。
驚いて先輩の顔を覗くと、汗が滴り蒸気したかのように赤い頬、濡れた瞳。「発情」しているかのようなその表情に不覚にもドキッとしながら、あまりに切ない表情をする彼にどうして良いのかもわからず、恐怖や不安も相まって先輩の頬に手を伸ばしました。
指先が触れた瞬間。
これは熱があるな、と私の指先がわかるくらいに、先輩の体は熱くなっていました。
「先輩、大丈夫ですか。すごい熱いです」
「ん……へーき」
そしてそのまま先輩は私の首筋に顔を埋め、耳元で呼吸する音が聞こえてきました。
背中に腕を回してトントンと、宥めるように、母親が子を寝かす時のように、
私は手で優しく叩くことしか出来ませんでした。
私の太ももに当たる堅い感触には気づかないフリをして。
そうして、体感で30分ほど時間がたつといつの間にか電気は落ち着いており、苦しそうだった耳元の呼吸音が規則正しいものとなっていて、先輩が眠ってしまった事に気が付いた私は床、痛いなあと思いながらまだついたままのはずの画面に視線だけを向けました。
テレビの電源は、落ちていました。
・
それから先輩が私の上に乗ったままようやく起きたのは確か、深夜、日付も変わり2時や3時頃だったと思います。
「やべ、寝ちまった……ごめん、重かったよな」
「ええ、まあ。それよりも床に当たる尾てい骨が痛くて」
「ほんと、ごめん」
「……体調、いかがですか。大丈夫なんですか?」
乗っかっていた先輩の体は、先輩が寝付き始めた頃から熱が引いていたのは感じていましたが、その後具合はどうなのだろうと心配していました。
「ぜんぜんへーき」
「それでしたら、良いんですけども。……アレ、なんだったんですか?」
「ああ、そうだった。……やっと抜けたか。ありがとな」
「何が抜けたんですか?」
「あのDVDは本物…本当の、何も知らないそこらの少女を騙して誘って連れてきて、強姦したのを隠し撮りした映像が総集されてるやつなんだよ。ヤラセとかじゃなくてね。4人分あって、そのうちの2人はその道に流れたらしいけど、後の2人は自殺した。文字通り最初で最後の出演ってやつ。出版の方もそんなもん売り出したんだからすごい話だよ。内容が内容なために本数を限定して高値で売る事にしたらしくて数本しか販売されなかったみたい。……でも、これを見た人間におかしな事がおこるって有名になって」
同じ女性として、聞いていて気持ちの良いものではありませんでした。
「視聴した男は、性欲が爆発したかのようにやりたくてたまらなくなる。しかし自分で満たそうものにも、自慰では全く射精が出来ない。気が狂って、外で女を捕まえ、公園の公衆トイレや、自宅に連れ込む者、いろいろいたそうだけど自分が満たされるまで見ず知らずの捕まえてきた女を何度も何度も犯した。……そして発見された時には、精気が失われたように痩せコケた状態で死んでいる。犯された女も生き残っている者はいなくて、全員が自殺しているって話」
「……なんで、そんなものがレンタル店に」
私は、絶句した。
「アレを撮影したのが、あの店のエリアのマネージャーで、なんでも、ああしてレンタル店に最後の一本を置いておくように、さもないとお前を無惨な姿にしてやる、って夢の中で告げられるんだってさ。せめてもの抵抗で見つかりにくい棚に置いてるっていうから、見に行ったら本当にあったってわけ」
「……先輩はそのDVD、全部見たんですか?」
「見たよ。1回目は平気だったんだ。だから2回目を再生してたらさ、燃えてるみたいに熱くなってきて、汗が噴き出てきた。下半身は疼くし。んで、画面の中の女がこっち見たかと思ったら俺の中入って来ちまって、抵抗してたらお前が浮かんできたんだよ、俺の頭の中にね。で、迷いに迷ったけど自分ひとりじゃどうにもできなさそうだし、助けてもらおうと思って電話して呼んだ」
「……先輩がもし負けてたら私と先輩死んでたかもしれないってことですか」
「そういうこと。だけど、大丈夫って確信もあったから」
俺が相手なら、強姦じゃなくて和姦でしょ。と笑って。
大丈夫と思った確信については、結局なにも教えてもらえませんでした。
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