5.とある家族の話

 昔、10代の頃バイトしていたバイト先の先輩の話。


 先輩(男性)とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く(当時訪ねた時に185センチあると伺いました)出立は堂々としている方でしたが、非常に変わっていました。


 いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話でご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。


 ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……僧侶には向いていないタイプの方です。


 そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことはありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。


 先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。




「よし。今日はちょっと付き合って」




 先輩にそう言われたのは、仲良くなりはじめて半年たつか経たないかの頃です。バイトが終わった後に、先輩の車でどこかに出かける事になりました。


 バイト先でテイクアウトのコーヒーを奢って頂き、私たちは車に乗り込みました。どこに向かうのだろうとコーヒーを飲みながら窓の外を見ていたら。




「着くまでにちょっとかかるし、せっかくだから面白い話してあげるよ」




この人の面白い話、はだいたいオカルトに纏わるものだしなあと首を傾げたのですが、こちらの反応などつゆ知らず、彼のお話ははじまったのでした。


 以下、先輩の語りにて進めます。





 ある神社の神主には、娘と息子がいて、子どもらにはいろんなものが見えたらしい。俺の実家みたいに、なんか変なもん連れてきちまう客人とかがいたんだろうな。祓えるものと祓えないものっつーのがあって、祓えないのはそこで悪い事しないように治めておくんだよ。一応神聖な神様の下だろ?抑えられるって事なんかな。


 そこまでが前置きとして。


 そこの家の子どもらも年頃になって、肝試しみたいなもんで夜中に部屋抜けだして自分ちの神社回ろうって話になったんだってさ。どう考えたって、そこらの廃病院とかより怖いよなあ。


 んで、親に気づかれないようにうまいこと抜けだして寝間着のまんま回ってた。特になーんにもなく、外の鳥居のところまで来てさあバレる前に部屋に帰ろうってなったんだと。


 そしたら、鳥居の柱から何かがこっちを覗いてた。


 よく見るとそれは、自分たちと同じくらいの子どもで、顔色が悪くて下半身が真っ黒。息子の方はそれを見てすごい、ぞわぞわなって恐怖した。


 でも娘の方は、惹き込まれるようにして傍に寄ろうとしたんだ。


 行ったらヤバイと思って、必死に引き留めたけど叶わず。娘はその、ただ者じゃない子どもと手を繋いで。





「私この子についてく。痛くも苦しくもないから平気だよ」


「私がついていけば、みんなみんな、ずっと元気でいられるからね」


「でも、出来れば、××だけは私の事、忘れないで」


「見えなくなってもずっと、傍にいて守ってあげるからね」




 そう言って、鳥居の向こうに消えていった。追いかけたけど、もうそこには、誰もいなくなってた。


 怖くなって自分は部屋に戻り布団にもぐりこんだけど、明日なんて説明をしたらいいのか、そんなんが頭の中巡って寝付けなかった。


 そして、次の日。娘の部屋を覗いたけれどそこにはやっぱり居なかった。でも片づけた覚えのない布団は片付いていて、なんか前より物が無いように感じた。


 朝食を摂るためにリビングに赴いたら、そこには両親がいたけれど、……娘の分の朝食は、用意されていなかったらしい。


 ここで付け足しておくんだけどな。その家は、祖父、祖母、父親、母親、叔父、長男、長女、次男て構成で、抜け出したのは長女と次男。んで、朝食は、7人分しか並んで無かったんだ。そのあと、母親に昨日あった事を話したんだけど。もともと姉なんていないでしょ、と。そう言ったんだ。


 ま、よくある話さ。存在自体が消えちまったんだよ。


 もちろん、父親や兄、他の家族にも聞いたけど、いなかったって。むしろ次男が頭おかしくなった扱いされてその日は学校休まされた。


 自分だけ学校が休みになったのをいいことに、アルバムとか見たんだけどな。写真、一枚もなかったんだよ。集合写真なんかは、そこだけぽっかり空いてて。


 だけど、自分の部屋の机のとこに挟んである兄弟3人で撮った写真にだけは、ちゃんと映ってた。人に見せたら、これまで消えてしまうんじゃないか、なんとなくそう悟って、それを隠した。そして今でもずっと大切にしてる、って話。





 そこまで話して、目的地にやっと到着したらしくその話は終わりました。


 その話をしている時の先輩は、懐かしさと切なさを思い起こしているような表情で、きっと、これは、先輩の話なんだ、と思いました。


 でも、私からそれ以上のことを聞くことも無く、ふたりで車を降りました。


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