8.〇〇〇

  昔、十代の頃働いていたバイト先の先輩の話。


 先輩とシフトが被ることが多く、よくいろんな話をしてくれました。色白で細身、背が高く、堂々としている方でしたが、とてもに変わっていました。


 いつも私にしてくれるお話は、所謂「オカルト」な話。ご実家がお寺のためか、血筋によりいろいろなものが見えるんだそうです。


 ちなみに彼にはお兄さんがおり、後継ぎはお兄さんに決まっていました。彼はもともと跡を継ぐつもりもなく、どちらかと言えばそういった類の話を面白おかしく体験するのが好きな……お坊さんには向いていないタイプの方です。


 そういう私はと言うと、そういったお話が好きではあるのですが……、ビビりなため自らそういった行動を起こすことは決してありませんでした。怖い話を読んだり聞いたりするのが精いっぱいで心霊スポット等に行くなんてもってのほか。


 先輩と仲良くなったが最後、いろいろな場所に連れまわされるようになり……。




「よくある、都市伝説みたいなオカルトの話、あるっしょ。有名なやつ。くねくねとか、八尺様とか。ああいうのって、本当にあるとするならばたまたま偶然、奇跡的に出会えるって感じじゃん。でも、猿夢だっけ、ああいうのとか、きさらぎ駅? とかって駅の話。ああいうのには意図的に、こちらから行こうと思えば行けると思うんだよな」


「はあ」


「……何言ってんだコイツ、みたいな顔するなよ。何度か試してみてはいるんだけど、あともう少しなんだよなあ……。条件がぴたっと揃えば、案外簡単にいけると思ってたんだけど。何かが足りないっつーか」



 先輩は、その話をした日から三日間、バイトをお休みしました。お休みしている間連絡もなく、特にこちらからもアクションは起こすことなく、次に先輩に会ったのは三日後のバイト先でした。


 三日ぶりに会った先輩はいつもよりなんとなく顔色が悪いような気がして、またろくでもないことを試したなこの人、と心の中で呆れていました。



「先輩、どうしたんですか。風邪でも召されました?」


「え、なんで?」


「顔色が優れないようですけども。」


「え、まじ? 顔に出てる?」


「ええ、とても。……で、成功したんですか?」


「ああ、うん。さすが。この前の話覚えてたか。」



 そこから先輩は、ぽつぽつと語り始めてくれました。



「いろいろ試してみた結果さ、せっかくなら違う事しようと思って。ある一定の条件満たした後に電車じゃなくて、バスに乗ったのな。バイトは休む連絡入れて、バス停に朝イチから並んで、一番後ろの席……あの大人数のとこ。それの窓側に座って、そのまま寝た。前の日は寝ずにいたから簡単に寝入ることも出来たし、ホラ。心地いーい感じに揺れてくれるからもうぐっすり。


 ……んでさ、見たんだよ、夢。


 特にオカルト的な事もない、何の変哲もないフツーの夢。夢の中だけどガッカリして、んじゃ起きようと思って目を覚ましたらさ。窓の外、見たことも無い景色なんだよ。キタキターって興奮しちゃって。バスの乗客もちらほらいたんだけど、どうにも不気味なやつらばっかり。ウキウキしながら、さてどこで降りようかなーとか考えてたワケ。


 まあこの際だから最終まで……と思って、とりあえず窓の外からバス停の表札確認したらどれも見た事ない地名だったし本当に別の世界潜り込めたんだなって、昂った。そんで、乗客が俺以外いなくなって、最終のふたつ前のバス停通過した頃にさ。運転手の場内アナウンスみたいなのが流れたんだ」



『次は、〇〇〇、〇〇〇』



「……驚いた? 俺も、その時は驚いた。


 でも正直こりゃさすがに最後まで乗ってたらヤバイ気がしてきて、渋々ながらもそのバス停で降りたんだ。もちろん、降りますボタン押して。運賃払う時に運転手の方まじまじと見てみたんだけど……すげー睨まれてんの。あー怒ってる怒ってる、って内心思ってた。


 最後まで乗っていなかったからなのか、お前みたいなやつが乗って来やがって、と思ったのか。


 バスから降りて、発車したのを見送ってから、周りの景色確認した時に目の前にあった鳥居くぐった。ら……なんと、俺んち実家の敷地でした」



 実家にて日付と時間を確認したら、バスに乗った日の三日後の夕方だったそうです。〇〇〇、とは先輩のご実家のお寺の名前。


 もちろんご実家にはいろいろとバレていたらしく。お兄さんにこっぴどく叱られたのは、帰り方なんて考えてなかったな、と後先考えずにやらかした先輩の浅はかさも上乗せされたせいだろうなとわたしは思いました。

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