第18話 実力を見せろ

「口で言うより実際に戦いを見た方が納得できるだろ。二人ともどうだ?」

「色々と陰で言われるよりはすっきりするんじゃないか?」


「そうですね。やらせてください。」



里見はすぐに返事を返す。



「俺は別に、、、ヒーラーですし。」


「まぁそう言うな。ずっとこんなしょうもない話を俺も聞きたくない。」

「別に勝ち負けとかじゃなくAクラスに入る実力さえ見せればそれでいい。」



正直面倒ではあったが、今の周りの実力がどの程度なのかは気になった。

特に里見はBクラスにもかかわらずこんな時期にBランクへ昇格している。

たしかに前世でも話題になっていたがそれからあまり名前も聞かなかった。

どんな実力でなぜ消えていったのか気になると言えば気になる。



「では相手はどうしようか・・・・」


「教官。国井さんとやらせてください。」


「ふむ。お前は剣を使うんだったな・・・・国井どうだ?やるか?」


「・・・・受けましょう。」



国井美空。将来剣聖と呼ばれるほどの使い手だ。元々実家が剣術家で、父はAAAランクである。

道場ではこれまでの普通の剣術だけでなく、探索者向けのマナを使った剣術を教えるようになった。

これにはかなりの門下生が集まり一大勢力となっている。

マナを高めると桜の花びらが舞い、それを防御や攻撃に使う技もある。


なぜ桜なのかは不明らしい。桜の木の下で修行していた時に閃いたという話しも聞くが・・・

中国には梅の花、フランスには薔薇を具現化する流派もあるようだが、

おそらくその国やその人がイメージしやすい形で現れたと思う。



「なぁどっちが勝つと思う?」


「国井かな?」



誰も近寄らなかった俺の横にはいつの間にか匠がいて質問してくる。



「やっぱそうか。里見のマナも見る限りこのクラスでも上位なんだけどな。」



日常的に体を覆うマナも容量が上がれば増えていく。

マナのキャパ=実力ではないが、ある程度の基準として考えるものは多い。



「ああ、、、だから俺は実力も無いのにBランクに上がったと思われたのか・・・」



俺のキャパはこのAクラスの中では九条、藤堂、国井の次くらいだと思う。

だが意図的に体外に出ないよう制御しているので弱く思われたのだろう。



「確かに国井の方が里見よりマナの量は多いみたいだけどそこまでの差は無いだろ?」

「マナの差というよりは剣術で国井に勝てる奴なんてどんなにいないんじゃないか?」

「里見が剣術以外の切り札があるなら分からないけど。」



学校へはほとんどの学生が自分の装備を持ってきている。

国井が手にしているのは真剣。どうやら魔鉱製ではなく通常の刀のようだ。

一方の里見は大振りのロングソードでこちらは魔鉱製のようだ。


防具は国井が不要と言ったのに対し里見は当初、鎧を身に付けようとしていたが同じ条件に拘り制服同士でやるようだ。



「おいおい、危なく無いか?」


「国井にはそれだけ自信があるってことだろう・・・」


「まぁ、多少の怪我なら俺が治すよ。有料だけど。」


「有料なのか・・・・」



真壁教官の合図で二人の戦いが始まる。

初見同士なので様子見から始まると思われたが気合と共に里見が剣を振り下ろす。

国井はそれをわずかに躱すと軽く刀を横に薙いだ。

里見はなんとかそれを剣で受けると距離を取ろうとバックステップするが既にそこには国井の突きが待っている。

首を掠めはしたが距離をとりたい里見は斬り上げて国井をはがす。



「どう思う?」


「・・・ここまで差があるとは思わなかった。ここまでで既に3回かな?」


「へぇ、、、」



里見はこの1分にも満たない攻防で3回は殺されている。隙があったのに国井は打ち込まなかったのだ。

それが実力を見ると言う教官が提案した目的からなのか、あるいは実力差がある者への指導のつもりなのか・・・

やられた方はたまったもんじゃないだろうな・・・・

実力が全くなければ苦戦はしているがなんとか善戦できたと感じるだろう。

実力があれば手加減されていることに気づく。

もっと実力があれば自分が何回打ち込まれる隙があったのか、

自分は何回死んだのか分からされ絶望するかもしれない。

一見、勝負になっているこの戦いは一方的すぎたのだ。

結局、5分も経たないうちに里見は剣を手放し荒い呼吸と共に膝をつく。

何度も死を感じる中ではマナも体力も消耗が尋常では無かったのだろう。



「・・・そこまでだ。」



教官が試合を止める。



「二回目なのにこんなに差があるのか・・・・」



里見はどうやら国井との実力差を把握できたらしい。

それがゆえに絶望は大きいようだった。

一方の国井は息も乱さず、汗すらかいていない。

軽く一礼だけして下がっていく。



「藤堂、二人は前に戦ったことがあるのか?」


「さぁ、無いとは思うけどどうだろう。」



里見が言った二回目という言葉が気になった。

今の俺はある意味二回目の人生だ。里見も同じような境遇なのか?

だからこそこんなに早くBランクに昇格できた?



「国井とやって里見以上に戦える奴は何人いる?」



教官の言葉に他のクラスメイトは黙った。

おそらく里見以上に戦える奴はいないのだろう。

戦いの結果は惨敗だったが誰もが里見の実力は認めた。



「次は橘か。橘、誰かやりたい相手はいるか?」


「特には・・・ヒーラーの自分が今の戦いの後だとやりにくいんですが・・・」


「俺にやらせてください。」


「梶原か・・・・橘どうだ?」


「分かりました。」



「橘はどう戦うんだ?梶原はなかなかの氷魔法を使ってくるぞ。」


「藤堂、ありがたいが俺のセコンドみたいで大丈夫か?」


「同じクラスなのにお前だけアウェイっぽいのは気に入らないからな。」


「そうか・・・俺は攻撃魔法も少しは使えるからそれでやってみるよ。」


「え、パラディンタイプかと思ったが違ったか?」

「鍛え方が前衛並みじゃないか?」



マナの状態?服の上からの筋肉?何で分かるのだろうか。

おそらく国井や九条は俺の今の実力は分かっていないと思う。

だが匠は直感なのか俺の実力がある程度わかるようだ。



「前衛と後衛どっちになるか検討中でね。どっちもある程度鍛えてる。」


「そこそこ鍛えてるってくらいなら梶原と魔法勝負は厳しいぞ?」


「勝ち負けじゃないみたいだからそこは別にいいんじゃないか?」


「てっきり、いや、、、、すまんなんでもない。」


「ん、言いたいことがあるなら言ってくれ。」


「いや、橘が負けるイメージがわかないんだが、ヒーラーがどう勝つかもわからない。」

「だから分が悪い魔法勝負と聞いて意外だったんだ。」


「そうか。じゃあ期待通り勝手来よう。」



「作戦会議は終わったのか。それより早く装備を整えろ。」



杖とローブを装備した梶原は苛立ちと共に促す。



「いや、俺はこのままでいいんだが・・・」


「俺の魔法を受けたらただじゃすまないんだぞ!?」

「鎧でもローブでもマナ防御力の高い装備を早くしてこい!」


「当たらなければ一緒だろ?さっきの国井と里見だって防具なんて付けてなかっただろ?」


「剣よりも魔法の方が効果範囲が広いのは常識だろ!当たらないわけがない!」


「はぁ。教官も口で言うより実際戦ってみろって言っただろ。早くしろって言うならもう始めよう。」


「・・・・教官。この試合での怪我は自己責任ですよね?」


「ああ・・・・橘、それでいいのか?」


「ええ、梶原が怪我したら俺が治しますよ。ヒーラーなんで。」

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