第2話 回帰ではなく妄執
「あ、違います。」
「え?」
いやいやいや、どう考えたってそうでしょ。
39歳の俺が16歳の時に戻ってるんだから。ほらスマホも2055年8月2日って。
俺が国立東京探索者学校に入学した年だから覚えている。
「・・・・俺の主観では39歳でダンジョン攻略中に死んだと思ったら16歳の今に戻ってる。」
「回帰したとしか思えないんだが・・・」
「あなたの主観ですよね。その記憶が正しいと証明できますか?」
証明?自分が自分であることの証明というのは難しい。
ライセンスから16歳Dランクの橘樹という人間であるという証明は公的にはできるだろう。
だがAランク探索者として39歳まで生きていたという証明をすることはすぐにはできない。
「・・・少し先に起きることを予言でもすればいいのか?」
「いえ、それも予想がたまたま当たった可能性があるので証明にはなりません。」
「・・・・・」
「・・・・・そもそも証明する必要も無いのか、、、、」
「とにかく俺は39歳のおっさんから16歳に戻った。」
「これまでの経験やこれから起こることを知っているアドバンテージがあれば、、、、」
「だから違います。」
再び強く「違う」と否定される。
「回帰と思われる状況かもしれませんが貴方の記憶の通りにはおそらく進みません。」
「・・・・どういうことだ?回帰以外説明できるか?」
「まさかここが自分の生きていた過去の世界のパラレルワールドなんて言うわけじゃないよな?」
そんなことが起きるはずが無いと思ったが、よく考えると回帰も普通に考えると常識外だ。
「妄想です?」
「は?」
「貴方が記憶と思っているのは妄想です。」
何を言っているのか理解できなった。
Aランクまで仲間と共に過ごした時間、足手まといになりたく無いとソロで活動した20年以上の時。
それらがすべて妄想だとはとても思えなかった。
記憶を1つ1つ思い起こし妄想という言葉を否定しようと考えなんとか思ったことを言葉にする。
「・・・・今の俺はDランクで16歳。今日が2055年。それは間違い無いんだろう。」
「たしかにマナのキャパも身体能力も俺がAランクとしての時とは比べ物にならない。」
「だが、16歳のこの時点では剣を使った戦闘しかしてなかったはずだ。」
「でも今は攻撃も回復も魔法を使いこなせる感覚がある。」
「妄想でそんなことができるか?」
「妄想はいいすぎました。ショックを与えたかったわけではありません。」
「より正しく言うならシミュレートです。」
「シミュレート?つまり俺が今後の未来を予想、想定したと?20年以上先まで?」
訓練や戦闘において相手がどう動くか考えて自分がどう対処するかを考える。
別に戦闘に限ったことでは無く誰でも自分の行動によってもたらされる結果を予想し、
自分の求める結果になるように複数の選択肢から選んで生きているだろう。
将棋や囲碁だったら何十手先まで読みあうこともあるだろう。
投資をするなら数か月、数年先を考えるかもしれない。
だがそれはあくまで条件が限定される中でだからこそできることだ。
あらゆる人間の思考までシミュレートなどとてもできるものではない。
たしかにそれは妄想とされるものだろう。
「・・・いっそ完全な妄想という方が現実的な気がしてきた。」
「だが妄想ならもっとチートで無双してハーレムとかが良かったなぁ。」
現実と妄想、今の記憶。何が何なのか混乱してくる。
「はぁ、胡蝶の夢じゃあるまいし・・・」
「そもそも俺自身がどうか分からないのになぜあんたに分かるんだ?」
「さっきも聞いたが何者だ?一体何を知っている?」
宗教とか何かの勧誘か?
いやそれはないだろう。たかがDランクの若者を騙したところでたいしたメリットはない。
16歳でDランクというのは有望な方だ。
ダンジョンに入れるのは実質高校入学年代の4月からで、
Fランクからはじめ、この時期にDランクになっている同世代は国内では100人前後ではないだろうか。
夏休みが終わる頃には1000人以上だろうし高校生という括りなら1万人以上Dランクの人間はいるだろう。
「私は貴方の認識で言えば魔人です。」
「は?」
魔人。俺の記憶ではあと10年以上経ってからその存在が認識されるものだ。
あるいは今の時点でもいて誰もまだ知らないのか一部の人間しか情報を知りえないかだ。
いや、そもそも俺の記憶前提ということがおかしい。
妄想にせよシミュレートにせよそれは事実ではない。何も確定していない。
「・・・・続けてくれ。」
「はい。私は貴方の記憶をシミュレートと言いました。」
「先ほどのダンジョンで変異が起きすぐに消滅しましたよね。」
「ああ。意識が飛んでたから詳細は分からないがそのようだな。」
「DからCへ変異しDランクになりたての貴方は死にかけました。」
「死に際しに思考加速能力が発現しました。」
「まて、思考加速は相手の動きが遅く見えたり、動きを予測したりするものだろう。」
「通常だとそうですね。そもそもそれらはかなりの経験を積んだ人間しか扱えませんし、
危機に際してたまたま発揮されるような類のものです。」
「マナが無かった時代の武人でもそういう話しを聞いたことがあるでしょう?」
「マナを込めて武器を振るうと威力が上がるように思考加速もマナが混ざると効果が上がります。」
「本来思考加速なんてコントロールできるようなものじゃないんです。」
「ただでさえ制御できないものにダンジョン変異時に溢れたマナが作用し無限に加速していきました。」
「その結果貴方の脳は負荷に耐えられませんでした。」
「は?」
俺の脳が負荷に耐えられなかった?今無事でいる俺はなんだ?
実はこれも加速した精神世界の1つの意識なんてオチじゃないよな?
「安心してください。今は現実ですよ。」
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