第3話 君の名は
「安心してください。今は現実ですよ。」
「いや、安心しろって、、、脳が耐えきらなかったって言わなかったか?」
「脳で処理できなくなったから、外で処理が行われました。」
「外・・・?、脳の外?」
荒唐無稽な話をしているようにも思えるが、まずは相手の話がすべて事実と仮定して考えてみる。
「外・・・ダンジョン・・・マナ・・・」
「魔法がマナを変換して発動しているように、思考加速をマナと結び付けた・・・?」
「いや、魔法も発動後は維持し続けないと減衰するから無理か・・・・」
「マナに変わるもの・・・魔石か?」
「考え方はあってます。惜しいですね。ここまで考えられるってことは落ち着いてきたようですね。」
「いや、いまでも混乱はしてるさ。で、答えは教えてくれるんだろう?」
「たぶん自分で考えてもすぐに答えは出たと思いますけど。ダンジョンコアですよ。」
なるほど。ダンジョンコアはまだ完全に解明されたわけでは無いが、
モンスターの核である魔石どころでは無いエネルギーを内包している。
そのエネルギーが思念と結びついて発生したものがダンジョンでありモンスターだった。
俺の記憶ではあと10何年か後には魔人とよばれる存在が出現する。
ダンジョンコアをコアとした圧倒的な存在。
だが待て、この女性はダンジョンコアが思考加速と結びついたと言ったのか?
では目の前にいるこの女性は・・・・
「貴方は・・・魔人・・・なのか?」
「そうですね。私は貴方の認識するところの魔人とよばれる存在です。」
「今の時点では魔人は誰からも認知されていないので現時点でそう呼称されるかはわかりませんが。」
「貴方の思考加速は貴方からすぐ近くにあったダンジョンコアに移りました。」
「ダンジョンコアの全エネルギーで処理できるだけ処理されダンジョンは消滅。」
「その後のことは貴方も目覚めてたから知っての通りです。」
「・・・・魔人がなぜ俺にこんな説明をする?」
「俺の知っている魔人はほとんど人間と敵対関係だったし、友好的な魔人もいたがあくまで利益のための関係だった。」
「私が貴方と話す理由ですか?私が貴方の思考から生まれたからです。」
「貴方は私にとって親であり恋人であり友達であり、貴方の一部とも言えます。」
「・・・・・続けてくれ。」
「ダンジョンコアが取り込んだ思考加速は貴方を起点に無限とも言える可能性の世界をシミュレートしました。」
「貴方が今持っている記憶は、妄想、、、シミュレートしたルートの1つです。」
「それ以外に分岐したあらゆる世界をベースに生まれたのが私です。」
「性格や容姿は貴方が知り合った様々な人たちがベースになっています。」
「ある意味では様々な経験を積んだAIと言えるかもしれませんが。」
「それと、妄想であって妄想では無いと言うのはあらゆる過去や未来の記録をマナは持ちます。」
「ただのシミュレートでは無く、ダンジョンコアと結びついたことで一部マナの記憶をも読み取ってます。」
「まて、マナが過去と未来の記録を持つ?それはアカシックレコードと呼ばれるようなものか?」
「その通りです。」
「本当にそんなことが現実に起きるのかはまだ半信半疑だがある程度納得はできた。」
「いくつか確認したいんだが俺の記憶は可能性のある1つの未来のシミュレート結果なんだよな。」
「はい。」
「ではお前はありとあらゆる可能性の未来について知っているのか?」
「まず、アカシックレコードからは部分部分読み取ってそこから思考しているので確実な未来では無いです。」
「流石にアカシックレコードのすべてにアクセスなんて誰にもできないでしょう。」
「それに可能性とは本当に無限に近いものです。それをすべて把握するのはダンジョンコアのエネルギーでも足りません。」
「途中でダンジョンコアのエネルギーが尽きてしまったためその大部分はロストしています。」
「ただ、一般的な人間の尺度でいえばあらゆると言えるほどかもしれません。」
「・・・それはどれくらいのパターンなんだ?」
「申し訳ありませんが把握できません。ですが億とか兆より数桁上の数です。」
「また、それを活用するのも難しいです。」
「どういうことだ?アカシックレコードにアクセスした未来なら価値は計り知れないと思うが。」
「1つは、我々の話している今もアカシックレコードの1つの世界線でしょう。」
「でもその未来がどのシミュレート世界に繋がっているか知るすべがありません。」
「図書館で1兆冊の本があって調べたい本をすぐに探せますか?」
「・・・・じゃあ何だったらできるんだ?」
「貴方はAランクになるまでの記憶はあるんですよね?」
「その経験や知識を活かして16歳の貴方はもっと効率的に強くなれるのでは。」
「いや、お前は何ができるんだ?」
「膨大な世界の可能性のパターンが保存されています。。。」
「・・・・それだけか?」
「・・・・それだけですかね。。。」
「それも活用できないんだよな?」
「そうですね・・・・」
ミステリアスで有能風に見えたが思ったよりポンコツだった。
いつの間にか俺の言葉使いも適当になってしまったがそれでも魔人なんだよな・・・
「まぁむしろ人間にとっては魔人は何もできない方がいいのかもな・・・」
「貴方の認識上分かりやすく魔人って言いましたけど厳密には魔人じゃないですよ?」
『魔人』は今の時点では生まれていない。はず・・・
正確には記憶していないが10数年後にAランク以上のダンジョンでそれは生まれた。
人間と同じかそれ以上の知能を有する人型の魔物。
ダンジョンコアを自身の核に取り込んでいるため通常の魔物よりもはるかに強い力を持つ。
一方でそのダンジョンに縛られるためにダンジョン外には出られない。
魔人についての情報はまだ完全では無く分からないことも多いから俺も詳しくは無いが、
たしかにダンジョンの外にいる時点で俺の知る魔人では無い。
ダンジョンコアが核ということと知能の高さは当てはまるが・・・
「先に言っておきますが私は人間に危害を加えるつもりは無いです。」
「それは良かった。」
「決して、弱すぎるからできないという意味じゃないですよ。」
そうか、ポンコツだからそもそもできないんだな・・・
「CランクダンジョンのコアがベースなのでCランクダンジョンのボスくらいの力はありますよ?」
思ったより強かった。今の俺よりは強いがその程度であれば仮に暴れてもすぐに対処されるだろう。
「そうか・・・で、魔人じゃないとするなら何だ?」
「私の状態のケースは無いから呼称は無いですけどイメージは精霊寄り?」
精霊、ダンジョンには人間と敵対するモンスターだけが生まれたわけでは無い。
マナと人間の思念が結びついて魔物は発生する。
悪意、恐怖、嫉妬、ネガティブな思念が人間のイメージする魔物として形作られる。
逆に善意によって生まれ人間と共生できるものも生まれた。その1つが精霊だ。
「火とか水とかじゃなく私の場合は電子の精霊?または人工精霊?ですかね?」
「魔人や精霊の自我、個性って世界に溢れてる人の思念の集合から発生しますよね。」
「私の場合は貴方の思考から生まれた複数の世界から生まれました。」
「ああ、それで親であり恋人であり友達ってわけか・・・」
「ちなみに、この姿は貴方が想像した世界で出会った人たちで貴方が好ましいと思った人の集合ですよ。」
・・・好ましいと思った人の集合?俺の好みの女性ってことか?
たしかにかなりの美人だと思うが俺の好みってこんな感じ・・・か?
「今俺の好みとは違うぞって思いました?」
「それは、本当に好ましい人を人工的に生み出すことへの忌避感からあえて少しずらしているんだと思います。」
「どこか機械的、説明的な口調なんかもあえて人間味を薄くして人間では無いとしたいからじゃないですか?」
なるほど。その言い分は納得できた。
「ところで、お前最初の時と違わないか?」
「え?」
「ええ?ええええ?クールビューティーじゃ無くなってる・・・」
当初は20代で均整の取れた美人だったはずが、今見ると若くなった自分よりも更に年下に見えた。
話し方も知的な印象から幼い話し方に変わっていた。
「すまん。さっき言ったことが本当なら俺がお前の事ポンコツと思ってイメージしたからかもしれん。」
「ポンコツってそれはないでしょ!もうっ!どうしてくれるの!」
「自分の見た目にこだわりがあるんだな・・・」
「そりゃそうでしょ。私の性格も結局はそりゃ貴方の中の知り合いの集合体だよ?」
「でもそれだってあくまで最初はそこから生まれただけで、今は私の自我があると言えるんだから。」
「それが勝手にいじられたらどう思う?ねえ!」
「すまない・・・それは確かに嫌だな、、、」
「でも慰めというわけじゃないけど、その姿は可愛いと思うし、声も親しみやすくて俺は良いと思う・・・」
「・・・・この姿でイメージが定着したんならどうしようもないしいいわ。」
「・・・・・この姿も悪くはないもの」
小さな声でそうつぶやいた。
「そうだ。名前は何て呼べばいい?」
はぁーっと目の前の少女はため息をつく。
「今更?貴方から生まれたんだから名前は貴方が決めて。」
突然名前を決めてくれなんて言われたものの結婚もしたこと無いから勿論子どももいない。
名づけの経験なんて無いぞ俺は。
友達の子供の名前付けるわけにもいかないし気の利いた名前なんて思いつかないぞ・・・
上目遣いで期待して見てるよ・・・プレッシャーだ・・・
「葉月・・・はどうだろうか。」
「今が8月ってのもあるけど、俺の名前が樹だろ?樹の一部である葉って意味を込めて。」
「葉月・・・葉月・・・悪くないわね。私は葉月。」
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