第14話 ミノタウロスとの戦い

ダンジョン最奥に到達した俺達を待ち受けていたのはミノタウロスだった。

ゲームやラノベのファンタジーものではお馴染みの中堅くらいの強さイメージだろうか。

日本人の持つイメージとは違い、ギリシア神話にも登場する由緒正しい?魔物である。


ダンジョンやモンスターは人の思念、指向とマナが結びついた結果生まれる。

ミノス島の迷宮型ダンジョンの最奥に現れるミノタウロスの個体は、

日本のそれよりもはるかに強大で斧をドロップすることがある。

『固有モンスター』は各国の伝説や神話になぞらえたものが多く力も強大なものになる。

酒呑童子、玉藻前、平将門が日本では三大固有種とされている。

日本三大妖怪は天狗なのだが平将門の方が知名度と怨念で上回ったようだ。


また、日本のダンジョンは世界で一番多様性があることで有名である。

日本、東洋、西洋、神、悪魔、精霊、妖怪、あらゆる魔物がダンジョンに現れている。



「本家ほどじゃないが厄介な相手だな・・・・」


「そう?物理攻撃だけでやりやすいと思ったけど。」



俺の厳しいと言う感想とは逆に葉月はそうは思わなかったらしい。



「俺の攻撃は剣も魔法もまだ大きな威力を出せるものが無いからな・・・・」

「・・・っ!下がっていろ!」



話しの途中でミノタウロスは咆哮と共に突っ込んでくる。

5mはありそうな巨体にもかかわらず速さもレッドキャップ並みで、

体当たりをくらっただけでただでは済まない。


足元を抜けて後ろに回り込む隙に剣で軽く斬りつけるも浅く傷すらつけられない。

普通の人間がナイフで熊を斬ろうとしてもダメージを与えることができないようなもので、

軽く斬りつけた程度では俺の攻撃はミノタウロスにまったく通らなかった。



「物理よりは魔法に弱いか!」



背中に回って更に距離をとるべく一気に前進し振り返りざまにファイアボールを三発連続で放つ。

一発目は頭に。二発目が胸に、三発目はかばった腕に当たったがまったくきにせずミノタウロスは俺に速度を落とさず接近する。

巨大な斧を暴風のように振り回すが、そのすべてをなんとか躱し合間にファイアボールを何十発も当てる。


ミノタウロスはまったくひるまずに攻撃を続ける。

効果が無いように見えるがそうではない。

身体強化、防御力はマナを使って強化している。

こちらの魔法を当て続けることでマナを削ることになっている。

そして体を覆うマナの層を薄くすることで強力な攻撃でなくてもダメージを通すことが出来る。

一番良いのは同じ場所に短時間で連続して当てることだ。

もしもファイアアローを同じ点に当てられるのなら、

ファイアアローだけで倒すことも理論上は可能である。

実際は高速で動く相手にそれは難しいが。


ファイアボールを何発も当てた部分を剣で斬ると防御を突破しダメージを与えることに成功する。

剣にマナをもっと込めたら剣だけでもダメージは与えられる。

また、魔法もケンタウロスを倒したファイアランスであればかなりの威力が期待できる。

だが回避に集中しながらそれらを同時にやるのはかなり厳しい。

ダメージを喰らう覚悟でやれば当てられるがミノタウロスの攻撃だと下手すれば1回受けただけで戦闘不能になる可能性がある。

なので今の自分が勝てる一番安全な方法が低威力の攻撃で削り倒すことだった。


安全にとは言っても熾烈な攻撃を紙一重で躱し続けること自体かなりの難易度ではある。

実際、直撃は受けていないのにマナを帯びた斧の風圧でこちらも削られ防具の無い部分からは出血もしていた。



「いつき~てつだわないでいいの~」



距離があるからか葉月が大声で手伝おうかと聞いてくる。

実際、魔法の援護が貰えたらおそらく10分もかからずに倒せるのでは無いだろうか。

戦い始めてどれくらいたったろうか・・・体感では1時間くらい戦っている気がするが・・・

それでもまだ倒すには時間がかかりそうだ。



「援護は・・・いらない・・・!」



戦闘中で呼吸が乱れているので返事も必死だ。

ずっとファイアボールと斬撃で削った効果が出てきたのかミノタウロスの足にはダメージが蓄積し、

体勢が崩れる。転倒したところに飛び込み剣を目に突き入れる。

ショートソードの刀身が中ほどまで入り込む。

ミノタウロスは絶叫し倒れたまま斧を横に薙ぐが苦し紛れの攻撃を軽く飛んで躱し、

もう1つの目に突き刺そうと繰り出す。

だがそう上手くはいかずにミノタウロスは手で剣を防ぐ。

だが俺は剣に一気にマナを込めて手のひらを貫通させそのまま顔に突き入れようとする。



「うぉぉー!」


「ゴォォォォォー!!!!!」



俺とミノタウロスの絶叫が響き、ミノタウロスの顔に剣が届く前に止められる。

ミノタウロスは手に剣が刺さったまま手で俺を払いのけようとするもその時俺は既に距離をとっていた。

それはマナを込めるのに十分な時間だった。



「ファイアランス!」



負傷している顔めがけてファイアランスを放つ。

ミノタウロスは無防備な顔面に炎の槍の直撃を受け絶叫するもまだ戦意を失わない。



「ファイアランス!」



だが顔に受けたダメージは大きかったようで動きは止まっていた。

再びファイアランスを放つと今度は腕を交差し顔への直撃はさせてもらえなかった。

だが動きを止めてしまえばもうこちらのものだ。

ファイアランスを無防備な足へ放つと先ほどから削っていたダメージもあってか膝を突き、

斧で身体を支えなんとか倒れることを拒否する。

顔のガードがはずれたところへ再びファイアランスを放つと剣が刺さった手でガードをする。


ファイアランスを放つと同時に飛んでいた俺はミノタウロスの肩に着地する。

手に刺さった剣を引き抜き全力のマナを込め潰れていない方の目へ勢いよく突き刺す。



「終わりだ!」



今度は剣が根元まで突き刺さるとミノタウロスは声を上げることも無くそのまま巨体を地面に預けた。



「はぁ~~~一人じゃやっぱりしんどいな・・・」


「お疲れ様。全部避けてたし余裕だったんじゃないの?」


「いや、一発でももらうと死ぬかもしれなかったからな・・・・」

「俺のマナもギリギリだし、まだ安定してBランクを攻略するのは厳しいかな。」


「前世の全盛期だったら余裕?」


「いや、そうでもないぞ。今もその時の記憶や経験があるからそんなに変わらないしな。」

「マナのキャパやコントロールがその時の方が上だから攻撃力が違う分ここまで苦労はしないけど。」



ミノタウロスの魔石とダンジョンの魔核を回収するとダンジョンが崩壊し外へ排出される。

周囲には採掘をしていたチームや採掘道具なども一緒にダンジョン外へ出されていた。


余談だがダンジョン崩壊に合わせて廃棄物が捨てられないかダンジョンが出来てすぐの頃試されたらしい。

一部ダンジョンと共に消えたものもあったが、基本的にはダンジョン外へ放り出されるようだ。

なんでも核廃棄物なんかを処分できないか試したらしいが・・・



「まさか二人でボスを倒すとは思わなかった。」


「え~っと・・・・」



途中すれ違って挨拶した探索者達から声をかけられなんて答えたらいいか困る。



「いや、別に因縁つけようとか文句言おうとかじゃやないからな。」

「そりゃまぁもうちょっと掘ったらもっと儲かったのにってのはあるが。」

「でもまぁ十分な期間採掘できたし、ボス倒しちゃいけないルールも無いしな。」

「ただ若い二人でボスを倒したことに驚いたんだ。」

「ひょっとしてどこか大手のクランに所属してるのか?」


「いえ、無所属のフリーですよ。まだ学生ですしね。」


「若いとは思ったが学生さんか・・・その年でBランク攻略ってすごいな!」


「いえ、たまたま運が良かっただけですよ。」

「流石に疲れたので今日は失礼しますね。」


「運だけじゃ無理だな。俺達は採掘メインにやってるクラン『甲州HUT』だ。今度良かったら事務所に来てくれ。」



名刺を受け取ると採掘防衛課の課長さんだったようだ。



「ありがとうございます。それでは今日は失礼します。」

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