第12話 Cランクはただの過程
翌日はダンジョン攻略を休み鍛冶場を探した。
武具を買うためでは無く、自分が使える鍛冶場を探すためだ。
流石に一日貸してくれと言って借りられるところは見つからず、
今後の事も考え廃業した鍛冶場を購入することにした。
需要が増えた後、新規で鍛冶をやろうとする者が増えたがそんなに上手くいくわけがない。
昔からの刀鍛冶などは問題無いし、包丁を作っていた者などもある程度対応できた。
だが完全な素人が手を出せるものでは到底なかった。
当たり前のことだと普通だったら思うだろうが、ダンジョンの発生から、
モンスターに魔法といった当たり前ではないことが起こったのだ。
ゲームの様に『生産職』というものも魔法と同じようになれるのではないか。
そう思った者が始めたが当然うまくいくわけも無く、
鍛冶場を作ったもののすぐに廃業し売りに出されていることが結構多くあった。
普通の人が活用できるようなものでもないので売り出されてもなかなか売れず、
当初買った者は半分以下の価格で手放すなんてことも多々あった。
物件を探すと比較的学校近くに鍛冶場付住宅が売りに出されていた。価格は1億。
鍛冶場の上には住宅、鉱石などを保管できる倉庫まであり一般的な住宅よりも広い。
これが通常住宅であれば倍以上の価格がするらしい。
立地も広さも悪くないが流石に1億というのは手持ちの魔銀を売ったとしても足りない。
また、16歳のDランク探索者というのは社会的な信用も無いに等しい。
そこで俺は葉月とCランクダンジョンをいくつか攻略し、
Cランクに昇格することができた。
また、その過程で得た魔石や鉱石を売って一億円以上確保できたため目当ての物件を購入することができた。
「Cランク上がりたてでひと月かからず億稼ぐってやばいな・・・」
「鉱石が高く売れたからでしょ。私がいなかったら無理だったんだからね。」
「そうだな。葉月には感謝してるよ。」
「Bランクダンジョンを攻略して夏休み中にBランクへの申請しようと思う。」
Cランクダンジョンを何度か攻略してマナのキャパはある程度上がったし、
一通りの魔法も実戦で試して自分の現状が把握できた。
現状でもBランクの平均的な並みのマナ容量はあると思う。
魔法の練度も攻撃、回復共にBランク並。
近接戦闘技術はAランクでも通用する。
既にAランクに近い実力であるが、マナ容量と制御をもっと伸ばさなければ絶対火力が足りない。
実際、前世では火力不足で普通のAランク止まりだったのだ。
様々な分野に手を出した結果なのだが何かに特化したとしてもパーティーメンバーの圧倒的な才能には敵わなかったと思う。
それでもここまで全分野を扱える者は他にいなかったのでその意味では俺も才能がある方だとは思う。
(全分野に手を出す人間がいなかっただけで匠がやったら全部俺以上上手くやれたかもしれないが。)
「Bランクダンジョンの攻略って今まで通り一人でやるの?」
「少し厳しいけどそのつもりだ。」
「Aランクでも一人じゃBランク攻略するの難しいんじゃない?」
「ソロが難しいのはだいたい誰でも得意分野に特化するからで俺みたいに万能型なら可能かな。」
「近接がソロで行くと遠距離で削られるし、逆に魔法系がソロだと近づかれたら終わる。」
「俺の場合はどっちも対応できるから単独でもやれる。」
「ただ雑魚にマナ使いすぎると持たないから全部無視でボスまで行きたいと思ってる。」
「なるほどね。だったら別に私と二人で攻略してもいいんじゃないの?」
「それが一番なのは分かってるんだけど、なんかそれって俺の力じゃ無い気がするんだよなぁ。」
「そんなこと思ってたの?最初から私は樹の扱う精霊みたいなものって言ってるでしょ?」
「精霊や召喚獣使うのも使役者の実力でしょ?」
「そもそもパーティーで攻略したってメンバー全員の力じゃない。」
理屈では分かっているのだが、前世でのパーティーでは俺は世間から認められていなかった。
あくまで他のメンバーが優秀で、俺のポジションは誰でもできる。
運良く最高のパーティーに入れたおかげでAランクに上がれた。
そういう評価だったのだ。
パーティーメンバーは誰もそんなことは思ってなかったと思う。
俺の嫉妬や見栄の問題なのかもしれない。
だから俺は俺自身の力を証明したいのかもしれない。
「無意味な意地だってことは自分でも分かってるしソロのリスクも分かってる。」
「それでもAランクまで誰が見ても俺の実力で上がったと思われたいんだ。」
「・・・・そこまで言うなら何も言えないじゃない。」
「でも危ないと思ったら勝手に助けるからね。」
「すまない。」
いくつかCランクダンジョンを攻略しながら数日が経ち、購入した家は手続きが終わり清掃も済んでいたのですぐに住める状態だった。
家具や家電はこれから揃えるがまずは葉月に保管してもらっていた鉱石類を倉庫に出し、
Bランクダンジョン攻略に向け装備を作成することにした。
「本当に自分でやるの?」
「ああ、鍛冶自体は本職の刀匠ほどの技術はまだ足りないけど、マナの伝導率や付与の面では俺が一番だ。」
例えば剣を打つとき、元々の鍛冶の技術が当然重要だ。
だが魔鉱製の武器や防具を作るときは魔鉱にいかにマナを馴染ませるか。
そしてマナの伝導率を高くできるかはマナの制御能力が大きく影響した。
普通の剣を探索者が使うとマナを武器に込めることで斬れ味や耐久が高まる。
伝導率が高いと同じマナを込めてもその斬れ味や耐久力はより一層高くなるのだ。
なので普通の人がマナを使わずに剣を打つよりマナの制御に優れた探索者が剣を打つ方が、
実質より強い武具を製作できるのだ。
Aランク以上で鍛冶師になった者は前世では聞いたことが無い。
実質世界一だったんじゃないだろうか。
パーティーメンバーには喜ばれたが、これってただのお抱え鍛冶師でパーティーメンバーにいる意味あるかと思い、
鍛冶を商売にすることも技術を発表することも無かった。
前世のいつ以来だろうか。主観での時間感覚も曖昧になってきたな。
最初は前世での鍛冶を思い出しながら鉱石を打っていたが、
次第に何も考えずただ無心で撃ち続ける。
「・・・・今何時だ?」
「もうすぐ2時よ。」
「なんかお腹空いたな。少し遅くなったけど昼にしようか。」
「夜中の2時よ。」
「は?10時頃始めなかったか?16時間休まずやってたのか!?」
「何度か声かけたけど全然反応無いんだもん。」
「え、ずっと見てたの?」
「そんなわけないでしょ。暇つぶしに樹のタブレット借りたわよ。
「あ、ああそれはいいんだが・・・」
自分で思った以上に集中していたらしい。
目の前には自分で作った魔銀製のショートソードに手甲と足甲。
魔銀くらいだったらここまで時間かけずに作る事が出来るが、今回はかなり時間をかけたようだ。
「かなりの出来だな・・・・」
「よくわからないけどあれだけ集中して時間かけたんだもの。良かったわね。」
「ああ。もし買ったら剣だけで1億近くになるかも。余裕で原価の倍以上になるな。」
魔銀はマナ伝導率は高いが耐久性は魔鉄の方があるため合金にしている。
更にいくつか売らずにとっておいた魔核を組み込み付与も施している。
同じ材料でここまでの品質を作れる者はほとんどいないのではないだろうか。
「装備も準備できたしBランクに挑戦してみるか。」
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