第11話 鍛冶の記憶

「1063万になります。チャージでよろしいですか?」


「ああ。」



ダンジョンから出た俺達は魔石の換金を行った。



「1日で1千万か・・・魔銀を換金したら収入すごいことになりそうだ。」


「Cランクでもかなり稼げるのね。」


「ソロだからな。パーティーだったら分けることになるし、装備や消耗品の経費もかかる。」



買取でDランク攻略した時は298万円だった。今回のCランクが1063万円。

魔石は新しいエネルギー資源と活用され発電からガソリン変わり等様々な使われ方をしている。

原油に変わる資源として特に資源の無かった日本は自国で得られる資源を得て大いに沸いた。

魔石をエネルギーに転換するシステムが開発されるまで数年を要したが、

今では全世界で原油と魔石のシェアが半々くらいまでになっている。

車の場合は魔石の方がガソリンの半分以下の価格で済む。

航空機もジェット燃料よりはるかに割安で、何よりガソリンより軽量で済むのもメリットだった。


各ダンジョンのボス以外の通常モンスターの魔石の相場が、

E以下500円 D1000円 C3000円 B10000円 A50000円 となっている。

ダンジョンコアから得られる魔核は非常に高価で、

E以下50万 D250万 C1000万 B5000万 A2億~

魔石も魔核も保有マナによって大幅に価格は変わる。


探索者の収入はこれに加え、協会からの攻略報奨金に採掘による魔鉱、

稀に魔物を倒した際に得られる『資源』だ。

魔物はダンジョン内で倒すと消える。

これはマナが魔物のを姿を与えているからでそれを失うとマナに戻る。

だが稀に消えずに残ることがあるのだ。

つまり魔物を倒してもそのまま生き物の死体のように残る。

魔物の装備や牙や皮などが得られることがある。


また、人間のイメージによって魔物が創造されているからか、

RPGのように魔物を倒すと何かを落とすというイメージからか、

ゲームの様にポーション等が得られる場合もある。


だいたい各ランクの年収は経費を除いて E200万 D500万 C2000万~

B1億~ A5億~ 稼いでいるとされる。



一旦部屋に戻り一息つくとまだ完全に癒えていない怪我を自分でヒールを使い治療する。



「久々にヒールを自分でかけたけど経験が共有されてるってのは本当みたいだな。」

「思った以上に効果がある。これなら明日もダンジョン行ける気がする。」


「次はせめて最初に来てた剣や鎧くらい装備したら?」

「今日は大丈夫だったけど次は死ぬかもよ?」



葉月が真面目な顔で訴えてくる。



「う~ん。そうなんだよなぁ・・・」

「分かってはいるんだよ。分かっては。ダンジョンの危険さもリスクも。」

「でも攻撃を受けることで耐性も鍛えられるんだよなぁ・・・」

「で、回復させたら回復魔法も鍛えられるだろ・・・」


「ゲームの仕様みたいに自分で攻撃して成長させるってこと?」

「だったら魔物の攻撃受けないで安全に自分でやれば?」


「それができたらそうするんだけど、自分以外のマナによる攻撃が効果あるんだよ。」

「免疫みたいなもので、攻撃を受けた時に抵抗する力が強めるんだよなぁ。」

「それで、自分だと効果ほぼ無くて、人間同士でもマナパターンが似てて効果薄い。強い魔物ほど効果がある。」


「でもそれで死んだら元も子もないでしょ?」


「そうなんだよなぁ・・・」

「まぁとりあえずは今まで使ってた皮鎧とショートソードは持っていくことにするよ。」


「それがいいでしょうね。」

「そう言えば今日私が回収した魔銀は売らなかったけどよかったの?」


「ああ、Bランク以上のダンジョンに行くとき用の装備の材料にしようと思う。」

「ショートソードとガントレットくらいは作れる量だろ?」


「自分で作るの?」



「自分でやった方が安上がりだし、良いものが出来るからな。」



ダンジョンが出来てから刀や槍などの需要が増え、鍛冶師になる者が増えた。

更にダンジョン産の鉱石、魔鉱を加工する技術を扱える鍛冶が増えることになる。

現在の時点では魔銀まではある程度加工できる者もいるが、それでもまだまだ需要に供給が追い付いていない。

鉱石自体も高価だが加工後の武具は更に高い。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

樹20歳(樹の主観で経験した未来あるいは妄想)



「樹ってさ、前衛アタッカーとしては私の次に弱いよね?」



定期的に行っているパーティーのミーティングで九条が議題があると話しを始めた。



「・・・・そうだな。」


「ヒーラー私より弱いのはどうなんでしょうね。」



曲直瀬もその話に乗ってくる。



「だからと言って魔法が強いわけじゃないしねぇ。」


「いやいや一番弓の扱い上手いし、剣も魔法も回復も全部できるなんてすごいと思うよ!」



匠がフォローするも誰も納得しないようだ。



「弓は誰も使わないだけでしょ。ようは樹の役割って別に樹じゃなくてもいいわけよ。」


「・・・たしかに他の皆は代わりになれる人はいないかもな。」

「で、俺の代わりにもっと良い人材でも入れるってことか?」


「そうは言ってないわ。でもこのパーティーにいるなら樹も代えがきかない人間になってもらいたいのよ。」


「いいじゃないか!オンリーワン!」



今まで黙っていた姉さん(島津先輩)もうんうんと頷く。あれは特に何も考えて無いな。



「そうは言うが全員アタッカー、ヒーラー、ウィザードとして日本屈指じゃねーか。」

「今すぐ同じレベルなんて流石に無理だぞ?」

「そもそも俺は戦闘全体のバランスを取れるように前衛後衛どこでも入れるように鍛えたんだ。」

「パーティーとして貢献はできてると思うし責められる謂れは無いぞ。」


「分かってるって。誰も樹が無能だなんて思ってないし樹のおかげで上手く連携できてるのも知ってる。」



そんな風に思ってくれてたとは・・・ちょっと照れるな。



「でも世間はそう思ってないでしょ。たまたま強いパーティーに入れた寄生虫ってネットに書かれてるのよ!」



たしかにそういうことを言う人がいることは理解している。

俺が所属しているパティ―で明らかに俺だけが戦力として劣っているのは事実だ。



「まぁ勝手に言わせてていいんじゃないか?俺に実害があるわけじゃないし。」


「はぁ?あんた悔しくないの?私は自分のパーティーが貶されてるみたいで嫌なんだけど!」


「まぁ、皆より弱いっていうのは事実だからな。」


「はぁーーーー、そんな気概だから駄目なのよ。見返してやるくらいの気持ちは無いの?」


「それで、俺は何をすればいいんだ?」



結局は最初の代わりの利かない云々に繋がるのか。俺は面倒になって結論を聞いた。

匠は最初は擁護するようだったが口を出すともっと面倒になると思ったのか何も言わなくなっていた。



「そうね。鍛冶と錬金なんてどう?」


「鍛冶と錬金?そんなのそれこそ戦闘以上に本職に勝てないと思うんだが・・・」


「たしかに『鍛冶』の技術では勝てないでしょうね。」

「でも鍛冶に必要なのは鍛冶技術だけじゃないでしょ?」

「魔鉱を加工するのにはマナ操作が必要でしょ。それに各武器についての知識もいる。」

「今の日本で最高級の武具は鍛冶技術としてはすごいんでしょうけど、職位人で探索者高ランクという人はいないわ。」

「だから鍛冶技術で多少劣っても、マナの伝導率とか付与の面だったら樹なら勝てるんじゃない?」


「言っていることは分かった。たしかに可能性はあると思う。」


「そうでしょ!。だったら早速鍛冶の勉強もこれからやっていってね。」

「1年以内にトップクラスの鍛冶師になりなさいよ!」


「ちょっと待て、俺今週5で皆から訓練という名のシゴキを受けて、週に1、2回ダンジョンに行ってるんだけど。」


「じゃあ訓練後の夜にでも鍛冶の修行できるように手配するから。


「だから持てって。俺いつ休むんだよ・・・・」


「さあ?それは自分で調整して。」


「・・・・俺との訓練って樹のスタイルに合ってない気がするから削ってもいいんじゃないか?」



匠が助け舟を出す。一日でも休みを確保できるのは有り難い。

頭を使うトレーニングなら休みなしでもやれなくは無い。

だが訓練という名のシゴキなのだ。殴られ、魔法を撃たれ、斬りつけられ・・・

たしかにそのおかげで強くなっている面もあると思うが、

ダンジョンで受けるダメージよりも大きなダメージを日常的に受けている気がする。



「これで樹が鍛冶師のトップになったら誰も文句言わないでしょ。」


「なれたらな・・・・」


「なれたらじゃなくてなるのよ。」


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