第16話 ヒーラーの戦いじゃない・・・

「駄目だ。」


「え?」



会長が許可を出そうとするのを遮って彩が駄目だしする。



「まぁ私が悪かった部分があることは認めよう。」

「だが先輩に対して暴言は良くない。」

「それに今後の試験のために手加減も覚えたいしもう少し模擬戦に付き合ってもらうぞ。」


「いや、会長が許可出そうとしてたし先輩が決めることじゃないんじゃ・・・・」


「もうさっきから細かい事煩いな。」

「学校最強のAランクと戦える機会なんてそうはないんだぞ?戦いたいだろ?」


「いや、皆実力差があって戦いたくないから先輩が戦う機会が無いだけですよ・・・・」


「なっ!そうなのか?普通強い相手とは戦いたくならないのか?」


「そういう人もいるかもしれないですけど、、、ただボコボコにされるだけなんて誰でも嫌でしょ?」


「いや?負けてもそこから得られるものはある。自分より強い者と戦ってこそより成長できる。」


「だったら俺と戦っても先輩の成長には繋がらないんで他当たってください。」


「え~私の攻撃に耐えられるってことは結構お前戦えるんだろ?ちょっとやろうよ。」

「ほら。やられたままでいいのか?殴り返してきてもいいんだぞ?」


「あ、別に気にしてないんでいいです。」


「ああ、もう面倒臭い!これ以上何言っても仕方ないからとりあえず戦うぞ?」

「戦ってたら気持ち良くなってくるからな?」



俺の知ってる姐さんは、この時代から既に頭がかなりおかしかった・・・

今度は奇襲では無く正面から殴りかかって来る。

先ほどの話から手加減しているのだろう。今の俺でも捌ける攻撃だ。

軽い牽制の拳を数発突き出すと上段の蹴り、それを躱しつつ足払いをかけると軸足だけで飛び廻し蹴りに転じる。

それもバックステップで躱すも既に目の前に先輩が移動してきていてバックステップで足が地に付いていない状況で、

回避できない拳を繰り出す。俺はそれを手甲で受け数m飛ばされる。



「最初の攻撃も受けられたが、その防具かなり良いものだな。」


「むき出しの腕に受けてたら折れてたかもしれませんね。もういいですか?」


「いや、身体が温まってきた。お前も反撃していいんだぞ?」


「格上の近距離アタッカー相手に素手でやりあえるわけないでしょ・・・」


「魔法を使ってもいいんだぞ?」


「だから俺、ヒーラーなん・・・」



喋り終える間もなく再び攻撃を受ける。

今度はローキックを数発を受ける。防具越しにもかかわらずずっしり重く体に響く。



「くっ!」



ローキックから足を跳ね上げそのまま腹を狙う蹴りに転じたと思ったそれは気づくと側頭部を刈られる寸前だった。

なんとかそれを止められたのは前世での訓練で何度もやられた記憶があるからだろう。



「まさか今のを初見で防がれるとは思わなかったな。」

「楽しいな。次は何を試そうかな。」

「ではこれは防げるか?」



先輩は攻撃を防がれたことが楽しかったようで次に出す攻撃を考えているようだ。

腰を落とし構え拳にマナを込めているのが分かる。

溜めの今こそ攻撃して阻害すべきなのかもしれないが逆に意趣返しをしたくなった。

実際、たいした技というわけでは無い。ただ単に速くて強いだけだ。

・・・・たぶんこの前のミノタウロスでも一撃で倒せないまでも吹っ飛ばせる威力だろうけど。

だが速さも強さも識っている。

今の時期なら俺の知っているそれよりも速度も威力も劣るはずだ。だったらやれるはず。

俺も同じ構えをして迎え撃つ。



「ほぅ。距離を取るわけでも攻撃をしてくるわけでもなく構えるか。」

「面白いな。」


「たぶん先輩からしたら面白くないですよ。さっき言ったでしょ殴り返すんですよ。」



挑発したつもりだったがただ楽しそうにニヤリとした先輩は弾丸のように突っ込んでマナを込めた拳を繰り出す。

シンプルだが攻撃用の拳だけでなく、足へもマナを込めて速度を強化しなければならない。

両方のバランスを取るのは想像以上に難易度が高い。

俺も出来なくは無いが、今のマナ容量では両立させると込められるマナが分散するため威力が落ちる。

なので俺が取ったのは拳に集中させたカウンターだ。

勿論、支点となる両足にも踏ん張るだけのマナは振り分けなければならない。


全神経を集中させ先輩の繰り出した拳を躱しクロスカウンターを叩きこむ。

俺の拳は顔面をとらえそのまま地面に叩きつけた。

・・・・やり過ぎたかもしれない。



「・・・・だ、大丈夫ですか。」



俺は地面に顔面をめり込ませた先輩に少し距離を置いておそるおそる声をかけた。



「ふふ、ふっ。はははは!」

「橘。お前も人が悪いな。こんなに戦えるなら先に言ってくれたら良かったのに。」



起き上がった先輩は笑っているが目が怖いなんてもんじゃない。

やばい。かなりやばい。



「会長!流石に試験はもういいですよね!」



いつの間にか離れてみていた会長に大きな声で呼びかける。

早くあんたの娘を止めてくれ。やばいの分かるだろ。



「じゃあ本気で殺ろうか!」



不味い。不味い。不味い。不味い!さっきまでの比じゃない速度と強さで先輩が突っ込んでくる。

防げないと思いファイアウォールで動きを止めようと思ったら、

横や裏に回るどころか炎の壁に拳を突っ込んでそのまま殴りかかってきた。

これが本気ということなのだろう。

全身にマナを注いだ今の先輩はどこを攻撃しても並みの攻撃ではダメージが与えられないだろう。

ミノタウロスの時のように削ろうにもミノタウロスよりも早く的は小さい。

当然知能も上だから攻撃を続けて当てることが難しい。

それでもファイアアローをばら撒くも攻撃を意に介さず無視して攻撃してくる。

何百回もやった先輩との訓練が無ければ10秒も耐えられなかったかもしれない。

攻撃は諦め、魔法で防御することも諦める。ただひたすら耐える。

それでも今の俺には全部を防ぎきるのは難しく何発も被弾する。

だが今までの訓練は100回以上だが殴られた回数は少なくとも数千。数万の可能性すらある。

殴られ慣れているおかげで受ける直前にその場所にマナを込める。

更に自己ヒールを併用することでなんとか耐えきることができていた。



「はぁっ、はぁ、はぁ、、、、」


「・・・もう・・・・・終わりですか?」



30分は経ったろうか。全力で戦い続けた先輩はマナが枯渇してようやく止まった。

先輩が全身にマナを込めて戦っていたのに対し、俺はピンポイントで防ぎ、回復させていた。

それでも危うく俺の方が先にマナが切れる所だった。

ようやく息を整えた先輩は再び俺に近づいてきた。

何をされるのかと思い身を固くする俺に対し、先輩は突然抱き着いてくる。



「!?」


「お前は最高だな!」

「全力でここまで戦える相手なんて今まで同世代にはいなかったんだぞ!」

「しかも同じ学校だなんて、いつでも戦えるじゃないか!」


「あ、嫌です。」



抱き着かれてちょっと驚いたが素に戻ると引きはがし冷静に伝える。




「何が不満なんだ!二人とも鍛えられる最高の環境じゃないか!」


「二人とも鍛えられるって、、、先輩のストレス発散の最高のサンドバッグじゃないですか・・・・」


「お前だって私を殴ったじゃないか。もっと攻撃することもできたんだろ?」


「いや、隙の大きい攻撃に合わせたからできただけで普通の攻撃は手も足もでませんって、、、、」


「でも橘は夏休み中にBランクまで昇格したってことは、これからももっと強くなるんだろ?」

「だったら次やるときはもっと楽しく戦えるんじゃないか!」



興奮気味に先輩がまくし立てていると、拍手しながら会長が近づいて来た。



「いやぁ見事だった。橘君、試験は文句なしで合格だ。」

「確認だが申請にはヒーラーとあるが本当にヒーラーかね?」


「はい。そもそも前衛、後衛、アタッカー、バッファー、ヒーラーなんて自称ですよね。」


「そうだな。パーティーを組む時の参考に一番得意な分野を自分の役割、ロールタイプとして申告するものだ。」


「本来申請されたもので審査する基準があるんでしょうけど、、、、」

「結果、前衛としてもBランクの実力が認められたのなら問題無いですよね。」


「ああ、昇格には問題無い。だが本当にヒーラーなら、前衛並みの立ち回りができるヒーラーとして高ランクパーティーでもかなり需要がある。」

「私の知る限りBランク以上のヒーラーで君より防御や攻撃に長けている者は一人しかいない。」


「そうですか。まだパーティーとかは考えて無いので。」


「そうか。Cランクまではソロで活動する者もいるがBからはソロでは厳しい。」

「できればパーティーを組んで活動してもらえたら有り難いと思ってる。」

「君のような有望な若者を必要以上の危険に晒したくない。」

「それにヒーラーは貴重で上位ランクでダンジョンに潜らない者が多い。」

「ダンジョン内で回復出来た方が上位ランクの者達のリスクが下がるからな。」


「Aランクの実力になったらパーティーは考えます。」


「そうか・・・・分かった。無理強いはし無いがAランクダンジョンに興味があれば連絡してくれればパーティーを紹介しよう。」

「じゃあ、娘と学校で訓練をする件は頼むぞ」


「わかr、、、絶対お断りします!」

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