第17話 新学期
昇格試験が終わった後も島津親子に絡まれて大変だった・・・
結局、彩先輩との訓練は行うことになった。
正直しんどいが、前世でもあの特訓があったからこそ生き延びられたと思う。
今は順調にあっという間にBランクになったが、魔物から攻撃を受けることはほとんど無かった。。
このままだとAランクの魔物相手に攻撃を受けると命取りになりかねない。
防御面だけじゃなく近接戦闘技能を磨くことは生存能力に直結する。
「お疲れ~。思ったより時間かかったね。どこか寄ったの?」
家に帰ると葉月がTVを見ながら振り返って声をかけてくる。
「寒っ!エアコン何度設定だよ・・・っていうか何でホットチョコなんて飲んでるんだ・・・」
「体が温まって美味しいよ?」
「いや、じゃあこんなに部屋を寒くしなくてもいいだろ。」
「夏に涼しい部屋で飲む温かい飲み物だからこそ美味しいんじゃない。」
「しらんがな・・・」
よく見ると机にはポテトチップスやらクッキーやらお菓子が散乱していた。
「葉月はずっと部屋にいたのか?」
「うん。ずっとTVや配信見てたよ。社会勉強。」
「社会勉強・・・」
たしかに葉月は実際には生まれてまだひと月くらいだ。
知識には偏りがあるからギャップを埋めようと好きにさせてはいたが・・・
「それで、明日から新学期になると俺は学校に行くけど葉月はその間家にいるか?」
「う~ん。学校に一緒には行けないんだよね?」
「小型の使い魔と一緒にいる人は何人かいたと思うけど流石に葉月を連れて行くのは無理だ。」
「だったら家で社会勉強してようかなぁ?」
「自堕落な生活になりそうだな・・・」
「なぁ、この前のBランク魔核使って使い魔作ったらお前が制御できない?」
「それだったら一緒に学校行くこともできると思うけど。」
「分体かぁ・・・たぶん大丈夫かな?」
「スペック的にはできることかなり限られると思うけど。」
「分かった。今度時間があるときにでも作るからそれまでは家にいてくれ。」
「了解。」
9月に入り久々に学校へ登校すると、校舎に入って正面の掲示板に人が集まっていた。
『9月1日より次の者をAクラスに編入する。
Bクラス 里見義弘 Cクラス 橘樹』
学期途中にクラスが変更されることは基本的に無いと思う。
だがたしかに1年の夏の時点でBランク探索者に上がれる者がBやCクラスにいても周囲と能力に差が出てお互いのためにならないだろう。
そもそもほとんどの者がDかCランクで卒業し、Bランクに在学中に上がるのは1学年につき普通は10人もいない。
ましてや1年生でBランクに上がる者など普通は数年に1人くらいなのだ。
そして今回、BクラスとCクラスからBランクに上がった者が出たことは前代未聞であったろう。
(俺は前世の経験や知識があるからともかかく、里見って凄いよな・・・・)
(近接アタッカー系だったと思うけどどうやって短期間で昇格できたんだ?)
一旦職員室へ行き、元々の担当教官に声を掛けると、俺と同様に里見も来ていたようで、すぐにAクラスの教官に紹介される。
「Aランク担当の真壁だ。担当と言ってもAの奴らは自分の専攻の講義を受けることがほとんどでそんなにやり取りはないかもしれないがよろしく頼む。」
「二人が近接格闘術に興味があるなら俺の講義を受けると良い。」
「それにしても何も聞いてなかったんですが当事者には電話でもアプリで通知とかできたんじゃないですか?」
「ああ、、、理事長曰くサプライズだそうだ・・・」
「そ、そうですか・・・・」
「それにしてもCとBクラスからBランクに上がるなんてたいしたもんだ。支援してくれる家やクランがあるわけじゃないだろ?」
「俺はCランクに上がったときにクランに入って、その後クランメンバーとBランクダンジョン攻略しました。」
「ほう。スカウトされたのか?才能を認められ期待されたからクランの投資を受けられたんだろう。」
里見が喋ったので次は俺とばかりに二人の視線が向く。
「俺は所属も無いし親もいないので夏休み中ひたすらダンジョン攻略繰り返しました。」
「攻略繰り返したって、所属も無く野良パーティーでか?手続きなんかもあるから週1くらいしか無理じゃないか?」
「いえ、一人なのでほぼ毎日ダンジョンに行ってました。」
「Dランクくらいまではソロでも行くやつは結構いるがC以上をソロで攻略するのは危険すぎないか?」
「そうですね・・・何度か危ない時はあったので今後は慎重に攻略します。」
「そうか・・・あまり無茶はするなよ。Aクラスだったらパーティー組める者もいるだろうし、探してみると良い。」
「ありがとうございます。」
探索者学校に入る目的は探索者としての基礎を学ぶという面もあるが、
将来のパーティーメンバー探しだったり、コネを繋ぐという意味も大きい。
Aクラスの学生は親がAランク探索者の者がほとんどで、
才能を受け継ぎ、また小さなころから探索者として英才教育を受けている。
また、大きなクランに所属している者も多かった。
下のクラスは自分を売り込むチャンスとして上のクラスの人と同じ講義だったら、
実力をみせてパーティーやクランに所属させてもらうようアピールする。
逆にAクラスは所属クラン同士のしがらみも存在して、
Aクラス同士でパーティーを組む機会は案外少ないのだ。
里見はクランに所属しているようだが俺は無所属で、
どのクランのしがらみが無いと言うのはある意味貴重な存在なのだろう。
「掲示を見たものもいると思うが今学期より2名がAクラスに入ることとなった。」
「里見と橘だ。」
「里見義弘です。所属クランは『ダモクレスの剣』両手剣を使う近接アタッカーです。」
「橘樹と言います。所属は無くヒーラーメインです。」
「何か質問はあるか?」
「この時期にクラスが変わることは普通無いと思いますが理由を教えてもらえますか?」
「二人はBランク探索者だからだ。これでこのクラスには5人のBクラス探索者がいることになった。」
「この時期に5人もBランク探索者が出るなんて前代未聞だ。皆も刺激になって良いだろう。」
「これでいいか梶原。」
単純な好奇心だったのか、見下していた下のクラスの者が入ったことへの反発なのか、
なぜBやCからAに上がったんだと聞いた梶原と呼ばれた男子生徒は黙って頷く。
「橘はヒーラーって言ったけど無所属なのにどうやって昇格したんだ?」
藤堂匠が質問する。俺が知っている人間でかつての親友。俺の主観で久々の再会は感慨深いものがある。
「どやっても何も普通に規定通りダンジョン攻略しただけだけど。」
「医療系ヒーラーと違って、探索者のヒーラーはダンジョン内でも戦うだろ?」
「まぁ戦うこともあるけど普通はヒーラーには護衛が付いててそんなに戦わないんじゃないか?」
「いや、まぁ戦う人もいるかもしれないけどBランクに支援なしでって厳しく無いか?」
やはり無所属でこの速さでの昇格は異例のようだ。
さっきAクラスへの編入理由を聞いていた梶原も俺がBランクに上がれるはずがないと思っているのだ。
匠の方はどうやったんだという好奇心からだろう。
「それに藤堂もソロでBランクになったんだろ?」
「あれ、俺自己紹介したっけ?」
「流石に藤堂や九条、国井とかは誰でも知ってるだろ・・・」
「まぁたしかにソロでダンジョンは攻略したけどとは言っても他の面で色んな支援は受けてるからなぁ。」
「橘はどこにも所属してないって言ったけど、どこからの支援も受けてないってことでいいのか?」
「ああ、別にどこかのクランに内定してるってことも無いぞ。」
「支援無しでこの速さでBランクに上がれるならこのクラスで一番凄いんじゃないか?」
何気ない発言が何人かは気に障ったらしい。反論が上がる。
「藤堂君、このクラスにはいろんな立場の人がいるんだから発言には気を付けてください。」
代表して九条が釘を刺す。
「でも橘以外にBランクに上がった皆は、色んなサポート受けてるだろ?間違ってないとは思うけど・・・」
匠は別に特に何か思って言ったわけでなく、思ったことを口に出しただけだろう。
だが、無名の同級生が1番になることが我慢できない者は多いようだ。
「藤堂、たまたま皆は支援を受けられる立場で俺は受けられなかっただけだ。」
「仮に皆が支援受けてなかったとしてもBランクには間違いなく上がれたはずだ。」
「お前や国井に剣で勝てるとは思わないし、九条に魔法で勝てるとも思わない。」
「お前らそんなに編入した二人の実力が気になるなら演習で確かめたらいいだろ?」
真壁教官が切り出した。
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