第6話 セーフハウス

「俺だけでいい」



途中のゴブリンである程度、今の自分の力は把握できていたが限界も知っておきたかった。

ファイアアローを全力で放つ。



「今は10本が限界か・・・だったら!」



10本の矢を『待機』させ、もう一度ファイアアロー10本を出す。

ゴブリンは魔法を使わせまいと一斉に襲い掛かって来るが十分な距離がある。

20本の魔法の矢は放たれるとすべてのゴブリンに命中し一気に殲滅に成功する。


ゴブリンだから命中させることができたがもっと素早いモンスター相手だとはずしていたかもしれない。

それに一気に20本の矢を放ったことでマナもほとんど使い切ってしまっていた。



「やっぱりまだマナのキャパが少なすぎるな・・・16歳の新人だから仕方ないが・・・」



色々と考えたかったが勿論モンスターは待ってくれるはずはなく、

残ったボスのゴブリンは戦斧を叩きつける。


何の工夫も無い振り下ろしに脅威は感じずあっさりと回避する。

地面を打った反動で戦斧を返し横薙ぎに転じるが、屈んで躱し腕を斬りつける。



「腕を落とすつもりだったけど今の力だと厳しいか・・・」



モンスターには痛みがあるのか分からないが絶叫しながら斬られたことを気にせず斧を振るう。

だがやはり単調な攻撃にあたるはずもなく避ける度に攻撃を入れていく。

足、腕、身体に無数の切り傷が増えていく。

最後に大きく斧が振り下ろされようとする時、一気に間合いを詰めて全力突きを打ち込んだ。

それが止めとなりボスのゴブリンは消滅した。



「やっぱりCランクでもいけるんじゃない?」


「いけると思うけど無理する必要は無いからあと何度かはDにしとくよ。」

「葉月がどれくらい戦えるか見ておきたいんだけどソロで攻略できる?」


「今の樹よりは強いわよ。今度は樹が後ろで見てて。」



ダンジョンコアを破壊しコアの魔石を回収するとダンジョンが消滅し外に出される。

俺達以外に数パーティーが入っていたのか周りには20人くらいの探索者がダンジョンから出ていた。



「まだこのダンジョン発生して数時間だろ?もう誰か攻略したのか?」


「はぁ?この速さで攻略ってBランク以上?マナー違反だろ。」


数人の探索者がダンジョンが早々に攻略されたことに不満を漏らす。

ダンジョンは厳密には入場制限はされていないかったが、

自分のランクと同じか1つ上か下に入るのが一般的でありマナーとなっている。

上位ランクの探索者が下位ダンジョンを攻略していくと下位探索者の成長の妨げと収入源を奪うことになるからだ。



(ランク的には問題無いけどあまりやりすぎるとやばいかもな。)



小声で葉月と話すが葉月は一向に気にしない。



「別に悪い事してるわけじゃないし他人を気にしすぎても仕方ないんじゃない?」

「でもそういうならなお更Cランクに行く?」

「Cランクの人達だったら収入にも余裕があるしいいんじゃない?」


「・・・・そうだな。Cランクに挑戦してみるか。」

「でもCランクに行くなら今日は休んで明日からだな。」



夕食にはまだ早い時間だったので荷物を減らすためにも魔石の換金からすることにした。

探索者協会の換金所に行き今日手に入れた魔石を換金する。



「お待たせしました。合計で298万円になります。チャージでよろしいですか?」


「チャージで。」



探索者用の電子マネー『Dpay』に全額チャージする。世界中の店で対応しており現金が無くてもあまり困らない。



「・・・半日で結構稼げたな。」



一般的なDランクの探索者の収入はそこまで多くない。

ソロだったら1日ゴブリンを10~20程度倒して1~2万程度。

装備品のメンテナンスにお金を使うとあまり余裕があるとは言えなかった。

パーティーを組んでボスやダンジョンコアの魔石を売ると一気に稼げるので、

攻略は競争となるが焦って進むと死んでしまうリスクが高まる。



「これからはもっと稼げるわよ。寮を出ても生活余裕でしょ?」


「上のダンジョンに行くなら装備にも金はかかるけどな。」

「でもまぁ完全一人暮らしの方が気が楽だしな・・・夏休み中に部屋を探すか。」


「二人暮らしでしょ。」


「そうだったな・・・」



ホテルで過ごすことも考えたが、即入居可能なマンスリー物件を一か月借り一時的な拠点とした。

2LDK家具付きの街中駅チカで月40万。結構高い気がするが収入を考えると別に問題無いだろう。

当面の着替えや明日以降のダンジョン攻略用装備をいくつか買って部屋に向かう。



「お~。流石に寮の部屋よりもいいな。」

「とりあえずシャワーでも浴びるか。葉月、先に入るか?」


「一緒に入ってもいいけど?」

「あ、誤解しないでね。私は精霊的?な存在だし?樹から生まれた娘?家族?みたいなもの?だからそういうのじゃないからね。」


「娘や家族でも一緒に入らないだろ・・・・」

「いや、葉月は生まれたての赤ちゃんみたいなものならお風呂に入れてあげた方がいいのか?」



半分冗談で言うが、そう言うと照れたのか顔を少し赤く染め一人でバスルームに入っていく。



「タオルや着替えって俺が準備するのか・・・・?」



難易度の高い宿題が出されていた。



「この場合の正解は何だ?うっかりなのか、何か意図があるのか・・・」

「いや、そもそも着替えという概念はあるのか・・・?」

「今着ていた服は服だったのか・・・・マナで生成した魔装だった可能性も・・・」

「そういえば服を買うとき別々だったから何買ったかわからないぞ・・・」

「袋漁って下着物色したみたいに変に思われないか?」



こんな時に思考加速があれば便利だなと思いながら考えていたら結構時間が経っていたようだ。



「何してんの?」



後ろから葉月に声をかけられビクツっと反応し恐る恐る首を後ろに回す。




「あ、ああ、い、いや、別に何でも無い。早かったな。服はやっぱりマナで生成してたのか。」



そこには服を着た葉月が立っていた。

魔法はマナを変換して炎や氷を出している。魔法の剣を作る事も可能だから、

当然服を作る事も可能ではある。

上位の探索者には武器や防具はマナによって自身で具現化したものを使用する者もいる。

ただし常時発動しているとマナを消費し続けるためマナのキャパが大きくないと維持するのは難しい。



「もしかして裸で出てくると思った?」



葉月は悪戯な顔でそう呟き俺の顔を覗き込んでくる。



「その可能性も考えた。」

「裸パターンに呼ばれるパターン、同じ服を着ているパターン、マナの服パターン、、、、」

「で、裸の時も誘惑パターンに無頓着パターン・・・」


「はいはい。流石は無限の妄想しちゃう人ですね。」

「ってことは私の裸も妄想しちゃったんだ。エッチ。」


「・・・・・・」



実際に考えていないと言えば噓になるがめっちゃいじられるな・・・



「そもそも葉月のこと何も知らないんだよな・・・」

「何も知らない人が見たら人間と区別つかないと思う。」

「これから一緒に暮らすなら色々知っておきたいんだけど、例えば食事とかは?」


「食事はできるし、食べ物にも僅かだけどマナがあるから吸収もできるわよ。」



そう言うと葉月は出していたペットボトルからお茶を飲んでみせる。



「でも食べなくても問題無いかな。大気中からマナを吸収してるしコアからも生成してるしね。」

「だけど味も感じるし樹や樹の記憶にある人たちから私のベースってできてるからできれば食べたいかな?」


「そうか。食べてくれた方が俺もなんか安心するし、ひとまず何か頼むか。」



ピザとサイドメニューを注文し話しを続ける。



「それと、葉月の人格って言うかパーソナリティの由来は分かったんだけど。」

「俺の記憶とか、俺以外の人の記憶というかそういったものも分かるのか?」


「記憶というか心の中のことは分からないかな。」

「樹の記憶から基本的な言葉や常識とか社会の仕組みとかたぶんほとんどのことは分かってると思う。」

「それに加えて樹が認識していない情報も『未来の常識』として一部を識っているんだと思う。」

「私も樹のこと知ってるつもりになっているだけで、今の樹のこと全部わかるわけじゃないの。」

「無限の分岐世界から無作為に情報が入ってるみたいなものかな。」

「違う分岐世界のことだったら役に立たないどころか間違った情報になっちゃうからあまり聞かない方がいいと思う。」


「まぁ常識が通用するのは有り難い。」

「強さはCランクボスくらいって言ってたけど?」


「そうね。樹が戦うの見てたけど今は私の方が強いわよ。」

「樹の分岐した記憶から、例えば剣槍斧から攻撃魔法、回復魔法、色々な経験値が引き継がれてるから。」

「う~ん。ほとんどの技能がB~Aランクかな。」

「マナのキャパはバックアップに使ってるから人間のCランク上位相当くらい。」


「何でも手を出すと器用貧乏になりがちだけど万能と言えるだろうな・・・」


「他人事みたいに言ってるけど樹もほとんど同じことが出来ると思うよ?」


「どういうことだ?」


「私と樹は精霊や召喚獣みたいにパスが繋がってるの。」

「しかも、そもそもこれって樹の記憶みたいなものでしょ。」

「樹が到達したかもしれない可能性の経験なんだから樹にも共有されてるよ。」



今日のダンジョン攻略は俺の知っている記憶での戦い方を試しただけだったが、

もしも他の能力もBランク以上使えるようであれば前代未聞とも呼べる万能探索者に慣れるのではないか。



「確認だけど死んだときの樹のスタイルは何?剣と火魔法?」


「いや、、、まぁ、パーティー組んでた時は前衛ヒーラーだな・・・・」

「その後、ソロで戦うために色々試して器用貧乏な感じに・・・」



今思うと色々選択を間違えている気がしないでもない。

パーティーで活動していた時は縁があって国内最高レベルの仲間と一緒に活動できていた。

前衛物理3魔法1最初は回復役がいなかったので自分がなったのだ。

本来回復は後衛だが脳筋前衛たちは攻撃特化だった。

前衛の場所で回復させるしか無かった。

実際Aランクダンジョンで前衛に立てるヒーラーなんてそうそういなかった。

だが結局前衛より自分がダメージを負うことが多くて自分を回復する回数の方が多かった気がする・・・

その後ヒーラーが加入するが、回復能力もさることながら前衛で通用する攻撃力も持っていた化け物だった。

その後は後ろで邪魔にならないように弓とか魔法を使い始めたんだった・・・

結局荷物持ちとか雑用みたいになったんだがなんか迷走しすぎだな・・・



「お~い。どうした?聞こえてる?」


「あ、ああ、いや色々人生を振り返ってたんだよ・・・」


「ふ~ん。明日はCランク行くんでしょ?樹は今後どんなスタイルで行くの?」


「そうだな・・・色々やってたなかから何を伸ばすかか・・・」

「前世の経験があればこれから剣中心でも魔法中心でもトップクラスになれる。」

「でも折角だから全部やってみようと思う。」

「化け物みたいなやつらを見てきてずっと凄いって憧れがあった。」

「俺も誰かに凄いって思われるよう全部極めてみるよ。」

「誰かに卑屈になるなって言われたしな。」


「ふ~ん。いいんじゃない。勿論応援するわ。」



自分は死んだ。死ぬ直前満足して人生を終えたと思っていた。

だがまた新しい可能性があると知ると挑戦する気持ちが湧いてきた。

自分でも現金なものだと思う。いや、今の16歳の肉体や脳に精神がひっぱられたのか?

それは分からなかったが少なくとも今俺はワクワクしている。

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