第20話 再戦拒否
「え、疲れてるんで嫌です。」
「いや、疲れてるって初級魔法何回か使っただけだじゃないか?」
「いやいやいや、昨日の疲れですよ・・・・」
「姐さんに昨日ボコボコにされたじゃないですか・・・」
「昨日の今日で戦うって何考えてるんですか?」
「いや、だって一緒に鍛錬するって言ったじゃないか・・・」
「言いましたけど、それがいつとは言ってませんよね。年に1回、いや10年に1回だとしても嘘では無いです。」
「屁理屈を言うな!昨日あれだけ楽しませておいてそれはないだろ。いやだいやだ私も戦うんだ!」
「駄々っ子ですか・・・藤堂や九条がまだ戦ってないから二人はどうですか?」
勝手に話を振ったら二人は露骨に嫌そうな顔をして首を横に振る。
「あいつらはたしかに強いぞ。だが戦っても面白くないんだ。」
「だって距離をとってひたすら遠距離から撃ってくるだけなんだぞ?」
「同世代でお前みたいに素手で殴り合えるような奴はいないんだよ~」
「ええ、、、だったらダンジョンでミノタウロスあたりと殴り合っててくださいよ・・・」
「ダンジョンに行こうとしたら親父が色々煩いんだよ。一人で行くなパーティー組めとか。」
「まぁそれはそうでしょうね・・・・」
才能のある人間でもちょっとしたアクシデントで命を落としかねない。
それがソロだと危険性は増す。バランスの良いパーティーで不確定要素をできるだけ減らすのは当然だろう。
特に大きなクラン所属の将来を期待されている若手だとそうだろう。
そういう意味ではここにいるBランクの皆も完全自由にダンジョン攻略はできていないと思う。
「それに、私と戦うのは樹のためだけじゃないぞ?」
「ん、俺のためだけじゃない?どういうことです?」
「さっきなんか語ってただろ?他人の成長を促そうとするなんてやるじゃないか。」
「探索者なんて自分が強くなることしか考えない人間も多いからな。」
「クランとかパーティーメンバーとかでもないのに普通そんなことはしないぞ。」
「私たちの戦いを見せたら皆の良い刺激になるんじゃないか?」
「・・・・・」
俺はある意味『ずる』で今の強さを手に入れている。
そのうしろめたさか、あるいは年長者として諭したのか、柄にもないことをやってしまった。
「いやいや、危うく説得されるところでしたよ。」
「よく考えてみたら先輩の戦闘スタイルなんて国内に10人もいないでしょ?」
「たぶん何をしてるのかもよくわからないと思いますよ。」
「なのでたいして参考にならないんじゃないですか?」
「ん?体力や耐久力は大事だって分かるだろ?」
「あ、はい。じゃなくて誰でもそれは知ってるんですって・・・」
「だから生身を鍛えようって人がいないだけど剣術や防御魔法で工夫するんですよ・・・」
「でも身体が強いにこしたことは無いだろ?」
「それはそうなんですけど、向き不向きの問題でほとんどの人が姐さんのやり方じゃない方が強くなれるんですって。」
「あ、姐さんは他の方法なんて考えないで今のままでいいと思いますよ。」
「じゃあ今度一緒にダンジョン攻略に行きませんか?」
「ヒーラーの俺が一緒なら理事長も文句言わないでしょ?」
「親父も樹の実力見てるから反対しないかもしれないな・・・」
「そうか。その手があったか!これからは好きな時にダンジョンに行けるんだな?」
満面の笑みで納得しているが俺の都合も考えて欲しい。
「いや、俺も予定があるんでいつでもは行けませんけど・・・」
「まずは親父に話しをつけておくか。」
「じゃあ週末行くから準備しておけよ!」
そう言うとあっという間にどこかへ行ってしまう。
「ふぅ。なんとか帰ってくれたな。」
「・・・・今は授業中で俺もずっといたんだがな、、、、」
教官が空気になっていた。
「まぁいい。皆編入した二人の実力はわかったか?」
「明日からはこのメンバーで講義を行っていく。」
「今日は新学期初日だからここまでだ。各自解散。」
新学期初日から濃い1日だったな。トップクラスの才能の連中と学べるのは有り難い。
特に匠と九条、国井ともう一度学べるのは嬉しい。
そうだ、匠の呼び方だがまだ初対面だから藤堂と呼ばないといけない・・・
ずっと匠と呼んでるから違和感あるな・・・
「なぁ橘。島津先輩の言ってたことって本当なのか?」
「何がだ?藤堂。」
「昨日殴り合ったってやつ。」
「それになんどか呼び方とかもかなり親しげだったけど昔からの知り合い?」
「いや、昨日始めて会ったよ。」
「Bランク昇格試験とか言っていきなり襲われたんだよ・・・」
「それで俺がボコボコにされただけだよ。」
「でも先輩も殴られたって言ってなかったか?」
「一発だけな。でも笑いながら殴り返されたぞ?」
「先輩がマナ切れするまでひたすらだぞ?正直頭がおかしいと俺は思ってる。」
「耐えられるお前もおかしいぞ?」
「なんかそれで気に入られて定期的に殴り合いたいなんて言われて困ってるんだよ・・・」
「ああ、あの先輩学校じゃ全力出せる相手いないからな・・・」
「俺や国井も入学早々相手させられた・・・」
「お前たちだったら全力でやったらなんとかなるんじゃないか?」
「まぁ完全装備なら勝負になるかもしれないけど、学校にダンジョン用の一番良い武器持ってくるか?」
「二人とも武器をへし折られてやられたよ。」
「ところで、昨日会った先輩も樹って呼んでたし、俺も樹って呼んでもいいか?」
「じゃあ俺も匠って呼ぶことにするよ。よろしくな匠。」
「今度俺とも一緒にダンジョン行かないか?樹となら一緒に行っても問題無いと思う。」
「俺とならって、他の人だと問題あるのか?」
「このクラスって皆大手のクランに所属してるから誘いづらいんだよ。」
「かといって自分のクランの人と一緒に行くのも気を使われてな・・・・」
「・・・・橘さんとならダンジョンに行く許可が下りるんでしょうか、、、」
これには今まで話に入っていなかった国井も興味を示す。
「島津先輩もだけど、九条さんや国井さんとこも同じような感じでしょ?」
「安全のためっていうのも分かるんだけど過保護すぎるんだよね。」
「そうですね。ちょっと囲まれたくらいで援護に入ったりされたら修行になりません。」
「そうね。私の場合は他に人が大勢いたら魔法に巻き込みそうだから嫌なんだけど護衛が付いてくるのよね。」
「な?ある程度の実力があってフリーの樹って結構貴重だと思うんだよね。」
「本当の実力はまだ測りかねますが先ほどの動きだけでも十分です。それに回復ができるんでしょう?」
「私は魔法の実力が気になるわね。基礎魔法の制御は見事だけど他の魔法も見せてもらいたいわね。」
「皆に評価してもらえるのは嬉しい。俺は逆にソロだとBランク攻略するのギリギリなんだよ。」
「もし皆と組める機会があれば有難いな。」
実は前世ではもう少し先になるがやはりフリーの探索者という事で遙に格上だったこいつらとパーティーが組めたのだ。
もっとも、当初それは2年生以上の学校カリキュラムであるパーティー連携演習で、
A、Bクラスの生徒はどこかしらのクランの影響があったので、Cクラスの俺まで回ってきたのだ。
その時は何の期待もされずただ数合わせのための二人パーティーで実質俺は空気のようなものだった。
だがそこで匠が色々世話を焼いてくれ俺も成長できた。その後、他の仲間たちとも組んでダンジョンに潜ることになる。
感慨に耽っているともう一人のBランク、里見が声を掛けてきた。
「橘・・・お前何者だ?おまえも俺と同じなのか・・・?」
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