第5話

かい、注射」

「はい」

 小切れよい返事が聞こえ、手に注射が乗せられる。

「ちょっとチクッとしますねー」

 言葉と同時に、血管に針を刺す。

「っ……!」

 みきちゃんは顔を歪ませた後、また無表情に戻った。



「特に異常はありませんね」

 血液検査の結果、特に異常は見つからなかった。

「…そうね」

 私たちには何の感情も示さない彼女だが、家族との面会の時だけは表情を動かすことができている。


 ___「本来なら、感情は全く無くなってしまうんですよね?」

「はい」

「それなのに、少しでも反応してくれるのなら嬉しいです」

「そうですね。……このような事例は全くないので、決定的なことは言えないのですが、最善を尽くしたいと思っています。そこで、治療の参考にしたいので笑幸しょうこう伝染病の症状が見られる前の様子を教えて頂けないでしょうか?」

「はい。……みきは三人兄弟の真ん中でして、上の兄は高校受験に向けて切羽せっぱ詰まっていました。下の弟は小学校で少しトラブルがありまして、バタバタしていたんです。私と旦那は共働きで、元々忙しかった上に度々兄弟のことが重なってみきの話を聴いてあげられる時間がなくって。……そんな矢先にっ」___


 両手で顔を覆う姿が蘇る。

「…みきちゃんには、まだ愛されたいと思う感情が残っていたのかもしれない」

「え?」

 私の呟きが聞こえなかったのか、かいが眉間にしわを寄せた。

かい笑幸しょうこう伝染病患者は皆、家族からの愛を感じられなくなって最終的に『愛されたい』という感情すら失ってしまう」

「そう、ですけど…?」

みきちゃんの治療法がわかったかもしれない!!」

「え、えええ?!」

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