第13話

留花るかちゃん、退院おめでとう」

「おめでとう!」

 私の背後から軽くジャンプをするように前に出たかいも、同じ言葉を繰り返す。

「ありがとう!顔も良くなったし、留花嬉しい!!」

 その無邪気な笑顔に泣きそうになる。

「本当にありがとうございました」

 留花るかちゃんのお母さんが、深々と頭を下げる。

「いえいえ。これから大変なことも多いかと思いますので、いつでもお越し下さい」

 お母さんは目を潤ませ、もう一度頭を下げた。

 病名がわかった後はスムーズで、処方された薬により留花ちゃんの顔は順調に回復していった。病院生活が彼女のストレスになってしまう可能性を考えた私は、こうして退院の日を迎えたのだった。

 ___「夫は、留花が幼稚園に通っていた頃、他界したんです」

 脱いだコートを握り締めながら、留花ちゃんのお母さんはポツポツと言葉を述べた。

「葬儀を終えて、実家に帰ることも考えたんです。……けど、夫と過ごしたこの地から離れたくなくて」

 目に涙が浮かぶ。

「幸い、実家は近いのでよく留花るかを預けていました。大分楽にはなりましたが、その結果 留花るかと一緒に居られる時間が減っていって……」___

 恋人すらいない私には、母子家庭の大変さを理解することは出来ない。けれど、これからの負担は大きいだろう。

 二人の未来が幸せなものであることを、淡く光を放つ夕日に願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る