第12話

「その病名は」

医名いなさん!!」

 さえぎられた声に顔を上げると、息を荒げた解がいた。

「ここにいたんですかっ、ずっと探してたんですよ!」

 資料探しに熱中し過ぎて、扉が開く音すら気づかなかったのか。

「ご、ごめん」

 かい気圧けおされながら謝る。

「それで、資料室にいるってことは見つかったんですか?」

「そうなの!見つけたから、留花るかちゃんのお母さんに連絡して!!」

 我に返った私に指示を下された解は、一度目を見開いた後大きく頷いた。




留花るかちゃんの病名は、でした」

「ストレス、記憶喪失きおくそうしつ?」

「はい」

 留花るかちゃんのお母さんを前にし、私は説明を始める。

「これは、その名の通りストレスを感じると記憶を失ってしまう病気です。顔の症状が見られ始める前、何か忘れっぽいなと思ったことなどはありませんか?」

「…言われてみれば、ありました。毎日のように学校に忘れ物をする日が続いて、自分が忙しいこともあって苛立いらだってしまって。つい怒鳴ってしまったんです。……そしたら、その次の日にっ」

 目に涙を浮かべる彼女を見つめながら、また口を開く。

「最近は検査続きで、留花るかちゃんにとってストレスになっていました。それにより、私たちのことを覚えていませんでした」

「そんなっ、私には変わらずいつも通りでしたよ?」

「これは、ストレス記憶喪失の軽症なんです。最近起きた出来事や、会った人を忘れてしまう。留花るかちゃんにかかるストレスが大きければ大きいほど、より多くの記憶を失っていきます」

「そん、な……」

笑幸しょうこう伝染病ウイルスは、感染者の心をむしばんでいきます。しかしまれに、脳に転移してしまうことがあります。その時、『海馬かいば』にウイルスが入ってしまいます」

「かい、ば?」

「短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる、中期記憶を担う器官のことです。要するに、記憶を仕分ける司令塔なんです。」

「だから、記憶が……?」

「はい」

 力無く項垂うなだれる彼女の肩に手を添える。

「なのでこれからは、留花るかちゃんのストレスを出来るだけ最小限にし、留花るかちゃんとの時間を大切にして下さい」

 彼女の頬に涙が伝う。

「……はい」

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