第4話

「お待たせしてしまい、すみません」

 椅子に腰を下ろし、目の前の患者と向き合う。

「あの、娘がずっと笑ったまま何もしゃべらないんですっ……。」

 患者の母が口を開き、それを三人が見守っている。四人の家族皆が目に涙を溜めている。

 笑幸しょうこう伝染病のことは、メディアに出ていない。国民の混乱を防ぐ為と、まだ情報が不明瞭ふめいりょうであることからだ。

 しかしそれにより、感染者の家族は何もわからずにどうするべきか悩み続ける。この家族も、相当悩んだのだろう。

「娘さんは、笑幸しょうこう伝染病にかかっています。」

 現実は、想像を絶する程に残酷だ。

笑幸しょうこう、伝染病……」

 患者の『みき』ちゃんは九歳で、三人兄妹の真ん中だった。兄と見られる子が握りしめた拳を震わせ、弟だろう幼い子がみきちゃんの腕を揺さぶる。

「それでは、検査があるので___」

「……え?」

 かいが動きを止め、私は呆気あっけにとられた。

 みきちゃんが、一筋の涙を流した。

みき!!」

 家族がみきちゃんを取り囲む。

 有り得ない。こんなこと、あるはずがないのにどうして。……感情は、もう全く無いはずなのに。

「み、みんな…」

「姉ちゃん!!」

 しゃべった…?嘘だ、そんなことは……。

「あの、これは一体?」

 みきちゃんの母が不安気な顔でこちらを見る。

「私にもわかりません。これは、前代未聞です。娘さんの体を調べさせて頂けますか?」

「はい…」

 そうして、『渡邊わたなべ みき』ちゃんの身体検査が始まった。

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