時をもどせるのなら
桜 師恩
第1話
歩みを進める度に、
「寒くなってきたな…」
一向に終わる気配を示さなかった夏が
顔を上げて、見慣れた建物を見上げる。
ここは『
「
「おはよう」
白衣を
『
「次の方、どうぞ」
と、ドアの向こうに声を掛ける。
入って来たのは13歳の男の子と、その母親だった。
「あの、最近この子の様子がおかしくて…」
椅子に座るや
私は彼と向き合い、息を飲んだ。
「あの、いつからでしょうか?」
「たしか、2日前からです」
それを聞いて、少し
「息子さんは、ある伝染病にかかっています。」
「伝、染病…?」
「はい。今息子さんがなっているのは、『
「しょうこう、伝染病?」
「笑うと幸せと書いて
私は彼を見た。恐ろしい程に、満面の笑みでこちらを見ている。目が合っているようで、どこを見ているのかわからない
「この伝染病になると、感情がなくなってしまいます。ただ、笑うことしかできなくなってしまう。」
「そ、そんな……」
彼の母は膝の上に置いた手を強く握りしめ、目を泳がせた。
「で、でも、命に別状は無いんですよね?」
「……いえ」
この伝染病には、特に厄介なことがある。これを告げるのは、最も
「息子さんの余命は、1週間です。」
彼の母は一瞬にして青ざめ、小刻みに震え出した。
「ごめん、ごめんね……もっと、もっとあなたと一緒にいられる時間を大切にするべきだった。……ごめんねぇ」
と、泣きながら彼を抱きしめていた。
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