第2話

「では、あちらへ」

 看護士が患者をドアの外へ誘導する。


 突如発生したウイルスによって広まった『笑幸しょうこう伝染病』。

 現段階でわかっていること。

 このウイルスは、突然何らかの理由で家族からの愛を感じられなくなり、寂しいと思う人の心に入り込む。精神が成長しきれていない20歳未満の未成年者に特に入り込みやすい。そして段々と心をむしばんでいき、感情を伝えられなくなってしまう。ついに笑うことしか出来なくなってしまった時、もう感染者には生命力が残っていない。もう、「愛されたい」という気持ちすらなくなり、すべてを諦めてしまう。

 そうして、死に至る。


 患者の家族は、今後の選択肢をいられる。残りの少ない時間を一緒に過ごしたいと希望する人には、伝染うつらないよう注射を打つ。身内の感染にショックを受け、さらに感染が広がらない為の対策で、感染予防の薬も処方する。研究途中である為、副作用は保証できないし、費用もそれなりにかかってしまう。

 残りの時間をどう共にするかは、親族の判断にゆだねられる。


 私は地面を強くり、椅子のキャスターを利用して窓辺まで移動した。

 鍵を開けて、窓を開く。冷たい風が頬をでる。吸い込んだ空気が、すっと喉の奥に入った。

 一体いつまで、この患者を見ることになるのだろうか。

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