第16話

「着いてきてください」___


「あぶないっ」

「あ、すみません…」

 度々倒れそうになるおじさんを支えながら、私は言われる通りに歩いていた。

「こ、ここです」

 そう言われ、顔を上げた先には__

「病院?」

『高野病院』と書かれた小さな建物があった。

「さあ、早く入りましょう」

「は、はい」

 なんだ、病院に行こうとしていたのかと安堵する反面、なら救急車を呼んでもよかったのではという疑問が……。

 ガラガラ ガラガラ

 引き戸をゆっくりと開け、おぼつかない足取りでおじさんが入っていく。釣られて中を覗くが、誰もいない。

「あの、人いませんけど、ここの病院によく来るんですか?」

「い、いえ…ここは、病院なんです。」

「ええっ?!」

「病室はこっちです」

「ちょ、ちょっと…!」

 戸惑う私を他所よそに、おじさんは病室のベッドで腰を下ろした。

「いたた」

 するとおじさんは突然、右足のすねの辺りを手で抑えた。

「っ……!!」

 ズボンに血が染みている。

「すぐに手当をしますね!」

 私は、病室で目に入った脱脂綿だっしめん、ピンセット、バンドエイドを素早く手に取った。

みるので、ちょっと我慢してくださいね」

 ピンセットで掴んだ脱脂綿を傷口に優しく当て、バンドエイドを貼る。

「勝手に使っちゃったけど、大丈夫かな……」

 途端不安になりぶつぶつと呟く。

「あ、あの」

 手際の良い動作を驚いた目で見つめていたおじさんが、恐る恐る口を開いた。

「はい?」

「あなたは一体…」

「私は医者です」

 おじさんの目が大きく見開かれる。

「あ、と言っても、実はつい先程クビになりまして……」

 取り乱す私を、興味深そうに見つめている。

「あの、それはこっちの台詞です。あなたは、誰ですか?」

 おじさんは、一つ息を吐いた後、こう呟いた。

「私は、この病院のです」

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