第15話

 翌日。

「解雇だ」

 院長室で告げられた宣告は、あまりに端的で簡単に私を切り裂いた。

「……はい」

 握り締めた拳が弱々しく震える。わかっていたことじゃないか。もう、仕方のないことだ。

 ゆっくりと首の後ろに手を回し、無理矢理名札を外す。わせた手で見え隠れする『花画はなが 医名いな』という文字を、ただ虚しく見つめた。



 荷物は既に片付いている。

 かいには……言えない。だって、顔を合わせたら、きっと涙を堪えることができない。

 誰も居ない診察室。見慣れた景色に込み上げてくるものをなんとか飲み込んだ。歩を進め、窓際へ行く。

 みきちゃんのクローズアップトレーニングは、留花るかちゃんとお母さんは、ああどうしよう。私の担当看護師であるかいには、大変なことが沢山降り掛かってしまうだろう。

「……ごめん、かい




 スーツケースの持ち手を掴みながら、電車の振動にのって体が揺れる。

 これからどうしたらいいのだろうか。お世話になった病院から離れ、職を失い、大切な友人と別れて___

「〜〜駅」

「えっ」

 聞き慣れない駅名に、驚いて顔を上げる。気づいたら、降りるはずの駅を通り過ぎてしまっていた。

「やば」

 慌てて立ち上がり、急いで電車を降りる。

 どうしよう。早く戻ろう。……戻るって?家へ?こんな時間に、一人で?

 どうしようもなく苦しくなって、おぼつかない足取りでなんとか改札を出た。


 トボトボと歩き、キャスターの音だけが響く。


 バタッ


 背後で誰かが倒れた音がして振り返る。

「っ___!!大丈夫ですか?」

 すぐさま駆け寄り、肩を叩く。眼鏡をかけたおじさんが倒れていた。

「お名前言えますか?」

 眉毛が動き、反応があることは確認できたが返答は無い。

「ん?」

 傍に転がる鞄から、見慣れた物がはみ出している。嫌な予感がして勢いよくそれを取り出す。

「これは___」

 そこには、病院で処方された薬が入っていた。職業柄、それらの薬がどんな病を示すのか一瞬でわかってしまう。そこには『高野 てつお』という文字が記載されていた。

「うっ…」

 うめき声が聞こえ、すぐにまた

「大丈夫ですか?聞こえますか?」

 と、声を掛ける。自分のスマホを取り出し、救急車を呼ぼうとすると__

「え」

 おじさんに腕を掴まれた。

「だ、大丈夫ですから」

「でもっ」

「…着いてきてください」

「……え?」

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