第6話

 みきちゃんの両親を前に、私はお腹に力を込めた。

笑幸しょうこう伝染病の末期の症状は、『愛されたい』という感情が無くなってしまうことなんです。」

 先日、かいと話した内容を脳内で再生する。

「家族からの愛を感じられなくなり、ついに愛されたいとすら思わなくなってしまう。そうして笑うことしか出来なくなり、最終的に余命1週間の宣告を受けます。」

 みきちゃんの両親が固唾かたずを呑んで私の話を聴いている。

「そこから考えられることが一つ、見つかりました。それは、みきちゃんにまだ愛されたいという感情が残っていたということです」

「えっ、本当ですか!」

「はい。でなければ、この様なことは考えられません。そこで私が提案したいのが、こちらの治療法です」

 私のアイコンタクトを受け、かいが資料を手に取り

「こちらをご覧下さい」

 と、テーブルの上に置いた。それは、かいと考案した治療法の詳細が書かれたものだ。

「クローズアップトレーニングです」


 ___「もっともっと愛されたいって思えばいいんだよ」

「…と、言いますと?」

「家族からの愛を再び感じることが出来れば、感情が戻るかもしれない!!」

 するとかいは、つぶらな瞳を大きく開き輝かせた。

「……『クローズアップトレーニング』って、どう?」

「なんですか、そのかっこいい名前」

「クローズアップには『寄り添う』っていう意味があるの」

「寄り添う、訓練…ですか?」

「うん。どうかな?」

「いいと思います!その名前で、治療法説明 けん企画書を作りましょうよ!!」

「いいわね、早速取り掛かりましょう!」___


 この資料を作る経緯いきさつを思い出し、テーブルの上の説明用の用紙に目を向けた。文字だけがつづられる企画書とは違い、わかりやすいようイラストや文字色で工夫がほどこされている。かいが作ってくれるものはいつも理解がしやすく、頭にすんなり入ってくる。

「このように、家族全体が寄り添う意識を強く持って頂き、家族との時間をより多く取るというのがよりよい治療法なのではないかと考えました。」

「具体的には、家族全員で食事をとる、テレビを見る、ゲームをする等です」

 横からかいの補足説明が入る。

 二人は神妙な面持おももちで、資料に目を通している。

「当たり前のことが、気付いたら出来なくなってしまっていることはよくあります。それをまた家族の中で当たり前にして頂く、というのがこちらの治療法です。いかが、ですか?」

 目線を落としたままの二人を真剣に見つめる。

「やろう」

 奥さんの言葉に続き、

「ああ、やろう」

 と旦那さんが頷いた。

「どうなるかはわからないけど、私たちにやれることがあるのなら、やらせて下さい」

 決意に満ちた目が私に向く。

「はい!!」

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