第19話

 私は、連日の疲れに追われていた。

「痛っ!」

 まただ。私は頭痛薬を喉に流し込んだ。

 ふらふらと、重力のままにベッドに倒れ込む。医名いなさんが居なくなって、数日が経った。医名いなさんの代わりに、私には様々な対応が任せられた。

 __「花画はながさんは解雇されましたよ」__

 当然のように告げられた言葉に、足がすくんだ。視界がぼやけて、同じ台詞が脳内でこだまして、頭の中が白くなるってこういうことなんだって思った。

 その後のことは覚えていない。軽い目眩めまいに地面にへたりこんでしまい、遠くからかすかに聞こえる「大丈夫っ!?」という声が朧気おぼろげに響いていた。

医名いなさん……」

 弱々しく漏れた声が耳の中をすり抜けてどこかへ行く。

 目に涙が浮かんだ。

 どうして。どうして、医名いなさんは私に何も言わずに行ってしまったのだろう。私の頭の中にはずっと、その疑問が浮かび続けている。

 __「変な治療法で患者に期待持たせて、危うく訴えられてたんじゃないかって」「ええ、そんなのクビになって当然だわ」__

 やめて。私と医名いなさんが一生懸命作ったものを、そんな風に言わないで。

 __「君も大変だっただろう?あんな生意気な医者、女のくせに」__

 うるさい。お前に医名さんの何がわかる。

「〜〜!〜〜っ!!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!黙れえ!!!!」

かい!!」

「はっ__」

かい、どうしたの?何があったの」

「お母、さん………私、私っ」

 母の胸の中で、やっと、呼吸ができた気がした。

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時をもどせるのなら 桜 師恩 @chikawalove

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