れんげのはな

ある知人女性の話。


彼女が小学5年生の頃だった。


彼女は個人経営の自宅兼学習塾に通っていた。


塾が終わると午後九時ほどで、母親が迎えに来ていた。


辺りは閑静な住宅街で、夜になると人通りもほぼない。


そんな中、塾生たちは皆帰り、自分の母親と塾の先生が戸外で立ち話をしていた。


夜も遅いので母親と塾の先生の他だれもいない。


彼女が大人たちの立ち話に退屈していた時だった。


突然子どもの声で、わらべ歌が聞こえてきた。


「ひらいた ひらいた なんのはながひらいた


れんげのはなが ひらいた


ひらいたとおもったら いつのまにか つぼんだ」


どこから聞こえたか分からなかった。


子どもの声で、はっきりと聞こえた。

彼女はあたりを見回すが、歌う通行人はいない。


真冬だったので、窓を開けている家すらない。


母と先生は相変わらず話を続けている。


彼女は二人に「今の聞こえた?」と聞いた。


二人はきょとんとして「え?何が」と聞き返してきたらしい。


歌は彼女にしか聞こえなかったのだった。



この童謡の「れんげのはな」とは、いわゆる野草の「げんげ」ではなくハスの花を意味する。


歌が聞こえた場所一帯は、もともとハス畑であったそうだ。


ハス畑を懐かしんだ「何か」が歌を歌ったのかもしれない。


郷愁や楽しさからだろうか、子どもである彼女を遊びに誘ったのだろうか。


それとも、極楽浄土の象徴であるハスの花を…


「れんげのはなが ひらいた


ひらいたとおもったら いつのまにか つぼんだ」


と歌い…、不穏な意図やメッセージがあったのだろうか。




今となっては分からずじまいである。





【おわり】

情報提供者  30歳代女性 会社員

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