特撮マニアと少年
Kさんは40歳代独身男の特撮マニアだった。
中古ホビー店をのぞくのが楽しみで、ネットに出回っている品より安い特撮グッズを見つけるのが好きだった。
ある日、Kさんは平成初期のあるヒーローの変身ベルトを見つけた。
状態もよく、ネット通販やフリマアプリ、オークションなどよりはるかに安かったので直ぐに購入した。
Kさんは有頂天で帰宅し、あまりにうれしかったのでベルトを巻いて眠った。
すると妙な夢を見た。
やや時代遅れの、古びたTシャツと太ももまでしかないデニムの短パンをはいた少年が「おじちゃん、それぼくのだ。返してよ」と詰め寄ってくるのだ。
Kさんはもう自分が買ったと言い張ったが、少年は聞いてくれない。
Kさんは少年に街中を追い回された。
Kさんは疲れ果てた。
悪い夢だ。こんな夢を毎日見てはかなわない。
あまりにいい品を手に入れたので、自分の中の抜け駆けというか、罪悪感がこんな夢を見せたのだろうと思った。
だが、Kさんは毎晩この夢を見た。
「おじちゃんが返してくれるまで、いつまでも追いかけるよ」
少年はそう言った。
疲労と不気味さに困ったKさんは、中古ショップに問い合わせた。
売った人に返そうと思ったのだ。
だが、特定はできなかった。
ショップの店員はこう言った。
「それは大量に廃棄品として持ち込まれたものなんです。空き家から出てきたものとか、破産したおもちゃ店とか、メーカーの売れ残りとか…そういったものをごっちゃに仕入れるものなのです。ですので、元持主さんはわかりかねます」
少年の謎が特定できず、行き詰ったKさんは夢で少年に話しかけた。
少年は幼く住所すら答えられなかった。
「ぼく、自分の家がどこかわかんない。ベルトが大事だから、ベルトと一緒にいたんだ。」
Kさんは言った。
「お父さんやお母さんはいないの?」
「ぼく、死んでるんだ。とっくの昔に。父さんたちはお墓にいるけど、お墓はどこかわかんない。僕はベルトについてきた」
と少年。
Kさんは驚愕した。
どうしようもないのでこう提案した。
「それじゃあ、おじさんもどこに返せばいいかわからない。ベルトは君のものだし、おじさんの家にあるおもちゃで遊んでもいい。だから、おじさんを夢で追いかけるのはやめてくれないか」
少年は屈託のない顔でうなづいたという。
それ以来、少年は夢でKさんを追い回すことはなくなった。
その代わり、ひとりでにおもちゃが動いたり、特撮DVDが再生されたりするようになったらしい。
Kさんはベルトを手放すことも考えたが、手放したところで同じように手にした特撮マニアを悩ませるだけだと思い、今も所持している。
「なんだか、少年がかわいそうでね。また売りはらって転々とさせるのも…時々夢に出ては楽しそうに遊んでるし…実害はないからこのままでいいかなと思っているんですよ」
とKさんは言った。
今では、自分のためだけではなく、少年の幽霊のため特撮グッズを集めているという。
【おわり】
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