かけてはいけない電話番号(後編)


かつん…かつん…かつん…




毎日のように聞いている音だった。

アパートの、古びてさび付いた階段の音だ…。


その階段を上る音が、電話のスピーカーと窓の外に、全く同じタイミングで聞こえている。


N男君は、慌てて窓を閉めると、テレビも部屋の電気も消した。


電話もすぐに切断し、辺りを見回す。


だが、物の少ないN男君の部屋に隠れる場所はない。

風呂やトイレに入るには間に合わない。


N男君は、電話を切断し、その場で床に寝転がった。


寝たふりをしよう。


かつん…かつん…という階段の音が止み、引きずるような足音が近づいてくる。


足音は、N男君の部屋の前で止まった。


携帯の着信音がけたたましく鳴る。


N男君は心臓が止まるほど驚き、怯え、すぐに切断すると、携帯の電源を切ってしまった。


N男君はわずかに目を開き、玄関の横にある…キッチンに接した格子の付いた窓を見た。


その窓はすりガラスだ。


廊下のぼんやりとした灯りに照らされ、黒い人影が立っている。


人と呼べるのだろうか。


人影は頭が奇怪だった。


通常の、人の頭のシルエットより数倍は大きな頭部をしていた。


痩せた身体に、熱気球のような巨大な頭が乗っているのだ。


「…きたよ…」


歪に高い音程で、シルエットは声を発した。


N男君は怯えた。

目をつむり、ひたすら寝たふりを決め込んでいた。


「…きたよ…きたよ…」


窓の外から、聞いたことのないような発音で、妙な声が呼ぶ。


N男君は無視し続けた。


その見知らぬシルエットは、延々と窓の外に立ち「…きたよ…」とN男君に呼び掛けるのだった。


N男君は眠れなかった。

延々と窓の外の怪異が呼び掛けてくるからだ。


結局、N男君は明け方に恐怖と寝不足と、アルコールから来る体調不良で気を失った。





昼頃、N男君は目を覚ました。

その時は、窓の外に何もいなかったという。


N男君は恐ろしくなり、携帯を再度確認した。


N男君は愕然とした。


N男君があの電話番号に初めて発信した際の履歴以外はすべて残っていなかったそうである。


だから、N男君が友人にこの話をしても一切信じてもらえないそうだ。


この件以来、N男君は怪談や伝説を軽んじるのをやめたそうである。



【おわり】

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