石棺

Tさんが子どもの頃、近所には遺跡群があった。


弥生時代のものらしく、町一帯に遺跡は点在していた。


住居の跡や、有力者の墓もあった。

動物の骨や木の実の殻などを捨てた食べかす、土器なども出土した。


遺跡の周辺は公園になっているところもあり、近所の子ども達もよく遊んだ。


Tさんは、小高い丘のようになっている古墳でそり遊びをしていたが、ある時怖くなって友達に聞いた。


「古墳ってお墓だよね?そりなんてして、お墓にいる人が怒らないかな」


友人は笑って言った。

「大丈夫だよ。遺跡は沢山あるけど、遊んだからって、怖い目に遭った子はいないよ。きっと、埋まってる人たちは優しいんだよ」


その言葉でTさんは安心した。


ある日、学習塾の帰り、暗い町の中をTさんは一人で帰宅していた。


Tさんはある遺跡の前を通りがかった。


その遺跡は石でできた棺のような四角い箱状のものだった。


暗い中、石棺のようなものがぼんやりと街灯に照らされ、不気味だった。

周囲はフェンスで囲んであり、石棺に関する説明文が書かれた掲示物がある。


Tさんはいつも通りがかる時、石棺から何かが出てくるんじゃないかと怯えていた。


だが、友人の「遺跡の人は優しい」という言葉で勇気づけられていた。

試しに、近くで見てみることにした。


Tさんはおそるおそる近づく。


その石の陰に何かがいた。


赤黒い色をしたぼんやりとした人影だった。


もやのように輪郭はあいまいで、石の棺のそばに膝を抱えるように座っている。


その表情はよく見えないが、無表情を思わせるまなざしでTさんを見ていた。


Tさんは驚愕し、一目散に逃げかえった。


翌日、Tさんはその事情を友人に話した。


「…そんなことがあってね。」Tさんは頭をかいて恥ずかしそうにした「でも、僕怖がることなかったな…。この遺跡一帯の人たちって優しい人って話だもんね」


友人は怪訝な顔をして答えた。

「確かに、遺跡の人たちは優しいって噂はあるけどさ…。Tくんが言ってる石棺は…鏡とか、剣とか、ツボみたいな出土品が入っていただけだよ。墓じゃないんだ。だれも埋まっていないはずだよ」



それ以来、Tさんはその石棺を避けるように回り道していたという。




【おわり】

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