言わなきゃよかった

A子はおばあちゃん子だった。

小さな頃から祖母に甘えて育ち、親に叱られては泣きついていた。

祖母との過ごす時間が何より好きだった


早くから夫を亡くした祖母もA子を非常にかわいがった。


だが、A子が成長するにつれ、関係が少しずつ変化していった。

A子は学校や友達との関係で忙しくなり、祖母の家に行くことも極端に減っていった。


祖母も体を悪くし始め、A子に会いに来たりできなくなっていった。


A子が高校生になったころ、なんと祖母が同居することになった。


A子は喜んだかと思うと、そうではなかった。友達付き合いも増え、勉強や部活に忙しく、構うヒマなどなかったからだ。

それでも、小さな頃のよしみに再会を喜ぼうと思った。


祖母は変わっていた。脳の病を患っていた。優しげだった表情は、いつも眉間にしわを寄せ、世間に警戒と敵意のまなざしを向けた表情に変わっていた。

町を徘徊したり、些細な事で激高、物を投げる、つかみかかる。挙句は、トイレで用を足したものすら投げつけるなど、病状は深刻だった。


A子は好いていた優しいおばあちゃんに戻る時が来る。そう思って、少々のことは辛抱して介護した。

丸1年が経った頃、祖母の行動にA子は限界を迎えていた。


そのころ、祖母は階段から転げ落ち、寝たきりになった。

頭部を強打したらしく、意識も起きているのか、寝ているのか分からないあいまいな状態を保っていた。


A子は相手が物言わぬ存在となったことから、反撃した。


暴力こそ振るわなかったが、相手は寝たきりの意識朦朧。思い付く限りの罵詈雑言を祖母に浴びせた。

スカッとした。それ以来、A子はストレスを溜めると、祖母をしつこく罵倒するようになった。


家族のいない時を狙い、朦朧とした祖母に気が済むまで暴言を浴びせるのだった。

A子は気分がいくらか良かった。


数カ月が過ぎたころ、とうとう祖母の容態が悪くなり、親戚一同呼ばれた。

皆が励ましの声をかける。祖母は相変わらず寝たきりで朦朧。


A子が声をかける順番が来た。A子が近づく。


祖母はカッと目を見開いて、A子を睨みつけると言った。


「あんたが言うたことは、あの世でも絶対忘れんからな」


祖母は、朦朧とした状態に戻った。そのまま1時間ほどして親戚に見守られつつ亡くなった。

おばあちゃんの最後の言葉だった。


A子は数十年経った今でも、祖母の恐ろしい顔が忘れられず、罵倒したことを後悔しているという。



【おわり】

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