さしかけ怪談

差掛篤

町病院の患者

私の親戚には看護師がいる。


彼女は町病院の看護師だ。

小さな病院で、手術台などはなく、入院の受け入れもない。


診察室と繋がった小さな処置室があり、点滴用のベッドが4つある。



朝は8時30分から診療時間となり、昼14時に一旦診察時間は終わる。


職員たちはその時間から休憩となり、午後からの診療に備え、点滴用ベッドに替えの毛布を敷き、しばし仮眠をとる。

医師や仮眠をとらない職員は午後の診療開始まで帰宅する。


親戚の看護師も、いつもベッドで仮眠をとっていた。

ベッドは休憩の職員で埋まるのだ。


お盆の時期になると、それはやってくるという。


ベッドでうとうとしている中、ゆったりとした特徴的なリズムで歩くスリッパの音が聞こえてくる。


ベッドに寝ている職員以外はだれもいないはず。


入口ドアのカギも閉めている。


親戚が気になって玄関を見に行くが、誰もおらず、スリッパが出された形跡もない。


親戚が首をかしげてまた、ベッドに戻ると…


今度は足音と共に頭のそばを誰かが通りがかる気配がするという。


顔を上げるが誰もいない。

他の職員たちが寝ているだけ。


親戚によると、その特徴的な足音は、かつて通院していた患者のものだという。


毎日のように通院していた、手のかかる老女だったという。


だが、この小さな病院には霊安室もない。

まして、老女もこの病院で亡くなった訳では無いらしい。


私は疑問に思い、この病院に「出る」のはおかしいのではないかと親戚に聞いた。


「確かに、亡くなったのは別の総合病院よ」と親戚。

「でもね。私達のような小さな病院は、地域の人達を何十年と診察して長く付き合ってゆくのよ。だから、人間関係も深くなるの。あのおばあちゃんは手がかかるけど、この病院が好きで通院を楽しみにしてたからね…。今でも顔を出すんでしょうね」



【終わり】 


情報提供者 50歳代女性 看護師

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