向かいの窓

Kさんの家は、病院の向かいに建っていた。


病院には老人が沢山入院しており、その病院が終の棲家となる老人も多かったそうだ。


だが、経営陣が不正をして、病院はつぶれた。

横領か何かをしたらしく、建物も差し押さえの対象となってしまった。


入院患者や通院患者は皆、他の病院に移ったそうである。


病院は、買い手が付かず、ただ廃墟だけが残された。


Kさんは毎晩、カーテンを開けて窓の戸締りを確認する。

その際、嫌な思いをした。


潰れるまでは、入院患者も多く明かりが煌々とついて、多数の人間がせわしなく窓の向こうで動き人の気配がした。


だが今は、巨大な病院が真っ暗な中、建っているだけ。



灯りも一切ない。

これが自分の家の向かいだと思うと、Kさんは気が滅入った。


そこでKさんは妙なお願いを神棚にした。


ホコリを被って、長年放置していたが神棚があったのだ。


簡単に柏手を打つと

「真向かいの廃病院が不気味なので、どうかまた誰かがいるようにしてください」

そう願った。


翌日、Kさんがカーテンを開けて、夜の戸締りを確認しようと思ったときである。


向かいの廃病院の窓が、一つだけ明かりがついていた。


暗い窓が並ぶ中、その窓だけが明るい。


窓から老人がこちらを見ていた。

その眼は落ちくぼんで暗い穴のようで、顔は土色をして白っぽかった。


Kさんはかつて、親族を病気で亡くしていたが…その死者のように生気がなかった。


窓からのぞく顔は「何の用だ」とも言いたげな表情だった。


Kさんは怖くなってカーテンを閉めた。


すぐに神棚に行くと、

「昨日のお祈りはやめます、すみませんでした」


そう祈ったらしい。


翌日以降、廃病院の窓に何かが現れることはなかったという。



【おわり】

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